Yahoo!パラスポーツ特集

世界初の障害者女子ソフトボールチーム、武蔵野プリティープリンセス

2018.01.30
メインビジュアル

2020年に開催される東京オリンピックで、3大会ぶりに正式競技として復活するソフトボール。日本では世代や性別を問わず親しまれている身近なスポーツですが、じつは強豪国のアメリカやカナダ、オーストラリアにも障害のある女子選手だけのソフトボールチームはありません(2017年12月9日現在)。世界でたった1つ、知的障害のある女性だけのソフトボールチーム、武蔵野プリティープリンセス結成の経緯、活動状況、チームの目指す目標などについて、監督の工藤陽介さんにお話を伺いました。

画像1

工藤陽介(YOSUKE KUDO)監督

オーストラリアの体育大学在学中にソフトボールと出会い、日本代表の通訳としてシドニーオリンピックに参加。同時にシドニーパラリンピックにも参加し、パラスポーツの素晴らしさや、パラスポーツの盛んなオーストラリアの環境に感銘を受け、将来的に知的障害者のスポーツに携わるという目標を持って帰国する。帰国後、知的障害者に対してのコーチング技術や指導方法の習得、環境づくりに奔走。2015年9月、世界初の障害者女子ソフトボールチーム、武蔵野プリティープリンセスを結成した。

画像2

男子チームはあるのに、なぜか女子チームがない

-なぜ障害者女子ソフトボールチームを結成しようと思ったのでしょうか?

工藤:チーム結成前の私は、将来的に知的障害者の方にスポーツを介して携わりたいと思っていましたので、コーチング技術や指導方法などを学んでいました。並行して、大好きな趣味のソフトボールの活動も続けていて、埼玉県で健常者の方とクラブチームを結成して楽しんでいました。ある時、ふと知的障害者のソフトボールチームのことが気になり調べてみると、男子の知的障害者が参加するソフトボールチームは国内に200チームほどあり、埼玉県内にも7~8チームあることがわかりました。

しかし、それはあくまでも男子のチーム。1人~2人の女子選手が参加しているチームもあるのですが、男子と女子とでは、どうしても力の差があり、女子選手がなかなか試合に出られないという問題や、フィジカル的に危険な面もあるようでした。そこで、なぜ知的障害者の世界では、女子だけのソフトボールチームができないのかと疑問に感じ、存在しないのであれば僕がつくってしまおうと、2年前に埼玉県のチームとして武蔵野プリティープリンセスを結成しました。自分の大好きなソフトボールと、将来の目標として学んできた知的障害者のスポーツがカタチになりました。

画像3

取材当日の練習に参加していた武蔵野プリティープリンセスの選手たち

知的障害者に”ソフトボールは無理”という先入観

-世界初の試みということで、部員集めも大変だったのでは?

工藤:2015年の9月に最初の練習を行ったのですが、その時の部員は3名でした。埼玉県内の特別支援学校や福祉施設などに、直接足を運び、手紙を書いたりもしたのですが、知的障害者がルールの複雑なソフトボールをするのは難しすぎて無理だ、そういう先入観やイメージが強くて……。そんななかでも3名がやってみたいと言ってくれました。そこから徐々に部員が増えて、現在は14名の選手が所属している状況です。選手の多くは、一般的な障害の世界では、軽度といわれている知的障害を抱える子たちです。難しいソフトボールのルールをある程度理解でき、私たちコーチ陣の指導をそれなりに理解できる。そういった面もあり、現在は軽度の子がほとんどです。

画像4

週一回、毎週土曜日にチーム単独で練習

-現在の活動内容、環境は?

工藤:今日は合同練習なので練習場所が違いますが、基本的には週一回、埼玉県営の秋ヶ瀬公園のグラウンドをメインに、ほぼ毎週土曜日にチーム単独で練習を行っています。ただ、秋ヶ瀬公園のグラウンドは抽選方式なので、借りられないときもまれにあります。そういった場合の練習場所の確保、バットやグローブ、ヘルメットなどの道具の充実など、環境面に関してはまだまだクリアすべき課題がたくさんあると思っています。

僕たち健常者でも平日仕事をして、土日好きなことをやると、それがストレス発散や励みになり、また一週間仕事を頑張れますよね。それは彼女たちもまったく同じで、週一回だけの活動ですけど、この場があることで、また一週間頑張れるっていうのを、彼女本人たちからも聞きますし、そういう風に僕たちも実感しているので、環境をしっかりと整えて、この活動を大切に守っていきたいと思っています。

画像5

取材当日の練習に参加していた武蔵野プリティープリンセスのコーチ陣、サポートメンバー

できるだけマンツーマンの指導ができるように

-工藤監督以外のサポートメンバーは?

