支援企業・団体の声
株式会社ePARA
2023.3.31

“勝ちよりも価値”をテーマにeサッカーチームを運営
障害当事者が人として成長していくバリアフリーeスポーツの可能性とは

eスポーツを通じて、障害者が自分らしくやりがいを持って社会参加する支援を行っている株式会社ePARA(イーパラ/以下ePARA)。年齢・性別・時間・場所・障害の有無を問わず参加できる「バリアフリーeスポーツ」に関するニュース の取り扱いや、バリアフリーeスポーツ大会の企画運営などを行っています。当記事では、同社が運営する障害者のeサッカーチーム「ePARAユナイテッド」について、所属選手を中心に、活動内容などを伺いました。

eサッカー企画を機に11人の車いす選手で結成

「ePARAユナイテッド」が立ち上がったのは2022年5月のこと。中心人物はキャプテンを務める鳥越勝選手(筋ジストロフィー)。鳥越選手はチームの結成以前からePARAに関わっており、バリアフリーeスポーツの可能性を感じていました。

そんなある日、ePARA主催のゲームイベント「ePARA CARNIVAL 2022 SPRING」でサッカーゲームの企画が決定。鳥越選手の元にも出場のオファーがあり、「やるなら11人集めたい」という思いから、さらには「全員車いすのメンバーで結成しよう」という流れに。

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「大人になってからはあまりゲームをしていなかったのですが、サッカーゲームだけは昔から好きだったので、ぜひ挑戦したいと常々思っていました。また、eスポーツの中でもサッカーは人気eスポーツ番組でもよく取り上げられており、やりたい人は多いのではないかなと。11人でそれぞれのポジションを決めて、コミュニケーションを取りながら協力し合う点も魅力ですし、何より面白い。そういった思いから、メンバー集めを始めました」(鳥越選手)

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鳥越選手の誘いで集まった「ePARAユナイテッド」のメンバーは、障害も加入動機もさまざま。根本ありさ選手(筋痛性脳脊髄炎)と矢口敦也選手(横断性胸髄麻痺)が答えてくれました。

「もともと10kmマラソン大会出場を目指すなど、体を動かすことが好きだったのですが、病気を発症してからはスポーツを楽しむことを諦めていたので、『ePARAユナイテッド』への加入は非常に魅力的でした。eサッカーを通して、スポーツの楽しさや、走っていた時と同じ喜びを得られるのではないか。そうした可能性も感じました」(根本選手)

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矢口選手は車いすバスケットボールとパラアイスホッケーで日本代表として戦った経験があり、パラアイスホッケーではパラリンピックの銀メダル獲得に貢献。現在はパラアーチェリーで全国2位の成績を持つアスリートです。所属する株式会社エラン(長野県松本市)がePARAのパートナーだったことが縁で、「ePARAユナイテッド」に加入しました。

「私は以前からサッカーが好きで、学生時代の友人にもサッカー経験者が多く、よく試合などを観に行っていました。eサッカーは画面越しではありますが動きもリアルで奥深く、とても楽しいです」(矢口選手)

その他のメンバーも鳥越選手の友人やその紹介、一般の問い合わせやパートナー企業からの加入などで構成。前述の「ePARA CARNIVAL 2022 SPRING」がチームでの初参戦となり、11人中8人がバリアフリーeスポーツカフェ「Any%CAFÉ」(港区)に集まり、3人がオンラインでプレーしました。

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バリアフリーeスポーツは障害者の成長機会にもなる

eスポーツはオンラインで参加できるため、移動を伴わない点は助かると鳥越選手。ただ障害があることで、難しいと感じる場面も少なくないと言います。

「各々、体力や体調面での不安や難しい部分はあると思います。たとえば私の場合、長時間座り続けることが難しいので休息は欠かせません。メンバーの中には手が動かせないので足で操作していたり、片手で操作したりという選手もいますね。他にも脳性麻痺や、握力が弱いなど、それぞれ苦労している方もいて、お互いゲームの中で助け合っています」(鳥越選手)

