支援企業・団体の声
株式会社モリサワ
2025.7.16
「違い」こそが魅力!フォントとパラスポーツの共通点
パソコンや書籍、日々生活の中で当たり前に存在する「フォント」のメーカーとして、国内シェアナンバーワン*である株式会社モリサワ。長きにわたり印刷やデザイン、出版の世界で高品質なフォントを提供してきた同社が、近年積極的に取り組んでいるのがパラスポーツの支援です。背景には、「文字を通じて社会に貢献する」という社是が示すような社会課題に向き合う企業姿勢、多様性の尊重とパラスポーツの理念が共鳴する部分がありました。
(*株式会社矢野経済研究所「2022年版 フォント市場の実態と将来予測」および自社実績より推計)
その具体的な取り組みについて、同社のコーポレート・ブランディング企画推進室の河野博史(こうの ひろし)さん、南有希子(みなみ ゆきこ)さん、山下紗希(やました さき)さんに話を聞きました。
Windowsにも標準搭載されるUDフォント
パラスポーツの話題に入る前に、モリサワが掲げる「文字を通じて社会に貢献する」とは何か、その実例に触れておく必要があるでしょう。代表例がユニバーサルデザインに対応している「UDフォント」です。
同社がUDフォントをリリースしたのは2009年でした。その後も、さまざまな用途や場面に合わせて使用できるようラインナップを拡充。簡体字、繁体字、ハングル、ラテン文字、タイ文字、アラビア文字など、多言語にも展開しています。
同社のUDフォントの特徴は、より多くの人に「文字のかたちがわかりやすいこと」「文章が読みやすいこと」「読み間違えにくいこと」。今まで見過ごされてきた高齢者やロービジョン(弱視)など、読みにくさを抱える人にフォーカスしながらも、多数の人の読みやすさも大きく損ねないバランスで作られています。
UDフォントの開発にあたっては、ロービジョンの当事者や、その指導者の意見などを聞きながら、工夫や改良を重ねていったといいます。また、第三者研究機関によるエビデンスも取得しているとのこと。2023年には、国立研究開発法人科学技術振興機構が実施する「STI for SDGs」アワードにおいて「UDフォント(ユニバーサルデザインフォント)開発と普及促進」が優秀賞を受賞。公的機関によって開発経緯や普及促進の活動が評価され、この取り組みを紹介する動画も公開されています。
出所:国立研究開発法人 科学技術振興機構
科学技術の最新情報サイト「サイエンスポータル」
現在は、60種のUDフォントを揃えた年契約・月契約プラン「MORISAWA BIZ+」を提供しており、その一部はWindows OSにも標準搭載されています。

「元々、モリサワはデザインや印刷、出版業界のお客様が多くいらっしゃったのですが、他の業界でも文書作成は日常業務であり、フォントが役に立つ場面があると考えました。Windows OS搭載のデバイスを持ってさえいれば、誰でもすぐにUDフォントを使うことができます。文章を考えるのと同じくらい、フォントも意識して選んで欲しいですし、その選択肢にUDフォントが入っていると嬉しいです」と河野さんは説明します。
障がい者を応援するDNAがあった
そんな同社がパラスポーツの支援をスタートしたのは2015年。なぜパラスポーツに着目したのでしょうか。
歴史をさかのぼると、モリサワは写真植字機という印刷原版の制作に必要な機械の製造・販売していました。その写真植字機を使うオペレーターには、身体に障がいのある方々も多く従事されており、写真植字機を障がいの部位や程度に応じてカスタマイズして提供することもありました。障がい者と事業を通じた直接的な接点が古くからあり、「社会参画を応援するDNAが受け継がれてきていると思う」と河野さんは話します。また、1964年の東京オリンピックでは、テレビ局からの依頼によってTV放送用テロップ専用機を開発、提供したという歴史もあり、再びスポーツの分野で貢献できないかと模索していました。
始まりは、2015年1月に現在の公益財団法人日本パラスポーツ協会(JPSA)の協賛企業になったこと。ただし、社内に目を向けると、パラスポーツ支援の取り組みは当初から順調に進んだわけではありませんでした。
当時、広報宣伝課に所属していた河野さんはパラスポーツ支援の担当も兼務し、社員に興味を持ってもらうよう陸上、水泳のほか、ゴールボールや車いすラグビー、ボッチャなど、さまざまな競技への応援を呼びかけていました。ところが、距離的な問題で競技会場へ行ける社員が限られることや、土日に開催される応援イベントへの参加を促すのが難しいことなど、課題が生じました。
「家族や友人と応援すると楽しいですよとか、お弁当や交通費を会社が負担するとか、いろいろと工夫しましたが、なかなかすぐに参加者が増えるわけではありませんでした」(河野さん)
そうした状況であったものの、河野さん自身は車いすラグビーの大会ボランティアを務めたり、パラアスリートの小学校訪問を見学したりしていました。パラスポーツの枠にとらわれず、聴覚障がいを理解して、実際にコミュニケーションを取るべく手話の学校に通うなど、まず自分が関心を持てることから積極的に活動していました。
佐藤友祈選手と初のアスリート契約
そうした活動や自身の感じたことを社内に情報発信する中、2021年に車いす陸上競技の佐藤友祈(さとう ともき)選手との所属契約を結んだことで、状況が大きく動き出しました。これは同社にとって初めてのアスリート契約でした。きっかけは佐藤選手が同年1月にプロ転向を宣言したこと。それまで同社はパラアスリートとの接点はありませんでしたが、オープンな形で直接本人に思いを伝えられるチャンスだととらえ、支援の手を挙げました。

