支援企業・団体の声
堀江車輌電装株式会社
2024.3.29

重度障がいの子どもと社員の願いが結実して生まれた「ユニバーサル野球」

プラスチック製品や木材で作られた20分の1サイズの野球場でプレーする「ユニバーサル野球」。これが今、全国各地の小学校や福祉施設などで人気を博しています。「うちでもやりたい!」といった依頼が殺到し、土日開催のイベント予約は当面ほぼ埋まっているとのこと。2024年4月には米国・ニューヨークでの“遠征試合”も決まっています。

このユニークな事業を手掛けるのは、堀江車輌電装株式会社 未来創造事業部(以下、堀江車輌電装)。鉄道車両の整備・改造・点検をメインに、ビルメンテナス事業や、さらには障がい者支援に特化した事業も展開しています。実は、ユニバーサル野球もその一環で、障がいのあるなしに関わらず、誰でも野球を楽しめるようにしたいという思いから生まれました。

鉄道車両関連の技術集団である同社が、なぜこれほどまでに障がい者のサポートに力を注いでいるのでしょうか。

知的障がい者のサッカー選手に感動

きっかけは1本の動画でした——。

「パラスポーツの普及活動をしている伊藤数子さんの講演をたまたま聞く機会がありました。内容は車いすバスケットボールについてでしたが、私は元々サッカーをやっていたので、家に帰ってから『障がい者 サッカー』とネット検索しました。そこで出てきた動画に感動してしまい、その日のうちに日本知的障がい者サッカー連盟へ何かお手伝いしたいというメールを送りました」

堀江泰社長は、2013年1月の出来事をこう振り返ります。感動したのは、障がい者がサッカーをしていたということよりも、サッカーが驚くほど上手だったことに対してです。

「私はそもそも知的障がいという障がいを知らなかったんですよね。だから、知的障がい者サッカーも想像できなかった。でも、映像では自分より大柄な選手とガチンコでプレーしていて、とても衝撃的でした」(堀江社長)

こうして障がい者サッカーと出会った堀江社長。当初は個人的なボランティア活動で関わりを持っていましたが、すぐに会社として取り組むように。経営企画室社長秘書の荻野真奈美さんが説明します。

「サッカーの支援は2013年から始めました。当初は知的障がい者サッカーの普及に向けた広報活動が中心でした。その後、14年の世界選手権ブラジル大会の遠征費用が足りないということで、その足しになればと我々で応援Tシャツを作って販売しました」(荻野さん)

SNSを駆使して販促したり、Jリーグの試合にブース出店したりした結果、2カ月半で約9000枚もの売り上げがありました。

障がいがあっても、なくても同じ仲間

サッカーの活動と並行して、堀江社長は障がいのある人たちをもっと幅広く応援するべく、2014年に「障がい者支援事業部」を立ち上げました。なお、このタイミングで入社したのが荻野さんでした。大学では福祉の勉強をして、卒業後も障がい者支援の業界で働いていました。

15年には自社でも障がいのある人たちをどんどん採用したいと思い、ビルメンテンナスの会社を傘下に収めて、ビルメンテナンス事業部を設立。事業部を中心に自社で障がい者を雇用するとともに、特別支援学校の生徒や就職を目指して訓練機関に通う障がいのある方を研修で受け入れる取組も始めました。

このようにさまざまな面で障がい者支援を進める同社ですが、決して大袈裟なことではないと堀江社長は強調します。

「今はダイバーシティやSDGsを国を含めて、多くの人が取り組んでいるかと思いますが、弊社が目指しているのは、少し違います。障がいがあるとか、国籍とか性別とか、特に意識はしていません。弊社に縁があって入ってきてくれたわけなので、全員を平等に接します。障がい特性に配慮はしますけど、遠慮はしません。複数の仕事を同時にできるように挑戦してもらいます。せっかく日本に何百万社とある中で出会った仲間なので、どんな状況でも一緒に歩んでいきたいというのが本音です」(堀江社長)

誰でもが一緒に楽しめる野球を目指して

そんな堀江車輌電装にとってターニングポイントとなったのが16年夏のこと。北海道から一人の男性が転職してきます。彼こそが、ユニバーサル野球を発明した中村哲郎さんです。

高校野球の強豪校出身の中村さんは、重度障がいのある子どもたちにも野球をやらせたいという夢を持っていたため、以前からスポーツを通じて障がいがある方を手助けする活動に積極的でした。そこで同じ思いを持った堀江車輌電装にたどり着いたのです。

「中村は東日本大震災の復興ボランティアに行った時に車椅子の方を救出したことがきっかけで、残りの社会人人生は障がいのある方に関わりたいと考えていました。そこで弊社にたまたまいきついて、問い合わせフォームから連絡してきました」と堀江社長は話します。

中村さんは入社後もボランティア活動を続け、休日を使ってはボランティアへ参加したり、パラスポーツを手伝ったりしていました。そんなある日、ある男の子から届いたメッセージに胸を打たれます。

「肢体不自由で、体がほとんど動かない男の子からの野球がやりたいというメッセージでした。普通ならば重度障がいがあるお子さんに皆と同じように野球をするのは難しいと考えると思います。でも、弊社は諦めるのではなくて、どうしたら野球ができるかを真剣に考え始めたわけです」(堀江社長)

はじめは事業ではなく、中村さんが業務外の時間を使って、男の子が野球をするためにはどうすればいいのだろうと試行錯誤していました。まずは、見た目にインパクトがある大きさのスタジアムを想定、そして、バッティングの方法を考えます。最初は、バットを振る仕組みにボタンを押してワンタッチで開く傘の仕組みを試してみましたがボタンを押すのが困難だとわかりました。

