支援企業・団体の声
愛知・名古屋アジア・アジアパラ競技大会組織委員会
2025.11.10
日本初のアジアパラ競技大会、目指すは「共生社会」の実現
2026年10月、愛知県で日本初となる「愛知・名古屋2026アジアパラ競技大会」が開催されます。この歴史的な大会を支えるのは、行政だけでなく、地域の企業やボランティアなど多様なステークホルダーです。今回は、公益財団法人愛知・名古屋アジア・アジアパラ競技大会組織委員会で事務局次長を務める井田朋宏(いだ ともひろ)さんに、大会に込められた思いや企業との協働などについて伺いました。
井田さんは2024年10月に組織委員会に参画する以前、日本パラリンピック委員会(JPC)で事務局長や強化部長を担当していたパラスポーツのエキスパートです。その豊富な経験から見える今大会の可能性とは――。
日本初開催への道のり
アジアパラ競技大会は、アジア地域におけるパラリンピック・ムーブメントの推進と競技スポーツのさらなる進展を図ることなどを目的に、2010年にスタートしました。基本的にはアジア競技大会と同じ都市で開催することを、主催者であるアジアパラリンピック委員会(Asian Paralympic Committee:APC)が希望しています。しかし、オリンピック・パラリンピックとは異なり、開催都市が「Yes」と言えばやる、「No」と言えばやらないという選択制になっています。
愛知県および名古屋市は2016年、アジア競技大会の開催地として立候補し、2018年に開催都市契約を締結しましたが、当初はアジアパラ競技大会について態度表明をしていませんでした。転機となったのは2019年。JPCが愛知県知事と名古屋市長を訪問し、「ぜひアジア大会の後にパラもやってほしい」と要請したのです。

「過去4回の大会がすべて同様の状況の中で開催されており、また東京オリンピック・パラリンピックという流れの中で、アジア競技大会をやるのになぜパラスポーツをやらないのかという世間の声も大きく影響したのではないでしょうか」と井田さんは振り返ります。
協議の結果、2022年3月に開催を表明し、2022年4月にAPCの理事会でも承認されました。2023年10月に開催都市契約を締結するという変則的なやり方ではありましたが、なんとかアジア競技大会に続いてアジアパラ競技大会も実現することになったのです。
選手が快適にホテル滞在や競技をするために
本大会では、選手村を作らないという決断がなされました。資材高騰や円安などの財源的な問題に加え、仮設の選手村では大会後の利用が困難という判断からです。
この決定により、組織委員会は新たな課題に直面しました。多数のホテルを確保しなければならない中で、特にパラアスリートの宿泊にはアクセシビリティが求められるからです。
「視覚障がいの選手、車いすの選手、肢体不自由な選手など、さまざまな障がい特性があります。彼ら、彼女らが安全に過ごせる場所でなくてはなりません」と井田さんは説明します。
名古屋にはアクセシブルかつシティホテルクラスのホテルは決して多くありません。例えば、ドア幅や通路幅が比較的広いシティホテルであっても、トイレの入り口が狭い場合があります。そこで組織委員会は、ホテルを一軒一軒当たり対応を進めています。また、県や市でバリアフリー改修や備品購入に対する補助金制度を創設しアクセシビリティ向上を後押ししています。
具体的な工夫として、シングルユースの部屋では浴室のドアを外してカーテンで対応したり、簡単なゴムマットで段差を解消したりといった対策があります。
「ツインルームでもシングルユースであれば、ベッドを脇によけて車いすの方がストレスなく部屋の中で過ごせるようにします。アクセシブルルームと言いながら、ハンガーラックがとても高い位置にある場合は、つっかい棒のようなもので代替します。何気ないことが多いのですが、選手一人一人の障がいの状況を見ながら対応していくことが必要です」

