支援企業・団体の声
富士通株式会社
2024.10.17
障がいの有無に関係なく誰もがスポーツを楽しめる社会へ、企業スポーツを推進する富士通の本気度
連結子会社は国内外におよそ300社、従業員数はグループ全体で12万4000人以上。企業向けのITソリューションから働き方改革のコンサルティングまで幅広い事業を展開するのが富士通株式会社(以下、富士通)です。
押しも押されもせぬ日本を代表する大企業ですが、他方でスポーツチームの運営にも積極的なことで知られています。3年連続日本一のアメリカンフットボール「富士通フロンティアーズ」、2023年度に日本一に輝いた(Wリーグ優勝)女子バスケットボール「富士通レッドウェーブ」、そして「富士通陸上競技部」。さらには富士通サッカー部を母体として創設されたプロサッカーチームの「川崎フロンターレ」も挙げられるでしょう。
そんな同社は、東京2020大会スポンサーになったタイミングからパラスポーツの推進に力を入れています。その背景にはどのような思いがあるのでしょうか。Employee Success本部 企業スポーツ推進室の尾澤一雄(おざわ かずお)マネージャーと今井善教(いまい よしのり)マネージャーをインタビューしました。
なぜパラスポーツなのか。それを理解するには、まず富士通が掲げる経営テーマを知る必要があるでしょう。
「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていくこと」というパーパス(社会的意義)の下、同社はさまざまな企業活動や価値観を定義しています。同社が長年培ってきている企業スポーツ活動においても「スポーツの力で持続可能な社会の実現」を目指しています。
「スポーツには勝利の追求だけでなく、Well-being、多様性、テクノロジーなど、さまざまな要素と融合していくことで社会課題を解決し、よりよい世の中を作っていく力があります。わたしたちは長年、スポーツを支える人々の想いに寄り添い、世界的な大会のサポートを通して、誰もが幸せに暮らせる社会を目指して、共生社会の実現に向けた取り組みにも尽力してきました」と尾澤さんは説明します。
前述にあるようにパラスポーツの推進に力を入れるきっかけは、東京2020大会協賛です。大会を契機としたビジネスを含めた様々な対外的な活動の一つに、「東京2020オリンピック・パラリンピック」の前に発足した「オリンピック・パラリンピック等 経済界協議会」への参画があるでしょう。これは企業が政府や自治体、大会組織などと連携してオリパラを盛り上げ、大会を契機としたソフトレガシーを残すための取組で、富士通は「心のバリアフリー」に関するワーキンググループの幹事企業として活動しました。
その一環としても、社内外におけるパラスポーツ体験会や所属パラリンピアンによる講演会の実施等、パラスポーツを通じたDE&I理解促進の活動を広く展開してきました。
そのような活動を続けている中、コロナによる1年延期という2021年のタイミングで、陸上競技の兎澤(とざわ)朋美選手を新入社員として迎え入れました。兎澤選手はパラ陸上競技女子100mと女子走幅跳のT63クラス(=大腿部切断・義足)で自己ベスト(=アジア記録・日本記録)と着実に記録を更新、東京2020パラリンピックに出場し、直近では2024年5月に開催された「神戸2024世界パラ陸上競技選手権大会」のT63 100メートルで2位、T63走幅跳で2位の好成績を収めました。今年夏の「パリ2024パラリンピック」の出場選手です。
同社にはそれ以前にもパラスポーツの選手はいましたが、アスリート契約は彼女が初めて。ただし、尾澤さんが胸を張るのは、パラアスリートとしての採用ではなく、陸上競技部の他の選手と同様、通常のアスリート契約であることです。これはまさにDE&Iに通じるものでしょう。
兎澤選手の入社経緯について、尾澤さんはこう振り返ります。
「パラスポーツはダイバーシティ理解を進める大きなきっかけになると考えていました。社員の皆さんがもっと自分事として捉えるには応援する対象が必要だとなりました。たまたま大会が1年延期になったこともあり、兎澤という非常に将来有望な選手を迎えることができました」
なお、兎澤選手は正社員として入社し、現在は総務本部に所属しています。共に働く社員など周囲に対する影響はどうでしょうか。
何よりもまず、当初の目的にあったように、応援対象=富士通社員の仲間である兎澤選手が出場する陸上大会などには数多くの社員が駆けつけているそうです。
「この間の神戸の世界パラ陸上大会も、現地応援に30人ほど集まりました。それは兎澤が入ったおかげだと思うんですよね。以前であればパラスポーツの大会や試合を社員へ案内しても、なかなか集まりませんでした」と尾澤さんは苦笑します。
さらに重要なのは、そうしたパラスポーツの大会に実際に足を運ぶことで、多くの社員がダイバーシティを含めた何らかの気づきを得て帰っていくことです。
「障がいのある選手たちの活躍を目の当たりにして、何かが“出来ない人”ではなく少し工夫することで“出来る人”なんだということを感じて貰えたことが大きいです。参加者の感想で『挑戦する姿を観て、明日からの活力になりました』と言ってくださる社員も沢山いました。また、今までは障がい者と自分というものを意識のどこかで区別していた方が『人はそれぞれ違うのが当たり前で、何も違いはないんだ』と実感されていたことが嬉しいです」(尾澤さん)
日本で先駆けとなる「センサリールーム」を設置
「障がい者とスポーツ」という観点で富士通が取り組むのは、パラアスリートの雇用や社内啓発だけではありません。スポーツを通じた共生社会の実現に向けて、社外でもいくつかのことに取り組んでいます。その一つが「センサリールーム」の設置です。
