TEAM BEYOND オンラインシンポジウム
「企業・団体×パラスポーツ ~社員のボランティアから兼業・副業まで~」

2022年3月24日、TEAM BEYONDオンラインシンポジウム「企業・団体×パラスポーツ ~社員のボランティアから兼業・副業まで~」が開催された。
 今回は、社員によるパラスポーツとの関わりがどのような効果を生み、企業・団体、パラスポーツ双方の発展につながっていくのかについて、今後の展望を有識者による基調講演とパネルディスカッションを通じて探った。
 
 基調講演では「パラスポーツ・ボランティアのすすめ」をテーマに、立教大学教授の松尾 哲矢氏が登壇。東京都スポーツ振興審議会会長など、多くの役職を務める松尾氏は、「パラスポーツ・ボランティアは、人間はそもそも異質なのだというところからスタートできることが大きい。異質性を承認し、共生社会を作る重要なきっかけになる。」と語った。

松尾 哲矢氏画像

基調講演「パラスポーツ・ボランティアのすすめ」

立教大学コミュニティ福祉学部
スポーツウエルネス学科教授
松尾 哲矢氏

冒頭、東京2020大会を始め、メダル獲得の背景にはボランティアの活躍があったと語る松尾氏。特にパラスポーツにおいて、ボランティアは欠かせない。そしてボランティアに参加したいという声も増えている、とも。
 その上で、「今までのスポーツはプレイをする・みる文化が中心でしたが、スポーツ・ボランティアを軸に考えると、より楽しさや喜びが広がります。スポーツは身体のコミュニケーション。そこに共有する喜びもありますし、特にパラスポーツは損得もなく『その人のためにみんなで尽くそうよ』と互いに心の交流も生まれます。これは経済社会とは別軸の、人と人との交流社会を生む大事な空間であり、まさに人が共に豊かに生きる礎を作るきっかけかと思います。」と、パラスポーツにおけるボランティアの魅力を語った。
 松尾氏はボランティアの必需性について、「同質性の中で生きていこうという時代にもあると思います。」とも言及。「パラスポーツ・ボランティアは、様々な障害のある方がいる中で、人間はそもそも異質なのだというところからスタートできることが大きいです。異質性を承認し、共生社会を作る重要なきっかけになると思います。」と語った。
 そして障害の「社会モデル」と示し「メガネがあれば視力のハンディを補えるように、社会が変われば「障害者」にとっての障害は減らせる、なくせる。」と述べた上で、「スポーツとの出合いで、社会的につくられた「障害者」を減らすことができます。障害の有無にかかわらず楽しめる『ゆるスポーツ』というものがあり、これはマイノリティの発想から、スポーツ弱者を世界からなくしたいとの考えから生まれました。ボランティアをすることで、そこにいっそうの気付きを得ることができるのです。」と投げかけた。
 最後に「パラスポーツ・ボランティアによる学びは、社会を変えるうえでの非常に大きな視点を与えてくれます。それこそ日常の家業やお仕事などに広げていくことができるのではないでしょうか。ぜひ皆さん方で考えていければと思います。」と締めくくった。

 続いての基調講演では、リクルートワークス研究所客員研究員や中央大学戦略経営研究科客員教授としても活動する連合総研の中村 天江氏が登壇。「普段自分が接していない人たちと、何かをする活動が伴うボランティア。その上で、『自分は』『職場は』と内政を促すボランティア活動が最高です。」と提案。東京2020大会を経て発信の環境が整いつつある今、レガシーやプラットホームを有意義に活用すべきと力強く語った。

