支援企業・団体の声
株式会社リクルート
2024.3.29

一過性で終わらせず、VR動画や学校教材で障がい者理解を促進するリクルートの願い

車いす同士が勢いよくぶつかる。ボールを持った選手が体勢を崩したかと思いきや、キュッとブレーキをかけて相手をかわす。そのままシュートを放ちゴールを決めた——。

この臨場感あふれる車いすバスケットボールのVR(Virtual Reality)動画を提供しているのが株式会社リクルート(以下、リクルート)です。YouTubeの同社公式チャンネルには、他にもシッティングバレーボールや車いすテニスなど18種類のパラスポーツ関連動画が並びます。

「なぜリクルートが?」と思われた読者も少なくないでしょう。同社はパラスポーツの発展を応援すると同時に、特例子会社の株式会社リクルートオフィスサポート(以下、リクルートオフィスサポート)では、パラリンピック出場を目指して競技と仕事を両立する従業員の支援も行っているのです。このような取組を始めた経緯や具体的な内容について、サステナビリティ推進室の佐々木綾香グループマネジャーと岡田佳恵さんに話を聞きました。

障がい者のイメージ転換を図りたい

リクルートは『パラリング』と銘打った活動によって、障がいの有無に関わらず、誰もが活躍できる社会の実現を目指しています。『パラリング』とは「パラダイムシフト(考え方の変化)」と「リング(輪)」を掛け合わせた造語。この活動を管轄するのが、サステナビリティ推進室で、主に障がい者理解の促進や若者の就労支援などの非営利活動を担当するグループです。

リクルートがサステナビリティに力を入れるのは、企業理念と深く関係しています。リクルートの目指す世界観「Follow Your Heart」には、「一人ひとりが、自分に素直に、自分で決める、自分らしい人生。本当に大切なことに夢中になれるとき、人や組織は、より良い未来を生み出せると信じています」というメッセージが込められています。

「この経営理念に基づき、我々リクルートとしては、一人ひとりが自分らしい人生を歩める豊かな社会を実現したいと思っています。その中で、私たちが障がい者を理解するための活動を促進するのはごく自然なことだと思っていますし、特例子会社のリクルートオフィスサポートの協力がとても大きいと思っています」と佐々木さんは説明します。

とはいえ、パラスポーツに関しては、本腰を入れたのはそう昔ではありません。きっかけは2017年に東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会のオフィシャルパートナーになったことです。単に大会をスポンサードするだけにとどまらず、これを機に何かできないかと考えたところ、思い浮かんだのがパラリンピック出場を目指して競技と仕事を両立している従業員の支援でした。

「障がい者雇用を進める特例子会社のリクルートオフィスサポートに所属しながら、パラリンピックを目指す従業員を応援しようとなりました。ただ、先ほど申し上げたような企業理念を掲げていることもあって、パラアスリートを応援するだけではなく、障がい者理解を広めていくという社会貢献活動に昇華させたいと考えました」(佐々木さん)

『パラリング』という言葉もこの時期に生まれました。

「障がい者に対するイメージ転換を図るのが一番の目的です。『かわいそう』『助けてあげなくては』ではなく、自分と何ら変わらない存在なのだと知ってもらうためには、人々の考え方をシフトさせなくてはいけません。加えて、活動にインパクトを出すには自分たちだけではなく、社会と手を組んで輪(リング)を広げることが大事だと」(佐々木さん)

数多くの企業がさまざまな形で障がい者支援に取り組んでいますが、リクルートのようにオリジナルの用語を打ち出しているのは珍しいです。佐々木さんによると、プロジェクト名をつけることで、担当者が変わったとしてもプロジェクトの想いや狙いがぶれることなく、メンバーの意思統一を図れるメリットがあるということです。

コロナ禍をきっかけに生まれたパラスポーツを疑似体験できるVR動画

このリクルート独自のプロジェクトである『パラリング』において、具体的にどのような活動に注力しているのでしょうか。

一つが、パラスポーツを疑似体験できるVR動画の制作・提供です。元々はリクルートオフィスサポートのパラアスリートで、シッティングバレーボールの田澤隼選手や車いすテニスの菅野浩二選手、車いすバスケットボールの小田島理恵選手(アスリート支援制度※の活用は2022年度まで)などとともに、体験会をはじめとするリアルイベントを実施。2018年から現在までに1万8000人以上の参加者を集めました。

