支援企業・団体の声
味の素株式会社
2025.11.28
「パラアスリートを輝かせることは社会のため」――味の素社がパラスポーツ支援を続ける思い
「障がいは、ハンデキャップではない」――。味の素株式会社コーポレート本部グローバルコミュニケーション部スポーツ栄養推進グループでマネージャーを務める蘆名真平(あしな しんぺい)さんは、力強くこう語ります。幼少の頃から台湾、オーストラリア、ブラジルと人生の大半を海外で過ごし、国籍や文化などの多様性を肌で感じてきた蘆名さんだからこそ、この言葉には説得力があります。

「(パラアスリートの障がいを)ハンデと表現する方が割と多いのですが、別にハンデではなく、パラ陸上・パラスノーボードの小須田潤太(こすだ じゅんた)選手も、『足がなくなって良かった』と言っているほどです。僕の日本語が完璧ではなかったり、背が低かったりするのと同じで、だから何だっていう世界なんですよね」
こうした柔軟な考え方を抱く蘆名さんは、味の素社におけるパラスポーツ支援の中心人物です。具体的に同社はどのようなことに取り組んでいるのでしょうか。
100年以上の研究をスポーツ分野にも生かす
味の素グループは2003年から日本オリンピック委員会(JOC)のパートナーとして、トップアスリートの強化支援を開始し、2016年のリオデジャネイロオリンピック・パラリンピック競技大会からは本格的にパラアスリートの支援にも乗り出しました。
現在は、JPC(日本パラリンピック委員会)のパートナーに加えて、一般社団法人日本パラ水泳連盟、一般社団法人日本車いすバスケットボール連盟、特定非営利活動法人日本ブラインドサッカー協会と契約を結んでいます。さらには、先述の小須田選手のほか、車いすバスケットボールの鳥海連志(ちょうかい れんし)選手、パラ陸上の山本篤(やまもと あつし)選手との個別契約によって栄養サポートなどを行っています。
味の素グループのスポーツ支援の中核を成すのが、JOCとの共同事業である「ビクトリープロジェクト®」です。これはトップアスリートや日本代表候補選手の競技力向上を、食とアミノ酸でサポートすることをミッションとしています。
「私たち味の素グループは、「おいしく食べて健康づくり」という創業者の志のもと、 “うま味”を起点に、世界初のうま味調味料「味の素®」を開発しました。以来、100年以上アミノ酸の力を活かした研究と技術革新を通じて、栄養改善や健康支援に取り組み、世界中の人々のニーズに応える製品やサービスを提供しています。このユニークネスはスポーツ分野にも貢献できるということで、20年以上も活動しています」と蘆名さんは語ります。
当初、スポーツ支援はアミノバイタル事業の一環としてスタートしました。しかし、事業となると収益がセットになり、「本当に会社のビジネスにとってメリットがあるのか」という声に常に対峙する必要がありました。
そうした中、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の開催決定により、同社のスポーツ支援の位置付けは大きく変わり、「オリンピック・パラリンピック推進室」という独立した組織が立ち上がりました。そして現在は、味の素グループ全体のブランドに貢献する活動として、グローバルコミュニケーション部(広報部)の管轄になっています。
「グローバルコミュニケーション部には、スペイン人、ブラジル人、アルゼンチン人もいて、聴覚障がいのある社員もいます。多様な人材がいることで生まれるイノベーションを一番体感しやすい部署かもしれません」と蘆名さんは力を込めます。
ブラジルから帰国して感じたギャップ
蘆名さんがパラスポーツ支援に強い思いを持つ背景には、海外での経験があります。オーストラリアやブラジルといった多民族国家で暮らす中で、日本との違いを痛感したと言います。

「私も娘に障がいがあるので感じるのですが、障がい者に対する風当たりは日本の方が強いんです。海外ではもっと自然に受け入れられている。そのギャップがありました」
パラアスリートに対する認識や配慮においても、日本はまだまだ発展途上だと感じています。だからこそ、やる意義があると考えています。
「放映権などの制約もあるのか、メディアでパラスポーツが扱われることも少ないと感じます。それならば味の素社のようにリソースのある会社が情報発信し、パラアスリートを輝かせることが社会のためになるのではないか。そう思って仕事をしています」
競技成績以上に人間としての魅力に注目
冒頭で紹介したように、味の素社ではパラアスリートとの個別サポート契約を結んでいます。その選定においては独自の基準があり、単に競技成績が良いだけでは契約に至らないと言います。
「私たちがやりたいのは、選手のなりたい姿を応援して社会を良くしていくこと。それを考えると、人間性が大切で、単にトップアスリートだから採用ということにはなりません」
例えば、パラ水泳の鈴木孝幸(すずき たかゆき)選手との契約は、2022年の杭州アジアパラ競技大会がきっかけでした。「アスリートを引退した後も、身体のことを考えていかねばならない。一緒に何かできれば嬉しい」という鈴木選手の願いに胸を打たれ、所属先のゴールドウインとも協議を重ねて契約に至りました。

