支援企業・団体の声
株式会社QDレーザ
2022.10.11
レーザ網膜投影機器の開発で
“見えづらい”を“見える”に変える
2006年に株式会社富士通研究所のスピンオフベンチャーとしてスタートした、株式会社QDレーザ(以下、QDレーザ)。通信・産業・医療・民生用の広い分野で新しい半導体レーザソリューションを提供する中、ロービジョン(弱視)者の“見えづらい”を“見える”に変えるプロジェクト「With My Eyes」を発足。レーザ網膜投影技術を用いた「レティッサネオビューワー」や「レティッサ オン ハンド」などのデバイスを開発しています。
「働きたい」「移動したい」「楽しみたい」を叶えたい
“人の可能性を照らせ。”をコーポレートメッセージに掲げるQDレーザ。サイエンスとイマジネーションによってさまざまな製品を世に送り出す同社が開発したのが、レーザ網膜投影です。これは、瞳孔を通って入射した微弱なレーザ光により網膜に直接映像を描き出す技術のことで、視力に依存しない新たな視覚体験を実現。
「スタートは2012年でした」と話すのは、同社の代表取締役である菅原 充社長。レーザ網膜投影技術を用いたディスプレイに可能性を見出し、試作品をスペインで毎年開催される世界最大級のモバイル業界の展示会「Mobile World Congress2013」へ出展したところ、思いがけない進展がありました。それが、視覚障害者・聴覚障害者のための大学・筑波技術大学からの連絡です。
菅原社長が大学に網膜投影ディスプレイを持ち込んだところ、視覚障害の学生たちから「見える!」と、多くの感動の声が上がりました。そうして菅原社長の希望は確信となり、網膜投影デバイス「レティッサ」シリーズが誕生。2015年には厚生労働省に医療機器としても申請し、やがて「レティッサ メディカル」もリリース。
加えて、ロービジョン者の“見えづらい”を“見える”に変えるプロジェクト「With My Eyes」も推進しています。発足のきっかけは、全国盲学校長会のトップから聞いた話にあったとか。
「視覚障害者は、日常生活の95%は困っていない。しかし、『働きたい』『移動したい』『楽しみたい』という希望はもっていると語られました。そのお話から、よりよい世界を生み出そうと2020年に『With My Eyes』を立ち上げました。たとえば、単純に“見る”だけではなく、デジタルカメラのファインダー部を網膜投影機にして、写真を撮る楽しみを分かち合う。網膜走査型(網膜に映像を直接投影)のレーザアイウェアで、駅の表示や空港の搭乗ゲートを見えるようにして移動を自由にする。そういったことを、このプロジェクトを通していっそう実現していきたいです」(菅原社長)
「With My Eyes」ではドキュメンタリームービーをYou Tubeでも公開。2022年春発表の第3弾作品では、ロービジョンのパラ水泳アスリート・清水滉太選手が、カメラ用デバイス「レティッサネオビューワー」を携え、沖縄の街歩きや浜辺散策、シーカヤックなどを楽しむ動画が話題となりました
テクノロジーでパラスポーツの手助けを
同社では「With My Eyes」以外でも、さまざまなパラスポーツを支援しています。所属のアスリートとしては、ロービジョンの柔道家・石川信介選手が在籍。デバイスは、練習中のフォーム確認や、対戦相手の研究などに活用されています。
「同社所属のアスリート以外にも、たとえばパラトライアスロンの秋葉慈朗選手にコースの下見として使っていただいたり、ボルダリングのロービジョンの選手に、課題の下見をする行為『オブザベーション』に活用いただいたりしています」(菅原社長)
菅原社長は、人間の能力の最大化を目指すアスリートに畏敬の念を抱いているとも。極限に挑戦する選手たちのために、テクノロジーが何かの手助けになれたら――。この想いが、QDレーザが注力するパラアスリート支援の根底にあります。
「健常者のスポーツにも想いは共通しています。ただ、パラスポーツのほうが、より我々のテクノロジーが役立つのではないかと。また、スポーツだけではなく音楽などでも同様ですね。たとえばロービジョンのピアニストやバイオリニスト、調律師の方に活用いただくことで、より個々の感性を生かした活躍をしていただけるのではないかと思っています」(菅原社長)