※各競技団体から強化指定選手もしくは日本代表として認められた従業員に対して、競技と仕事を両立するための各種の支援を行うリクルートオフィスサポートの制度

しかし、コロナ禍でそうしたイベントを開くのが難しくなってしまいました。その代替案として出たアイデアがVR動画でした。岡田さんが振り返ります。

「前々から動画コンテンツを作りたいという思いはありました。リアルイベントの開催だとどうしても開催数に限界があったため、選手たちが現場に行かなくてもパラスポーツを体験いただける方法を探していましたから。さらにコロナ禍になり、動画の企画が具体化しました。VRにしたのは一層の臨場感を味わってもらえると考えたのと、まだ当時はあまりVR動画を出しているところもなかったからですね」(岡田さん)

VR動画を活用したパラスポーツ体験イベントは評判が上々。専用のスコープを付けた子どもたちは迫力ある動画に大喜び。変わり種のコンテンツだとして、自治体主催のイベントでも活用されています。

「自治体のイベントでは、車いすバスケットボールや車いすテニスなど体験できる競技が限られていることも多く、体験するための待ち時間もあります。VR動画があれば、他の競技も体験できたり、待ち時間に簡単に体験できたりするので、イベントに幅が持たせられたと喜んでくださっています」(岡田さん)

動画コンテンツの迫力も然ることながら、パラアスリートの勝利に対する強い思いを、視聴した人たちが肌で感じている様子を佐々木さんは嬉しく思っています。

「勝利へのこだわりや好きなことに夢中になる気持ちは、障がいがあってもなくても一緒であり、自分たちと同じ存在なんだと理解していただくいい機会になっていると感じます」(佐々木さん)

パラアスリートから「挑戦する勇気」を学ぶ

『パラリング』におけるもう一つの活動が、障がい者理解を進める教材の提供です。体験イベントだけではその場限りで終わってしまうことを危惧したことが背景にはありました。

「体験イベント以外にもできることがあるのではないか。そう考えた時に、学校という場であれば、障がいというテーマに興味がある子もそうでない子も、あらゆる子どもに学ぶ機会があるため、特例子会社や私たちが『パラリング』で培った知見を提供すれば、何かしらのお役に立てるかもしれないと。そこから教材開発がスタートしました」(岡田さん)

ただし、教材を作っても学校現場で使われなければ意味がありません。教職員に負担なく活用してもらえるよう、実際に出張授業をして改善点などを洗い出したり、指導案もセットで提供したりと、テストを繰り返しながら内容をアップデートしていきました。

そうして完成した教材は、小・中・高の学校を合わせて年間60校ほどからの申し込みがあるそうです。

現場から寄せられた感想はVR動画と同様、障がい者への理解促進に加えて、メンタル面での刺激にもつながっています。

「挑戦する勇気や、情熱を持って物事に取り組む姿勢に感動したといった声も多いです。私たちの狙いもまさにそこで、障がい者と健常者の違いにフォーカスするよりも、情熱や好きなことに夢中になる気持ちは同じなのだと伝えたかった。あと、中学生などはいろいろなことに悩む多感な時期ですが、自分の悩みとは比べ物にならないほどの大事故に遭ったアスリートが前向きに話しているのを見て、勇気づけられる子が多いと知りました」(佐々木さん)

障がい者を身近に感じる環境をいかに作るか

VR動画や教材などを通じた障がい者理解のための活動を進めていく中で、これからどのように活動を広げていくかについても考えを巡らせています。

「障がいの有無に関わらず、楽しい、嬉しいといった気持ちを日常的にコミュニケーションできる機会をいかに作るかが障がい者理解の本質だなと改めて考えるようになりました」(佐々木さん)

障がい者を身近に感じる環境を作るために、社内外に対してできることはまだまだあると佐々木さんは意気込みます。

「体験会などに行くと、身近に障がい者がいないという人は多いです。私自身もそうですし、そういった方は多いのではないでしょうか。そうすると悩ましいのは、講演会や体験会を開いても、次の日からまた障がい者の方が身近にいない生活に戻ってしまうこと。日々お互いを身近に感じられる、インクルージョンな環境があることが大切だと痛感していますし、それを作っていかなくてはなりません」(佐々木さん)

とはいえ、自社だけでできることは限られています。だからこそ他社との連携強化も視野に入れなくてはなりません。幸いにもリクルートは自社サービスを通じて何万社ものクライアントがいるため、彼らとも協働できることはあると佐々木さんは考えています。

「例えば、パラアスリートと一緒に出向いて、障がい者理解の社内啓発イベントをお手伝いするのもいいかもしれません。私たちの持つ顧客接点の豊富さを生かして、新たな扉を開けられる可能性は大いにあると信じています」(佐々木さん)

『パラリング』という言葉の原点に忠実に、リクルートはこれからも社内外に輪を広げていく活動を加速させていくことでしょう。

株式会社リクルート
担当部署 サステナビリティ推進室
住所 〒100-6640 東京都千代田区丸の内1-9-2 グラントウキョウサウスタワー
URL https://www.recruit.co.jp/sustainability/pararing/
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