支援企業・団体の声
順天堂大学
2022.11.21
パラスポーツ教育を積極的に取り入れ
共生社会を創造し伝導する人材を輩出
江戸後期の天保9(1838)年に設立されたオランダ医学塾「和田塾」に端を発し、今に繋がる日本最古の医学教育機関である順天堂大学。健康総合大学として、教育・研究・医療・リベラルアーツを通じた国際レベルでの社会貢献と人材育成を進めており、パラスポーツに関する教育やボランティア活動も積極的に行っています。
※順天堂大学さくらキャンパス OGAWA GYMNASTICS ARENA前
リオパラリンピックがパラスポーツ教育のきっかけに
順天堂大学では、医学や保健に関する学部のほか、スポーツや健康に関わる様々な学問領域にアプローチするスポーツ健康科学部を有し、同学部ではパラスポーツに関する教育も積極的に行われています。
パラスポーツ教育の大きなきっかけとなったのは、2016年のリオデジャネイロパラリンピックでした。東京2020パラリンピック競技大会を数年後に控え、複数の大学教員や学生が視察のため現地へ。そこで、当時ボッチャの日本代表コーチだった村上 光輝氏や、長年ゴールボールの男子日本代表ヘッドコーチを務めた池田 貴氏など、同大学のOBでもある名指導者と交流を深めるとともに触発されたのです。
「当時、スポーツ庁のトップを務めていた鈴木大地長官から激励いただいたことも大きかったです。長官もパラスポーツに力を入れていきたいとおっしゃっており、様々な意見交換をさせていただきました」。そう話すのは、同大学スポーツ健康科学部の渡 正(わたり・ただし)准教授。
「私はスポーツ社会学を専攻しており、学生だった2002年ごろから障害者スポーツの研究をしていますが、当時はきわめてマイナーでした。漫画『SLAM DUNK』の作者・井上 雄彦先生の『リアル』(1998年~)により、車いすバスケットボールの認知は広がっていましたが、パラスポーツ全体としてはまだまだでしたね。転機は、東京2020パラリンピック競技大会が決定した2013年でしょう。2016年のリオ大会は、その興隆の途上でした」(渡准教授)
授業にパラスポーツを取り入れたり、市内の児童・生徒に体験会を開催したり
順天堂大学のスポーツ健康科学部卒業生は、スポーツに関連した職業のほか教職(保健体育や特別支援学校)に就く人も多くいます。リオ大会で得た知見を基に、障害者スポーツの指導者教育にも一層力を入れていくべきという考えのもと、同学部のカリキュラムにも積極的にパラスポーツの要素が加わっていくことに。同学部の渡邉 貴裕先任准教授が教えてくれました。
「2017年から、まずはボッチャやゴールボールを授業に組み込む形でスタート。学生からも好評で、教育効果の手応えを感じました。翌年には、サッカーの授業に障害者サッカーを、バレーボールの授業にシッティングバレーボールを、バスケットボールの授業に車いすバスケットボールを取り入れるなど、徐々に拡大。加えて、本学のさくらキャンパスがある千葉県印西市の小中学校へ行き、ボッチャやゴールボールの体験会を行う活動も始めました」(渡邉先任准教授)
小中学生向けの体験授業は、順天堂大学生を巻き込む狙いや、地域貢献の目的も。こちらは同大学によるパラスポーツ体験教室「Para Sports Caravan」として多角化。また、ボッチャやゴールボールは各協会と連携協定を結び、大会運営の手伝いや合宿のサポートなどもするように。学生からもボランティアスタッフを募り、まさに大学全体でパラスポーツ振興に取り組んでいます。
「体験教室で大切にしているのは、単にパラスポーツを教えるだけではなく、競技を通じて『障害とは? 共生社会とは?』といった学びを小中学生にも得ていただくことです。そのため、スライドを取り入れた座学を実技のプログラムとセットで行うなど、工夫しています」(渡准教授)
障がい者スポーツ同好会が設立されるほど活発に
大学の取組は学生の意欲向上にも繋がっており、学内にはパラスポーツ活動のサポートネットワーク「PaSSNet(パスネット)」(2018年~)や、学生有志による「障がい者スポーツ同好会」(2019年~)が設立。前者はイベント情報やボランティアの参加案内などを共有し、後者はより能動的な活動を行っています。インタビューには現役のスポーツ健康科学部生であり、2021年度の「障がい者スポーツ同好会」会長でもある4年生の渡辺 篤郎さんも参加し、学生側の声を聞かせてくれました。