「私の場合は疲れやすく、疲労が回復しにくい病気です。なので、理学療法士さんに疲れにくい姿勢の指導をしていただいたり、クッションの活用法などを教えていただいたりしながらプレーしています。eスポーツが、ちょっとしたリハビリになるということは発見でしたね。手が完全に開かなかったり、思い通りに指が動かなかったりするのですが、コントローラーを操作することで刺激されるというか、プレーすることで、普段の生活にいい影響を与えていると思います」(根本選手)

パラアーチェリーでも活躍する矢口選手には、バリアフリーeスポーツとパラスポーツとの共通点や違いについて質問。eスポーツ自体がバリアフリーであり、パラスポーツの中でも特にアーチェリーは健常者と障害者が一緒に競技をするなど、バリアフリーであることは共通点だと言います。

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「たとえば、パラアーチェリー金メダリストのイラン代表、ザハラ・ネマティ選手は、オリンピックにも出場しました。つまり、アーチェリーは健常者と同じ土俵で戦いやすい競技です。これは私がこの競技に挑む理由の一つでもあります。バリアフリーeスポーツとパラスポーツとの違いは、やはり移動の有無ですね。eスポーツはオンラインでも参加できるので、身体の移動も道具を持ち運ぶ必要もありませんから、ある意味気軽にできるのが魅力だと思います」(矢口選手)

銀メダリストでもある矢口選手の存在は、「ePARAユナイテッド」の精神的支えになっていると鳥越選手は言います。

「2023年に実施した「11人制eサッカースタジアム」というイベント で、Jリーグ・川崎フロンターレの小林悠選手と同じチームで試合をしたときは非常に緊張しました。私以外にも緊張が目立つ選手が多かったですが、トップアスリートとしての経験値がある矢口選手は普段通りでさすがでしたね。このようにメンタルを鍛えられる場面は多々ありますが、障害のある人はそうした機会を得難いので、バリアフリーeスポーツはそんな方々が成長できる環境でもあると思います。」(鳥越選手)

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勝ちよりも価値を追求していきたい

eサッカーはチームプレーなので、コミュニケーションが欠かせません。とはいえ選手それぞれで障害の度合いなどに差があるため、試合前には事前にある程度意思統一をしておくことも重要だと言います。また、全員がサッカー経験者ではないため、ノウハウや熱量などを考慮しつつ、目標に向かって一丸になれるチームワークを築くことが大切だと根本選手。

「私以外にも女子メンバーがいるのですが、最初はルールもあまりわからない状況でした。そして、個々のメンバーによって、楽しみたいという気持ちと、勝ちたいという気持ちにも差があると思います。その点も含めてのコミュニケーションが必要なので、特に試合や練習以外でのコミュニケーションが大事だと思います」(根本選手)

ePARAのCMOであり、「ePARAユナイテッド」のゼネラルマネージャーを務める細貝輝夫さんは、「私たちのチームは試合に勝つことよりも、活動を通じて元気になれたり、勇気が出てきたり、そういう一人一人の挑戦に重きを置いています」と話し、根本選手は「勝ちよりも価値。これが一つのテーマです」と言います。

eスポーツは他競技と連携させやすく相互作用も

eスポーツの魅力の一つが、気軽さやプレー障壁の低さ。他のスポーツとの連携もさせやすく、相互に魅力を高めていけると細貝さんは話します。

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「先日、杉並区さん主催のイベントに、私たちがeサッカーで参加させていただいた際、同じ体育館で車いすラグビーの方と一緒になり、相互で体験をさせていただきました。ともに盛り上がりまして、連携の可能性の高さを感じましたね」(細貝さん)

交流の場を増やしていけば、各競技の知名度アップにもつながる。特にeサッカーはプレー障壁が低いため、スポーツを諦めてしまった人でも「自分にもできるのではないか?」と思ってもらいやすく、利点は多いと矢口選手。続けて、根本選手も想いを語りました。