中村 天江氏画像

基調講演「パラスポーツから生まれる『三方良し』」
~個人・企業・競技団体~

公益財団法人連合総合生活開発研究所 主幹研究員
株式会社リクルート リクルートワークス研究所 客員研究員
中村 天江氏

「パラスポーツのボランティアは、企業人が普段の生活では得られない気付きや、いつもとは違う仲間との協働に満ちています。」と言う中村氏。
 この15年で企業の社会活動に対する姿勢が劇的に変化しているとのデータを示した上で、「社会貢献したい個人と社会課題に取り組む企業。この2つの変化により近年、企業は社員の『社会感度』を重視するようになっています。」と、企業が社員の社外活動に着目している点に言及。
 特に日本においては、「諸外国に比べると人間関係の幅が狭く、地域ボランティアの仲間も少ない。良質な人間関係は人生の幸福度にも直結しますし、仕事のキャリアを切り拓くのにも役立ちます。」と指摘。
 人生を豊かにする人間関係には2つの特徴があり、1つはありのままの自分でいられること、もう1つは共通の目的があることだという。「ボランティアは自分の志向にあった活動を、利害関係なく見つけられて、『このイベントやこのスポーツを知ってほしい』など、仲間と共通の目的もある活動。新たな人間関係をつくる絶好の手段です。」と語った。
 中村氏は調査データをもとに、「ボランティア習慣のある企業人はない人に比べて、職場でチームワークに優れ、他者の考えを尊重し、仕事の進め方を改善することにも積極的」といった傾向があることを紹介。そして「企業は昨今、ダイバーシティやイノベーション志向のある人材を求めるようになっています。ボランティア活動をしている人たちは、まさにそのような人材であり、その人達を見つけて、職場で活かすことは、企業にとっても有益です。」と述べた。
 ただし、ボランティアにも様々な活動がある。「ボランティア経験後に得るものが大きいのは、普段自分が接していない人たちと一緒に活動し、さらに、ボランティア活動を通じて、自分自身や職場について内省が促される活動です。」と提案した。
 そして最後に「東京2020大会後、ボランティアに関する様々な情報プラットホームが整備されています。東京都にも東京ボランティアレガシーネットワークができました。情報発信のプラットホームをうまく使っていただきたいと思います。」と締めくくった。

パネルディスカッション

【モデレーター】
立教大学コミュニティ福祉学部
スポーツウエルネス学科教授
松尾 哲矢氏
【パネリスト】
公益財団法人連合総合生活開発研究所 主幹研究員
株式会社リクルート リクルートワークス研究所 客員研究員
中村 天江氏
オイシックス・ラ・大地株式会社経営企画本部
経営企画部 IC進化セクション/ORDスポーツチーム サブリーダー
一般社団法人日本車いすラグビー連盟 企画委員会
前田 有香氏
一般社団法人日本障害者カヌー協会
事務局長・コーディネーター
上岡 央子氏

基調講演に続き、パネルディスカッションが行われた。前田氏と上岡氏が所属する企業・団体の活動内容について紹介し、本題へ。
 中村氏は前田氏所属のオイシックス・ラ・大地に代表されるように、「出向社員を出したり、協業プロジェクトを作る企業も出てきています。鍵の1つは、ビジネスプレイヤーである企業とのコラボレーションを、どううまく実現するかではないでしょうか。」と言及。
  一方で、社員個人で考えるとボランティアに行こうという考えは決して多くない。そこには“パラスポーツは面白くない”という先入観がある。前田氏は「先入観を下げるためにも、他の社員と仲良くなる機会であるとか、親子・家族で参加できると案内すると関心を持つ社員も多いはず。ボランティアの機会を上手く活用するといい。」と提案した。
  上岡氏は「ボランティアであってもイベントでは一人として楽しまない人を作ってはいけないと考えています。楽しくない体験では続いていかないんです。」と言う。「お手伝いは常に必要ということと、ボランティアで一緒に楽しむことでどんどん心の中からも変わっていく。経験による満足感だけでなく、常に継続して一緒に楽しみたいという機会を提供していきたいですね。」と、想いを語った。

上岡 央子氏画像

昨今、企業経営で注目されているキーワードに「越境学習」がある。中村氏は「ボランティアと副業の2つが代表的です。」とした上で、「社外で越境学習してきた人材のアイデアや意気込みを、戻ってきた本業の職場で活かせないケースが少なくありません。突破する良い方法は、『管理職こそボランティアに』という取り組みです。ベテランの人が外に出ることで、多様性を信頼し、柔軟な考えが身につき、職場に帰ってきたときに『部下のアイデアを採用しよう』となります。」と言う。
 また、中村氏は「実際に副業やボランティアを推進している会社は風通しが良く、本業に自信があります。一方で、コンディションの悪い会社では、越境学習に社員を出すと辞めてしまうことがある。越境学習に対する姿勢で、魅力的な職場かどうかが差別化されていく。優秀な人材を惹きつけるためにも、企業は越境学習を積極的に打ち出せるといいと思います。」とも語った。
 パラスポーツ競技団体の副業の事例は増えている。前田氏は「スポーツは潜在的に魅力を感じている人が多い。企業はお金が出ていくからやめるではなく、少しの投資で大きなメリットが生まれるという意識で取り組むとチャンスがあると思います。」と展望を語った。

前田 有香氏画像

最後に松尾氏が「社員の皆様によるパラスポーツとの関わりが、企業、団体の発展にも繋がる。そして今日紹介された取り組みが、組織を変えることにも繋がるのではと実感しました。」と述べ、シンポジウムは幕を閉じた。

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20220415

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