「私を含め教員を目指す学生は多く、教育実習以外で障害のある方や児童とふれあう経験が得られることは非常に有意義です。ただ、ボランティアに協力したくても情報がないと参加できません。その点、気軽にアクセスできる『PaSSNet』は重宝していますし、より積極的に参加したい人には同好会がありますので、環境に恵まれていることを実感しています」(渡辺さん)
順天堂大学がパラスポーツ教育を積極的に取り入れたことで、学校のパブリックイメージとともに入学希望者にも変化があったとか。
「たとえば、パラアスリートの学生が入学してくれるようになりました。その一人が、2020東京パラリンピック競技大会のパラ水泳でメドレーリレーに出場し、8位入賞に貢献した荻原 虎太郎です。渡辺(篤郎さん)の同級生には同大会のゴールボールで5位に入賞した佐野 優人がおりますし、今後も未来のパラリンピアンが入学志願してくれるのではないかと、大いに期待しています。」(渡邉先任准教授)
とはいえ、同学がパラスポーツに取り組む意義はあくまでも社会のため。「たとえば卒業生が教員になった際、児童が怪我をしたり障害のある子供だったりしても、パラスポーツへの理解があれば、ただ『見学をしておきなさい』ではなく、より適切な指導ができると思います。また教職以外の勤務先でも、組織の中で共生社会のために貢献できるはず。そういった人材を輩出するというのが、大学として1番に目指すところですね」と、渡准教授は言います。
学生の意欲を引き出し、思いを叶える道筋を示していきたい
大学側と学生側、それぞれの視点から今後の展望を聞くと、大学側としては「パラスポーツといえば順天堂大学、という認知を一層広げていきたいですね」と渡准教授、渡邉先任准教授は言います。
「本学には視覚障害の学生がいますが、車いすの学生など、より様々な方に来ていただきたいですし、志望いただけるよう情報発信していきたいです。また、パラスポーツの取組に関してはスポーツ健康科学部が中心ですが、他学部も巻き込んでいきたいとも思っています。すでに医学部の先生に協力いただいたり、保健医療学部の学生にボランティア参加してもらったりしていますが、学内から地域、社会へと輪を広げていきたいですね」(渡邉先任准教授)
「地域の児童生徒への体験会はずっと継続しているのですが、中身をブラッシュアップして、本学の特色などをより知っていただけたらと思います。小中学校でのダイバーシティやインクルーシブ教育も以前より盛んになり、パラスポーツへの意識も高いと感じています。順天堂大学生はもちろんですが、彼らの意欲を引き出すとともに、思いを叶える道筋をいっそう示していきたいですね」(渡准教授)
同大学4年生の渡辺さんは、他大学との連携を深めていくことが展望のひとつだと語ります。
「パラ大学祭という催しでは、本学のほかに上智大学、日本体育大学、立命館大学、明治学院大学、中央大学、慶応義塾大学、立命館大学などが協力し合っていますが、この輪を一層広げていけたらと思っています。また、たとえばボッチャの学生連合会のような組織を作ろうという話が出ていて、私の後輩たちが進めているところです。こういった動きは関西でも広がっていますし、より大きなうねりになっていってほしいですね」(渡辺さん)
現在、同大学によるパラスポーツ体験会は地域の枠を超えるほど広がっており、実施も年間50回を超えるようになったとか。各小中学校との連携には地元自治体が調整役になっており、TEAM BEYONDをはじめ、各組織との横のつながりの重要性を実感すると渡准教授。パラスポーツの産学官連携における「学」の面で挑戦を続ける順天堂大学、その先進的な取組は、他大学への良きロールモデルとなるでしょう。
順天堂大学スポーツ健康科学部
住所 | 〒270-1695 千葉県印西平賀学園台1-1 |
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電話 | 0476-98-1001 |
URL | https://www.juntendo.ac.jp/hss/index.html |