支援企業・団体の声
株式会社JTBデータサービス
2024.3.29

FIDバスケ選手の社員をきっかけに足を踏み入れたパラスポーツ
企業の障害理解促進にもなると期待

障害のある人たちが働ける場をもっと増やすべく、2024年4月に障害者法定雇用率が2.3%から2.5%に引き上げられます。

法定雇用率とは、一定数以上の社員を抱える企業に義務付けられる障害者雇用の割合を示すもの。その対応策として障害者の雇用に配慮した特例子会社を設ける企業もあります。

旅行業大手・JTBグループの特例子会社として1992年に誕生したのが、JTBデータサービスです。同社で働く社員138人のうち88人が聴覚や上肢・下肢、知的などの障害があります(2023年6月1日時点)。彼ら、彼女らは本社勤務に加え、グループ各社に出向してさまざまな業務に携わっています。

そんな同社が近年、目を向け始めたのがパラスポーツです。きっかけは、「全国障害者スポーツ大会」に東京都代表として出場するほどの実力があるFIDバスケットボール選手が社員だったのを偶然知ったこと。そこから、障害のある社員をフォローアップするための定着支援専門の部署であるHR課の担当者がパラスポーツに強い興味を持ち、今ではいろいろな競技のイベントなどに顔を出しています。

そこで得た気付きや、感じた新たな可能性とは何でしょうか。HR課の生沼淳恵課長、五十嵐康博リーダーに話を聞きました。

障害種別は関係ない

はじめに、JTBデータサービスについて簡単に紹介すると、大きく「HR(ヒューマンリソース)」「ビジネスサポート」「活躍創出」の三つの事業から成る会社です。

HR事業では、障害者の雇用や活躍に関する専門的なノウハウを提供しています。ビジネスサポート事業では、データ入力・発送やギフトラッピング、名刺作成といった業務をJTBグループ各社から請け負っています。活躍創出事業では、JTBグループの研修施設の清掃のほか、JTB天王洲ビル内の郵便物仕分けなどを行います。

その中で営業部HR課の役割は、グループ各社に出向する社員が職場に定着し、かつ活躍するための支援がメインになります。

特例子会社としてのJTBデータサービスの特徴の一つに、障害種別ごとに業務を分けない点があると五十嵐さんは言います。

「当社にはさまざまな障害のある方がいますが、障害種別に寄せた仕事をしてはいません。もちろん必要な配慮はしますが、それ以外の接し方に特別なことはありません。だから当人の好き嫌いで業務を選ばせることもしません。そこはすごく特徴的だなと思います。年齢、性別、国籍、障害に関わらず、自由に発言、活躍できる職場を体現したいと思っています」(五十嵐さん)

このポリシーの重要性を五十嵐さんは最近痛感しました。

「片耳の聴覚と視覚に困難のある新入社員がいて、私は彼女に電話の業務をさせてはいけないと思っていました。でも、上司の勧めもあり、日ごろの彼女の仕事に対する姿勢を考えるとできるのではと思い、実際にやってもらったら難なくできたのです。私自身の思い込みで、彼女の活躍の可能性を狭めてしまうところでした」(五十嵐さん)

周囲が可能性の芽を摘んではいけない。だからまずは本人の意思などを尊重し、できることはやってみてもらおうと、改めて肝に銘じることとなりました。

もう一つ、JTBデータサービスがユニークなのは、障害者が物理的にできないことはテクノロジーを活用して解決している点です。生沼さんが説明します。

「例えば、聴覚障害のある社員に対しては、リアルタイム音声認識アプリ『VUEVO』や『YYProbe』などのトライアル版を提供して、本人たちに、試して判断してもらっています。その上でいいものは取り入れています。視覚障害のある社員も「PC-Talker」を使えば問題なくPC入力できました。何か壁にぶつかった時はこうしたツールを探したり、東京都視覚障害者生活支援センターや、高齢・障害・求職者雇用支援機構の就労支援機器アドバイザーに相談したりして、物理的にどうにかなることはなるべく解消できるように動いています」(生沼さん)

社員の応援がモチベーションアップに

「全ての人が共に活躍できる共存会社(ノーマライゼーション)を目指します」という経営理念を体現する同社が今、新たな特徴としてアピールしようとするのがパラスポーツです。

前に述べたように、バスケットボール東京都代表に選ばれた社員、TAIYOさんの存在を知ったことが事の始まりでした。五十嵐さんが振り返ります。

「もともと、前職で全国障害者スポーツ大会の業務に関わっていた関係で、パラスポーツのイベントに参加するようになりました。その後、障スポ出場の選手が社内にいることを知り、いざ応援に行くと、スピード、迫力に感激し、これは会社として応援したいとなったわけです」(五十嵐さん)

現状、競技活動を資金援助するようなアスリート支援制度はありませんが、全国大会に出場する際に特別休暇を付与するなど、できる限りのサポートはしています。

もちろん、物質的な支援だけでなく、応援などによる精神的なサポートも欠かせません。2023年10月に鹿児島県で開催された全国障害者スポーツ大会には、五十嵐さんと社員数人でバスケットボールの応援に訪れました。その帰りの空港でTAIYOさん本人に出会ったところ、感謝の言葉を口にするなど、とても喜んでいたといいます。