競技施設についても課題は存在します。名古屋はスポーツが盛んなエリアですが、施設の多くが古く、通路などがバリアフリーになっていなかったり、アクセシブルトイレと言いながらも男女兼用になっていたりするようです。こうした場合には、仮設のアクセシブルトイレを設置せざるを得ません。大会を契機に新設された名古屋市瑞穂公園陸上競技場や愛知国際アリーナなどはアクセシビリティが確保されていますが、その他の施設において改修工事が困難な場合は「ソフト対応」、すなわちボランティアによる誘導などでカバーする予定です。
「この大会で大事なのは、選手がストレスなく競技に集中できることはもちろんですが、大会終了後にできるだけレガシーが残ってほしいということです。仮設では大会後になくなってしまいますが、施設オーナーが次に改修する際に、今回の教訓を生かして整備してもらえれば、それだけでも意義があると思います」と井田さんはアピールします。
企業にはスポンサーだけではない関わり方を
大会を円滑に運営する上で不可欠なのが企業との連携です。スポンサーとしての関わり方だけでなく、さまざまな形で参画してもらうことを望むといいます。
「大会の機運醸成とレガシーという意味で、企業の方にはできるだけボランティアとして参加していただき、この大会をきっかけにDEI(ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン)を促進してほしいです」
東京パラリンピックでは、企業主催のパラスポーツ体験会や、会社のロビーでの競技紹介などが行われました。特に井田さんが印象的だったというのは、トヨタ自動車が社内に設置した「ボッチャBar」です。飲食スペースにボッチャコートが設けられ、社員が楽しみながらパラスポーツに触れる環境を作ったのです。
「単にお金を出すということではなく、自分事化していき、会社の中でのDEI推進につなげてもらえると嬉しいですし、そういった取組が今後も続けばいいと考えています」
なお、今回のアジアパラ競技大会においても、トヨタ自動車は積極的な支援を表明しています。
「トヨタ自動車はアジアパラ競技大会も積極的に応援したいと言ってくれているそうです。同社の自社メディア『トヨタイムズ』などでいろいろPRしていただけるという期待感がありますね」と井田さんは嬉しそうに話しました。
スポーツを通じて子どもたちが多様性を学ぶ
大会のもう一つの重要な側面は、次世代への教育です。組織委員会では、国際パラリンピック委員会(International Paralympic Committee:IPC)が作成している教育プログラム「I’mPOSSIBLE」の日本版を活用し、愛知県および名古屋市の学校と連携した取組を進めています。

「このプログラムは、単にパラスポーツの魅力を知るというだけではなく、『公平って何だろう?』といったテーマごとにテキストがあり、それを通じて学んでいくものです」
例えば、車いすバスケットボール選手が学校を訪問する際、「車を降りたら、どこから校舎に入ってくるか。この階段で大丈夫なのか」といったことを子どもたち自身に考えてもらいます。道徳として教えるのではなく、スポーツと関連付けることで、子どもたちが前向きに考えられるような工夫がされています。
井田さんは、子どもたちへの教育について、段階的なアプローチの必要性を語ります。