そこから、少しの可動域で紐を引くとバットが動くようなものにしたらどうか、向かってくるボールに反応するのが難しいなら、当てることを前提にターンテーブルを使ってはどうか…と次々にアイデアが出てきました。そうした中で徐々に仲間が集まってきて、実現のためのアイデアが具体的な形になっていきました。

このようにして誕生したユニバーサル野球は、バットについた紐を引っ張ってバットを振り、ターンテーブルで回ってくるボールを打つ仕組みになっています。ここには専門家の意見や技術を提供してもらうなど、さまざまな工夫が施されています。

「紐を1センチ引けばバットが振れるんですよ。プロ野球選手でも、重度障がいがあるお子さんでも、我々でも、体の可動域が1センチあれば同じ条件でプレーができる。そういった点では、障がいのある方に特化したものではなく、ユニバーサル、つまり誰でも平等に、純粋にスポーツを楽しめると自負しています。障がいの有無、年齢、性別、身体の大きさなど差異を感じることなく誰でもが同じやり方でプレーできるので、全ての人が自然な交流が楽しめるのです」と堀江社長は力を込めます。

実際、障がいのある子どもと保護者チームが対戦しても互角の勝負が楽しめるとのこと。また、学校では「ひとを応援する大切さと、ひとから応援される喜びを考える」をテーマにした授業の中で実施される機会が増えています。普通校と特別支援学校の対戦では、障がいのあるなしに関わらず歩み寄り、同時に障がいのある人にどのような配慮が必要かも自然と学べるのがメリットです。

バットはスポーツ用品メーカーのミズノ株式会社に製作してもらうなど、さまざまな方に助けられながらユニバーサル野球は開発されました。

ユニバーサル野球の工夫はそれだけではありません。組み立て式で、簡単に解体することができるため、ワンボックスカー1台で全国どこでも出張が可能。今や引っ張りだこで、特別支援学校や一般の小学校、中学校、さらに企業でもユニバーサル野球の試合が開かれています。

「最終的には教育に深く携わっていきたいと思っているんですよね。ユニバーサル野球を通じて障がい理解を深めるなど、各自が考えて学ぶような機会をどんどん提供していきたいです。そのためにも、今はボランティアではなく事業として有料で行っています。継続していくためには必要なことです。ボランティアだと、企業の経営状況によっては活動できなくなる可能性もあります。子どもたちの将来にもつながる取組なので、地元の人や企業を巻き込みながら継続していきたいです」(堀江社長)

また、ユニバーサル野球にはメディアの力によって強く後押しされたと堀江社長は話します。

「ユニバーサル野球が出来た当初から、沢山のメディアの方に掲載いただき、全国の方々が知るきっかけとなりました。新聞・ネット・テレビ・ラジオなどでユニバーサル野球を紹介いただけていることが、本当に励みになっています」(堀江社長)

会社が注目されることで、本業にも目を向けてもらえ、社内の士気も高まる、というような相乗効果が出てきたとのことです。

そして今年4月、ユニバーサル野球は海外へ初進出します。障がいのある子どもを持つニューヨークの日本人家族がたまたまユニバーサル野球を知り、「米国でもできないか?」と連絡がありました。これを足がかりにもっと世界に広げていきたいと堀江社長は夢を語ります。

「将来的には各国にユニバーサル野球を持っていき、現地のお子さんと日本のお子さんがリモートで対戦したり、プロ野球選手にも一緒に参加してもらったりすることができたらいいなと考えています」(堀江社長)

既に日本工業大学と連携して、スマホアプリの画面に映された「打つ」のボタンをクリックすれば、バットが遠隔操作により振れる仕組みを開発。地域の特別支援学校で試験運用しています。これが本格的に実現すれば病気によって体を動かすことが難しい子どもも病院から一緒に野球ができるようになります。

形にこだわらず、一歩踏み出そう

これからも堀江車輌電装は障がいがある方の支援を続けていきます。そしてこの動きが他の企業にも広がっていくことを願っています。

「いつも堀江車輌さんはいろいろと手掛けているよねって言われるんですけど、いや、皆さんにもできますよと答えています。特別なことをやっているわけではないので。形にこだわろうとすると、前に進めないじゃないですか。まずは一歩踏み出せばいいと思うんですよね。こうしなくてはいけないというルールや提案はないんです。好きなようにやってみて、まわりの反応を見てやりやすい方法を見つけて楽しんでもらえればいいと思っています。日常の延長でできることをやり、そこから広がっていく動きが当たり前に出てくると嬉しいですね」

先の東京オリンピック・パラリンピックではその気運も高まりましたが、その気運をこれからも継続していきたいという熱い思いを堀江社長は語ります。

「東京のオリパラを目指して多くの日本企業がパラスポーツの支援に力を入れていました。これから先の未来も、オリパラに関わらず、障がいのある方々への取組や、ユニバーサルスポーツが世の中にどんどん普及していけばいいなと思っています」(堀江社長)

そのためにも、ユニバーサルスポーツの認知度を高め、より多くの人たちの関心が集まるよう、堀江車輌電装は今後も積極的に情報発信していきます。

堀江車輌電装株式会社
担当部署 経営企画室
住所 〒102-0073 東京都千代田区九段北1-3-2 大橋ビル5階
電話 03-5213-4728
URL http://horie-sharyo.co.jp
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