センサリールームとは、音や光などの刺激を少なくし、聴覚、視覚などに感覚過敏の特性がある人と、その家族が安心して過ごせるように設計された空間のこと。例えばスポーツが好きだけど、大きな音や光が苦手なため、スポーツ観戦に行けない子どもでも安心して現地観戦できる空間となっています。富士通では障がいのある、なしに関わらずあらゆる人たちがスポーツを楽しめる世の中にしようと、感覚過敏や発達障がいの子どもをスポーツ観戦に招待するプログラムを提供しています。今井さんは次のように述べます。
「発達障がいや感覚過敏は見た目では分かりにくいのですが、実は運動をしたり、スポーツ観戦したりすることができない方が少なくありません。そういった世の中を変えていきたいのと同時に、このように困っている子どもたちがいるんだよ、というのを広く知ってもらうために取り組んでいます」
2019年、川崎フロンターレの試合で初めてセンサリールームを設け、観戦イベントを実施しました。その後、21年ごろからはアメフトや女子バスケの試合会場でも導入し、定期的に企画しています。米国や英国といった海外のスタジアムでは当たり前のように存在するセンサリールームですが、日本ではまだあまりないため、通常はVIPルームとして使われる場所を一時的に流用するなどして活用しています。
課題としては、センサリールームのキャパシティに対して応募が多いため、受け入れが追いついていないこと。とはいえ、富士通1社だけの力では限界があり、各競技のリーグ全体に広げていくことが不可欠だと今井さんは力を込めます。
その一方で、喜ばしいこともありました。センサリールームでの観戦をきっかけにスポーツに興味を持ったある子どもが驚くべき行動をとったのです。
「初めてのスポーツ観戦を経験したことで、外へ出てみる勇気が湧いた子がいました。きっかけは川崎フロンターレのサポーターがセンサリールームに来て、交流してくれたことです。交流がきっかけで、別の試合の際に『僕もあそこへ行って応援がしたい』と観客席に向かいました。ご存じの通り、サポーターの席はかなり応援の音が大きい場所です。普通であればあり得ないのに、そのサポーターの方と一緒に応援したいという思いが強かったのでしょうね。このような個人の成長に寄り添える企画になったのは良かったです」と今井さんは顔をほころばせます。
富士通の技術でスポーツをリアルタイム解説
発話者の声を音声認識し、リアルタイムでテキスト変換するツール「Fujitsu Software LiveTalk」を使った企画も、スポーツ観戦のきっかけ作りとなっています。これは主に聴覚障がいのある聾学校の生徒などを対象に、スポーツのルールなどをテキストで解説しながら観戦してもらうというものです。
「アメフトだとルールが分からない子どもが多いので、手元のスマートフォンにZoom(Web会議用アプリ)画面を出し、解説者の音声をLiveTalk(コミュニケーションツール)でテキスト翻訳して表示します。思いはセンサリールームと一緒。聴覚に障がいのある子どもたちにもスポーツ観戦を楽しんでほしいので、このような企画を始めました」(今井さん)
これはスタンド観戦でも可能であるため、受け入れ人数も特に問題となりません。ただし、まだまだ認知度が低いことが目下の悩み。引き続きアナウンスをしていきたいと今井さんは意気込みます。
社員や選手が「バリアフリーマップ」の作成に参加
3つ目は「バリアフリーマップ」の作成と配布です。富士通ではスタジアムや競技場までのアクセスマップに、車いすやベビーカーなどが安全に通行できるバリアフリー情報を織り込むといった活動をしています。現在は「Uvanceとどろきスタジアム by Fujitsu」「富士通スタジアム川崎」「とどろきアリーナ」「Ankerフロンタウン生田」「国立競技場」周辺のマップを用意しています。
この活動のポイントは、地図の作成にあたり富士通の社員やスポーツチームの選手などが関わっていること。制作作業を通じて車いすの人たちの困りごとを、身をもって体験しています。
「実際に駅からスタジアムまで歩いたり、車いすに乗ったりしながら、『ここに段差がある』などと細かくチェックしています。川崎フロンターレのマップに関してはフロンターレアカデミーの子どもたちに参加してもらいましたし、富士通スタジアム川崎のマップはアメフトの選手が、とどろきアリーナのマップはバスケの選手が携わりました」(今井さん)
そのほか、障がい者とスポーツに関わる取組としては、富士通本店1階に「Fujitsu Infinity Sports Square」を設置。ここは社内外の人たちがミーティングや交流を通じて共創する場であると同時に、富士通のスポーツチームや選手に関係するさまざまな展示物が並べられています。もちろん、義足をはじめパラアスリートが実際に使用。
「混ざる」環境がもっと必要
このような多岐にわたる活動を通じて、改めて「混ざる」ことの大切さを学んだと尾澤さんは話します。
「区別することじゃなくて、本当の意味での何も意識せず誰もが混ざるということが大事。障がいのあるなしも、その人の特徴の一つでしかない。例えば身長が高いか低いか、視力が良いか悪いかなどと同じです。もしそういう人が隣にいれば、それを考慮した行動や考え方に誰もが自然となると思います。背の低い人が網棚に物を置こうとして、手が届かなければ手伝ってあげるように普通なことだと思います。そういった混ざるという当たり前の状態環境を作ることが世の中的にも大事なんだろうなと考えています」
このような一人一人の実感となる気づきの機会としてスポーツの力で広めていく。社内だけではなく、社外に対しても同様に訴えていきたいと尾澤さん。そのためには富士通1社だけでなく、今後は志を同じくする企業同士で協働し相乗効果を高め拡大していく活動を積極的に進めていきたいと考えております。
このような情熱がパラスポーツを含めた富士通のスポーツ活動を支えるとともに、周囲の人々の心を動かしているのだろうと実感しました。
(※本取材は2024年6月に実施しています)
富士通株式会社
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