「第1段階として、子どもたちは大人よりも障がいに対してのバリアがないので、多様性を受け入れ、お互いの個性を認め合えるような人間に育っていくことを目指します。その子どもたちが成人してさまざまな職業に就いた時に、今回の気付きが活かされ、それが世の中を変える原動力になります」
しかし、より深い理解を目指す第2段階もあるといいます。
「障がいの有無に関わらず、一人の人間として接することが大切です。もし私が車いすだったとしても、井田は井田でしかない。メガネをかけるのと一緒で、たまたま車いすに乗っている井田であるだけです。障がい者というレッテルを貼られると難しく考えがちですが、『何も変わらないよね』という感覚を子どもたちに持ってもらいたいのです」
この教育の効果は、将来の高齢社会にも大きな影響を与えると井田さんは考えています。
「もし交通事故に遭って車いす生活になったり、視覚障がいになったりしても、絶望しないで、障がい者になる前と同じような暮らしができる世の中になっていればいいですよね。また、障がいのある人に優しい社会は高齢者にも当然優しいのです」
実際に、今回大会で使用する移動式住宅の内装は、バリアフリーの専門建築家と協力して、車いすの人でも快適に使えるよう設計されています。こうした取組は、例えば、被災地などで活用される際に、高齢者もストレスなく生活できる環境づくりにつながるわけです。
パラリンピック競技に特化した理由
大会の中身にも触れておきましょう。愛知・名古屋2026アジアパラ競技大会の特色は何でしょうか。一つには、パラリンピックの実施競技のみに絞ったことです。18競技を実施しますが、これは夏季パラリンピック23競技のうち18競技に当たります。
「過去の大会では、パラリンピックの競技ではない視覚障がい者ボウリングやローンボウルズ、囲碁などもありましたが、今回はパラリンピック競技のみに限定しています。各国から国際公認されている競技、つまり、2028年のロサンゼルスパラリンピックにつながる競技をやってほしいという要望が多かったためです」
大会を盛り上げるためには、認知度向上が必要であり、そのためにも井田さんは選手にフォーカスした広報の重要性を強調します。
「選手のストーリーをもっとPRしていく必要があります。『頑張れ』だけでなく、『○○選手、頑張れ』というレベルまでいかないといけません。友だちが出場すれば応援するのと同じで、もう少し距離感を詰めて、選手の顔が見えるようにしないと駄目。競技は知っていても選手がわからないと、なかなか会場に足を運んでもらえませんから」
そうした中で地元出身選手への関心は特に集まりやすい傾向にあり、愛知出身では車いすテニスの小田凱人(おだ ときと)選手が注目されています。日本のエース・小田選手の活躍は、アジアパラ競技大会を盛り上げる大きなポイントとなっています。
「共生社会」というレガシーを残そう
ボランティアについて、一般ボランティアは目標数を達成していますが、競技運営や言語対応などの専門ボランティアはまだ募集中です。
特に競技ボランティアについては、パラスポーツの県レベル競技団体がほとんど存在しないという課題があります。そこで、陸上競技や卓球など健常者と共通する競技については、健常者の県競技団体にも協力を依頼しています。
「地元の方にボランティアを体験してもらい、次につなげられればと思います。また、競技会場のある市区町村の方々には、その競技に関わっていただけるといいですね」
大会のもう一つの重要な意義として、井田さんは組織委員会職員の意識変革を挙げています。
「必ずしも手を挙げて組織委員会に来たわけではない職員もたくさんいます。しかし、いろいろな経験を通して気付きもあるでしょうし、大会終了後にそれぞれの出向元に戻った際、何らかの仕事の中でそれが役に立てば嬉しいです」
県や市から出向している職員の多くはスポーツの専門家ではありませんが、非常に優秀で、指示されたことは想像以上にしっかりとやってくれるといいます。しかし、障がい者に対する支援に関しては思いつかないことも多く、そこに井田さんのような専門家の役割があります。
「決して彼ら、彼女らに悪気があるわけではなく、経験がないだけ。ですから、『ここはこういう風に工夫したほうがいい』などと逐一アドバイスするようにしています」
愛知・名古屋2026アジアパラ競技大会は、単なるスポーツイベントを超えた意義を持っています。井田さんが最も大切にしているメッセージは明確です。
「共生社会実現を育む大会、そのきっかけにするというのが一番大きいですね。パラスポーツの魅力を知ってもらい、ファンになってもらうことはもちろんですが、大会が閉幕して終わりではなく、それを契機に町が変わる、人々の障がいに対する気持ちが変わり、それが行動にも影響して変わっていくことが最も重要です」
来年のこの大会は、パラスポーツの魅力を伝えるだけでなく、企業、自治体、住民が一体となって共生社会を実現する新たなモデルケースとなることでしょう。その成功は、日本全体の社会変革につながる大きな一歩となるはずです。

公益財団法人愛知・名古屋アジア・アジアパラ競技大会組織委員会
| 住所 | 愛知県名古屋市中区三の丸3丁目2ー1 |
|---|---|
| 電話 | 052-951-2026 |
| メール | ainagoc@aichi-nagoya2026.org |
| URL | https://www.asianparagames-2026.org/ |