パラスポーツに、テクノロジーで光を。そして、パラアスリートの活躍によって業界の知名度を上げていけるように今後も一緒に盛り上げていきたいと語る菅原社長。
「他企業との連携も増やし、ダイバーシティ社会を推進していきたいですね。これは、私たちのようなテクノロジー関連以外の業種でも同様です。というのも、ロービジョンの方は世界で2.5億人おり、老眼の方も含めると10億人。また、近眼の方は世界で20億人といわれているなど、きわめて身近だからです。日本では高齢化も進んでおりますし、様々な社会課題を乗り越えるためにも力を合わせ、テクノロジーだけではなくシステム、医療、ヘルスケアなどワンチームで取り組んでいきたいと考えています」(菅原社長)
「顔が見えました」「字が書けました」など感動の声が続々
本取材はNPO法人日本視覚障害者柔道連盟の女性選手の練習時に、QDレーザが「With My Eyes」の一環として行った、各種デバイスの体験会に参加する形で行いました。そこではデバイス使用後の感想や今後期待することなどを選手とコーチにインタビュー。彼女たちの声もお届けします。
(後列左から)仲元コーチ、小川選手、工藤選手
(前列左から)石井選手、西村選手
・石井亜弧選手/三井住友海上あいおい生命保険株式会社 所属
「最初は慣れるまでに時間がかかりましたが、慣れてきたら使いやすいと実感しました。装着した状態であれば字を書くこともでき、自分の筆跡を見られたことがうれしかったです。これがあれば、駅の電光掲示板なども見やすいですよね。今後の進化にも期待しています」
・小川和紗選手/伊藤忠丸紅鉄鋼株式会社 所属
「私の場合、メガネタイプ(レティッサ ディスプレイ2)は難しかったのですが、片手で持つタイプ(レティッサ オン ハンド)では、人の顔やしぐさまでよく見えました。柔道では、試合の映像を俯瞰で分析することにとても役立つのではないかと思います」
・工藤博子選手/シミックウエル株式会社 所属
「私は人の顔が見えたことはほとんどなかったのですが、今日はチームメイトをはじめ皆さんの顔を見られて、それが第一に感動でした。この部屋であれば非常口の場所がわかりますし、駅の電光掲示板など各種案内を認識できれば、日常のさまざまな不便も解消されていくのかなと思います」
・西村淳未選手/株式会社シーイーシー 所属
「私は、デバイスを装着したことで色をはっきり見ることができました。私の場合は眩しさも感じたので、明るさを調節できるとより使いやすいと思いました」
・仲元歩美コーチ
「ふだんは試合の映像分析時にスマホを使って拡大していましたが、それでも選手たちははっきり見ることができません。でも今日のデバイスではよく見えたということで、今後は効率よく分析ができそうです。また、映像でうまく伝えられない部分は口頭で教えているのですが、実際に相手と組んでみるとイメージと違うということも珍しくありません。そういった齟齬(そご)も改善されるのではないかと期待しています」
QDレーザの菅原社長は、インタビューの最後に今後の展望も語りました。現在は競技の種類や障害のタイプごとに使いやすいデバイスが分かれているものの、より多くの方が見えるように、また軽量化や小型化なども視野に入れて開発を進めていきたいと言います。
「パラスポーツは、東京2020パラリンピック競技大会で日本でもかなり認知が広がったと思います。同様に、レーザ網膜投影技術のことも知っていただけたら。そのために我々もよりよい機器を開発していきますし、TEAM BEYONDとも協力して連携を深め、認知を拡大していきたいです」(菅原代表)
「With My Eyes」の活動とともに、QDレーザのイノベーションには今後も目が離せません。
株式会社QDレーザ
担当部署 | 視覚情報デバイス事業部 |
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住所 | 〒210-0855 神奈川県川崎市川崎区南渡田町1番1号京浜ビル1階 |
メール | retissa@qdlaser.com |
URL | https://www.qdlaser.com// |