「2022年には、「段差のない社会」を目指しイベントを企画、運営しているDannacy(ダンナシー)さんが主催された、パラアスリートと一緒にパラスポーツを中心にさまざまな競技を楽しめる 『チャリティー大運動会』に、ePARAユナイテッドで参加させていただきました。未体験のスポーツに触れるのはいい機会ですし、この輪はいっそう広げていきたいですね」(根本選手)

では、ePARAや「ePARAユナイテッド」ではどのようにスポンサー企業を獲得しているのでしょうか。こちらはePARAの加藤大貴代表が教えてくれました。

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「スポンサー企業は数社あります。たとえば株式会社Yogibo (ヨギボー)さんの場合は、同社が取り組む社会課題解決を目指す『TANZAQ』プロジェクトの対象に、当社を選んでいただきました。また、ビーウィズ株式会社さんは「ePARA CARNIVAL」でスポンサードいただいたことから引き続きご支援いただいていますが、『ePARAユナイテッド』では、ビーウィズ株式会社さんの障害者就労で活躍している選手もいます。就労という点では、矢口選手が所属する株式会社エランさんも同様ですね」(加藤代表)

また、eスポーツに欠かせないゲーミングパソコンは、株式会社サイコムがスポンサード。メンバーのほぼ全員に、ハイスペックな機器が支給され、その活動を支えています。

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活動の幅を広げてパラスポーツ全体の競技人口増へ

今後の展望や課題に関しては、eサッカーをはじめ、バリアフリーeスポーツやパラスポーツの競技人口を増やすために活動の幅を広げていくこと。ゲームについてネガティブな印象を持たれている側面はあるものの、チーム一丸となって挑戦する姿、人として成長していく姿を発信することで、eスポーツをポジティブなイメージに変えていきたいと鳥越選手は熱く語ります。

加えて、根本選手は自身の経験を振り返ってコメント。「昔は、ゲームはよくないと思っていましたが偏見でしたね。考え方がガラッと変わりました」と微笑みます。

「以前、大会までずっと入院していた時期があり、その間は練習を見ることしかできませんでしたが、大会があるから治療も頑張ろうと、モチベーションの源になっていました。eスポーツが手や指のリハビリにもなったと思いますし、数個のボタンを瞬時に操るので脳のトレーニングにもなると思います。私の場合、本気で打ち込める機会を得られ、チームスポーツの感動を体験することもできました。この喜びをどんどん伝えていきたいです」(根本選手)

矢口選手は、eスポーツにはフィジカルな競技とオンラインの世界をつなぐ、ハブの役割を持っている。その力を活用していきたいと言います。

「サッカーの他、野球や格闘技などにもeスポーツはあります。パラスポーツ単体では興味がある人だけの世界になりがちですが、そこにeスポーツが介在することで興味が広がり、既存のスポーツファンの方をパラのほうへ巻き込むきっかけにもなるのかなと。その可能性も感じています」(矢口選手)

最後は加藤代表が全体的な展望を語りました。

「応援いただける企業様が増えることで、私たちをはじめバリアフリーeスポーツ、パラスポーツ全体が注目され、より面白い取組ができると考えています。『ePARAユナイテッド』は今年でまだシーズン2ですし、他社様で新たにチームを作る動きも大歓迎。ePARAとしては障害当事者との接点を持ちたい企業とeスポーツの交流戦も行っていますので、興味をお持ちの企業様がいらっしゃれば、ぜひお声がけいただけると嬉しいですね。TEAM BEYONDの発信力にも期待しています」(加藤代表)

想いとしては、勝っても負けてもそれ以上に楽しかった、やってよかったと思える世界をバリアフリーeスポーツで実現したいと語る加藤代表。“勝ちよりも価値”をテーマに、ePARAと「ePARA ユナイテッド」がますます盛り上がっていくことは間違いありません。

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