「来年は優勝するからと言ってくれて、私たちも嬉しかったですね」(五十嵐さん)

また、その後の仕事ぶりにも良い影響が出ているようです。

「彼のバスケットに対する情熱に触れて『すごいな』『頑張っているな』と同僚の社員たちも刺激を受け、本人にとってもそれがモチベーションの一つとなり仕事にさらに熱が入るようになっていると思います」(生沼さん)

パラスポーツで障害理解を進めたい

すっかりパラスポーツに魅せられたHR課のメンバーは、シッティングバレーボールや車いすラグビー、ブラインドセーリングの体験会に参加するなど、日増しに活動の幅を広げています。

「TEAM BEYONDさんからの情報をいただき、企業交流会に参加したところ、いろいろな団体、企業の担当者の方と知り合うことができました。その団体や企業が開催する体験会に出たり、大会に出ませんかとお誘いをいただいたりしています。情報をいただくことで、活動が様々な方向に広がっていくと感じています」(五十嵐さん)

とはいえ、現状はまだ会社全体を巻き込むまでには至っていないのが悩みのようです。「一緒に体験会に行きましょう!」といった呼びかけはしていますが、より多くの社員に関心を持ってもらうためのハードルはまだ高いようです。どうすればいいのでしょうか。

「何よりもまずは自分たちが積極的に参加して、パラスポーツの体験を自身の言葉で語ること。そしてとにかく、一度会場に連れ出すこと。実際に見て、さらには体験すればその素晴らしさはきっと分かるはずです」(五十嵐さん)

良い傾向として、体験会に参加した社員の方が、その後手話サークルを作って、課を超えて活動しているというような例も出てきているそうです。これは社会一般に対しても同様と言えます。パラスポーツはまだまだマイナー。その認知を高めるために、まずは現場を知ってもらわなければ話になりません。従って、いかに足を運んでもらう機会、動機を作るかがポイントです。

障害者の法定雇用率の上昇に伴い企業の視野にパラスポーツも入るのではと、五十嵐さんは見ています。

「そもそも、障害のある方々と関わったことがない企業はまだ多いと思います。障害への理解や、障害特性だけでなく個々人に正対する姿勢がなければ、雇用はなかなか難しい問題です。では、どうやってそのような機会を創っていくのか。座学や簡単な実技のセミナーは私たちもよく行いますが、パラスポーツ体験は障害の理解と個々を知ることの大切さを知る早道になるかもしれません」(五十嵐さん)

つまり、法定雇用率アップという現実的な課題を与えられた企業が、パラスポーツの体験会などに参加し、実際に障害者に対する理解を深めることで、雇用環境の見直しにつながる。そうした展開を五十嵐さんは思い描いているのです。

パラスポーツ=JTBデータサービスと印象付けたい

32年前の創業以来、JTBデータサービスは主にグループ会社の業務支援で成果を上げてきました。今後さらに成長するためには新たな事業創出が不可欠だと生沼さんは力を込めます。

「これまではグループ各社から、障害のある方が取り組みやすい業務を切り出してもらう形でした。数年前からはそれにプラスして、自走・自活できる事業の立ち上げを積極的に進めています。例えば、障害者専門の人材紹介サービスはその一つです」(生沼さん)

新しい事業の題材としてパラスポーツも十分にあり得ると考えています。「今後、障害者雇用とパラスポーツを掛け合わせた事業を行うことも可能ではないか」と五十嵐さんは期待感を語ります。

また、こんな利点もあると話します。

「この活動をしていると、思わぬ出会いがあって、うれしいつながりができることがあるんです」と五十嵐さん。東京2020パラリンピック車いすラグビー銅メダリスト池透暢(いけゆきのぶ)選手 とは、TEAM BEYONDの体験会、観戦会に参加したことでつながりました。観戦会で日本車いすラグビー連盟の事務局の方と知り合い、JTBグループのセミナーイベントにパラアスリートを呼びたいと相談したところ、トントン拍子で話が進んだそうです。その後はご本人と直接連絡しあう機会まであり、担当者は、その気さくな人柄からすっかり池選手のファンになったとのことです。

「JTBグループ全体をけん引するくらいパラスポーツに詳しくなって、『何かあったらうちに聞いてくださいね』という立ち位置が確立できればいいですね。これはパラスポーツに携わる方々にもきっとメリットになるはずです」(生沼さん)

来るべきその日を目指して、これからも足しげくパラスポーツの現場に通うことでしょう。

左から

HR課
五十嵐康博リーダー
髙瀬圭介さん
生沼淳恵課長

株式会社JTBデータサービス
担当部署 営業部HR課
住所 〒135-0042 東京都江東区木場2-17-16 ビサイド木場4階
電話 03-6880-3320
URL https://jtb-jds.co.jp/
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