工藤:SNSでチームのさまざまな情報を発信しているので、それを見て手伝いたいと申し出てくれる方や、知り合いを通じて手伝いたいといってくれる方、もともと障害者との関わりのあった方もいます。一般の会社員から学生まで、属性はさまざまなのですが、”自分の好きなソフトボールや野球を障害のある子たちと一緒に楽しみたい”、そういったマインドの人たちが多く、今は20名以上、選手以上の人数が在籍しています。

というのも、知的障害の方々は1人ひとり障害の度合いが違いますし、理解の仕方も違う。ですから、私とコーチが2~3人いて14名の選手を指導するというのは難しい。できるだけマンツーマンの指導ができるように、コーチの方にたくさんいてもらっているという状況です。

画像6
画像7

取材当日の合同練習に参加していた戸田中央総合病院女子ソフトボール部の皆さん(リンクは外部サイト)

相乗効果を生み出す合同練習

-今日の合同練習の相手チームは?

工藤:オリンピックに出場するような一流の選手が集まる、ソフトボールのトップリーグで活躍する戸田中央総合病院女子ソフトボール部の皆さんです。実業団のチームではありますけど、ソフトボールをほぼ職業としてやっている方々。こういったトップ選手たちと合同で練習を行うことで、私たちチームとしては、素晴らしいプレーや雰囲気作りなどを学べるというメリットがあります。

逆に、トップ選手たちには知的障害のある子たちが頑張ってソフトボールを楽しんでいる姿を目にして、彼女たちと直接触れ合ってもらうことで、自分たちの恵まれた環境など、さまざまなことを感じとってもらい、ますます頑張ってもらいたいという思いもあります。もちろん、戸田中央総合病院女子ソフトボール部の監督、選手たちや関係者の方々のご理解あっての合同練習ですので、とても感謝しています。

画像8

直近の目標は埼玉県予選での優勝

-チームの目標は?

工藤:来年の3月に男子の知的障害者のチームが集う全国大会の埼玉県予選があるのですが、その予選で決勝に進みたいっていうのが直近の目標です。予選で優勝して関東大会で優勝すれば全国大会に出場できます。昨年は埼玉県予選初出場で3位になり、選手たちも大喜びでした。障害者だとしても勝ちにこだわる姿勢や気持ちを、必ずもたせながら一緒にチームを育てられたらと思っています。

最終的な目標は、パラリンピックにおいて現在実施されていないソフトボール競技が実施されるよう働きかけ、その舞台で金メダルを獲得すること。大きな目標に向かって、これからも頑張っていきます。

画像9

本当に楽しい、心から楽しんでいる姿

-この記事を読んでいる読者の方に知ってほしいこと、伝えたいことはありますか?

工藤:まず、知的障害のある子でもルールが難しいソフトボールができるということ、しっかりとステップを踏んで指導してあげれば、必ず上達するということを理解してもらいたいです。これは、障害者とこれから関わりたいと思っている方はもちろんですが、すでに関わっている方にも改めて知ってほしいと思います。

あとは、本当に楽しい、心から楽しんでいるっていうことも伝わってほしいと思います。まず、このチームを作るときに楽しいチームを作りたいと思っていました。でもそれは作られたものではなく、彼女たちのキャラクターが自然とそうさせるといいますか。知的障害を抱えた子たちは、本当に素直だし、明るいし、純粋な部分があるんです。

今までなかなかこういったスポーツができる環境になかった子たちが、こうやって気持ちの良い天気のなかでスポーツを楽しんでいる。本当に、純粋に楽しんでいるから、ああいう表情になっていて、それを邪魔しないようにサポートメンバーが入り込んでいる。やってみたいと思う方がいれば、ぜひ一緒にソフトボールを楽しみましょう。

画像10
20180130

ページトップへ