パリ2024パラリンピック競技大会では、アジア新記録を出した鈴木選手。「37歳でアジア記録を更新ですよ。それに比べたら43歳の今の僕は何がベストかなと思いますね……(笑)。もちろん選手としてもすごいのですが、人間・鈴木孝幸のほうがさらに魅力的なのです。引退した後に彼がどういう風に生きていくのかを見たい。僕たちが持っていないものを持っているので、微力ながら応援したいなと思いますよね」と蘆名さんは敬意を込めて語ります。
「障がい者のイベント」と言わない工夫
パラアスリート個人の支援にとどまらず、パラスポーツ全体の啓発活動にも積極的な味の素社ですが、その際に蘆名さんが最も重視しているのが「見せ方」です。
「DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)や障がい者というテーマを前面に出したイベントをしても、人は集まりません。例えば、パラアスリートと料理を作るベントも、『味の素社開催のクッキングイベント』とか『夏休み親子料理教室』とすると人が集まるんです。実際に料理するのはパラアスリート。そうすると、参加者の満足度は圧倒的に高くなりますね」
なぜなら、そこには驚きと気づきがあるからだと言います。
(※TEAM BEYONDでは味の素社の協力により、令和7年8月に「パラアスリートと料理教室 おいしく食べて強くなろう!」を実施。イベントでは鈴木孝幸選手と鳥居健人選手に出演していただきました)
【参考】 https://www.para-sports.tokyo/join/report/202508cooking/
「(四肢欠損の)鈴木選手がどうやって包丁を持っているか、見たことないでしょう? あるいは、ブラインドサッカーの鳥居健人(とりい けんと)選手は、中学生の頃から妹のために料理を作っていて、僕が作るよりも上手です。鳥居選手と一緒にいると、『蘆名さん、また顔色うかがっていますね。空気を読んでいるんですか?』と指摘されることだってあります。僕が見えないものが彼にはたくさん見えているわけです。『見える』という概念自体が、こちらの思い込みなんですよね」
上記の料理教室は、親子の参加者から評判の高いイベントで、選手を身近に感じることができたお子さんも多かったようです。
「子どもが小さいうちに(多様性に)気付いてもらえれば、社会は絶対に良くなると思います。こうした活動はブラジル駐在時代から10年近くやっていますが、毎回、親御さんたちが喜んでくれているし、やっていることは間違いないのではと思っています」
初めて海外に足を踏み入れたような新しい体験。それが、パラスポーツとの出会いにはあると蘆名さんは言います。
パリで選手たちを支えた「だし」
海外での国際大会期間中、パラアスリートが最も苦労するのがコンディション維持です。時差、食事の違い、そして選手村から食堂までの数百メートルの移動距離が大きなハードルになることもあります。
そこでパリ2024パラリンピック競技大会では、日本代表選手団のサポートブースに「Café du Dashi(カフェドダシ)」を設置し、「ほんだし®」など和風だしの素を使っただし湯を提供しました。

「ほんだし®をお湯で溶いたシンプルなものですが、これを飲んでから食堂へ行くと、食事が食べやすくなる。きのこだし、こんぶだしなど日替わりで提供することで、『今日もホッとしますね』『いい匂いがしてきましたね』と、視覚障がいのある選手にとっても安心できる環境になるんです」
蘆名さんによると、2026年のミラノ・コルティナパラリンピック冬季競技大会に向けて、さらにパワーアップした取組を準備中です。
「冬季大会は地面が凍っている可能性もあります。パラアスリートはどうやって移動するのか? そこでJPCさんと協力して、今までにない取組を仕込んでいます。ぜひお楽しみに」
仲間を増やし、バトンをつなぐ
蘆名さん自身がパラスポーツに情熱を注ぐ理由とは何でしょうか。JPCの森和之会長の言葉を引用して、蘆名さんは思いを語ります。
「森会長が『スポーツがあると世の中は良くなる。でもパラスポーツがあればもっと良くなる』とおっしゃっていました。僕はそこに非常に共感しています。それを一緒に実現したいんです」
一方で、社内でも長年関わっているが故に、属人的な活動になりつつあることへの危機感も抱いています。
「個人にノウハウがたまっても仕方ないので、どんどん新しい社員に経験してもらい、バトンを渡していきたいのが本音です。ただし、まだ新たに人員を増やすほどの理解を得られていないため、今は粛々と社内外に仲間を作って、なるべくメディアにも取り上げていただけるよう広くアピールするようにしています」
味の素グループには「パイオニアスピリット(開拓者精神)」という価値観があります。蘆名さん自身、アマゾン川の奥地まで営業に赴いた経験があり、さらに、先人たちはラクダに乗って砂漠を進みながら商品を売りに行ったと言います。
「100年以上の歴史の中で、世界を開拓して、社会をより良くしていくことにチャレンジしてきました。それは当社のDNAとして大切にしています」
その使命感を胸に、パラスポーツの領域でこれからも挑み続けることでしょう。

味の素株式会社
| 住所 | 東京都中央区京橋一丁目15番1号 |
|---|---|
| 担当部署 | グローバルコミュニケーション部スポーツ栄養推進グループ |
| 電話 | 03-5250-8111(代表) |