クレジット:アフロスポーツ
「佐藤選手のチャレンジ精神や熱量に惹かれました。また、佐藤選手自身もUDフォントをはじめ当社の姿勢や考え方に共感していたことも大きかったです。恐らく他にも契約の選択肢があったと思いますが、そうしたこともあってモリサワを選んでくれたのでしょう。社内でも契約に多くの社員が関わった影響が大きく、パラスポーツ支援の組織体制もできました」と河野さんは回想します。
所属契約後は、佐藤選手が会社を訪問して社員と交流したり、社内報のインタビューに応じたりと、次第にコミュニケーションが密になっていきました。
「所属契約選手という形だったので、業務に関わることや新たな社内設備の整備は必要ありませんでしたが、社員に『なぜ契約したのか』を理解してもらうことが最初は難しかったです。それでも、大会の応援に行った社員が写真を撮って社内に共有したり、社内報に佐藤選手のインタビュー記事が載ったりしたことで、徐々に認知が広まっていきました。1人の選手をみんなで応援するという具体的な活動が、一体感の醸成に少しずつつながっていくと感じられたのです」と河野さんは語ります。
とりわけ佐藤選手が東京2020パラリンピックで金メダルを狙えるポジションにいたことへの期待感が、応援の機運醸成につながったと振り返りました。
佐藤選手へのサポート内容について、河野さんは「佐藤選手が競技に専念できるよう、さまざまな支援や応援活動、また当社所属であることの露出に関する取り決めなどがあります」と説明します。
そしていざ迎えた東京2020パラリンピック。佐藤選手は400メートルおよび1500メートルに出場し、それぞれで金メダルを獲得しました。その時の応援の様子について南さんが熱く語ります。

「Microsoft Teamsでオンライン観戦していました。400メートルの決勝ではホームストレートで追い上げて、最後の最後で抜いた瞬間に『うわー!!』と大歓声が上がりましたね」
山下さんも「今はすごく強化されていますが、当時はちょっとスタートが苦手だったので、最初は追いかける展開でした。どんどん差を縮め『もしかすると……!』といった期待が高まりました」と続きます。
当時はコロナ禍だったため、在宅観戦組と社内で一部の社員が集まり、中継しながら応援をしていたのですが、中には感極まり涙した社員もいたそうです。それくらいの熱気と興奮が伝わってきました。大会後のイベントでは佐藤選手が積極的に金メダルをお持ちくださり、社員やその家族などが触ったり、首にかけて写真撮影したりする機会もあり、メダルの持つ重みや価値を感じる貴重な体験ができましたと南さんは目を細めます。
現在は「prierONE(プリエ・ワン)」という佐藤選手のファングループの運営にも協力し、レース後の報告会や交流の場を設けています。「子どもたちも参加しています。佐藤選手と顔を合わせ、直接話ができることで、『次も応援に来よう』という気持ちになるようです。こうしたことを繰り返していくのが大切だと感じています」と山下さんは意気込みます。
また、2024年のパリパラリンピック前には初めての試みとして、駒沢オリンピック公園競技場でファンミーティングを開催。約30人が参加し、佐藤選手と一緒にトラックを走る企画やクイズゲームなどを楽しみました。
そして契約から4年が経過し、関係はさらに深まっています。東京2020に続いて出場したパリ2024パラリンピックでは、銀メダルと銅メダルを獲得。目下、次の大会に向けた挑戦を応援する機運が社内で高まっているといいます。

「契約当初は初めてのことでどうしたらいいか手探り状態だったと思われますが、共に歩んできた時間の分だけ絆は強くなっています。競技の成果が第一ではありますが、社内の盛り上げに対しても佐藤選手自身が意識を高めてくださっています。本音の会話ができるようになり、いい関係を築けていると感じています」現在、佐藤選手とのコミュニケーションを担当する山下さんはこう力を込めます。
「違っていてもいい」というメッセージを伝える
モリサワは日本パラ陸上競技連盟(JPA)とオフィシャルスポンサー契約を結んでいます。このように支援の幅を広げていく理由を、河野さんは次のように語ります。
「当社のパラスポーツ支援は『あらゆる違いを、魅力に変えていく。』というテーマを掲げていますが、その先に『ユニバーサル社会の実現』というテーマがあります。これからは『違っていてもいい』ということも伝えていきたいと思います。フォントのデザインの違いが個性であり魅力であるように、パラアスリートそれぞれが自分の障がいと向き合い、鍛錬を続けることが魅力になっています。社会全体を見渡して言えば、パラアスリートに限らず、一人ひとりの『違いが魅力である』と捉えて、お互いに認め合い、共に生きられる社会になって欲しいです。このような考え方が社会に広まっていくことが、誰もが持てる能力を発揮して、活き活きと生きられるユニバーサル社会の実現につながっていくと思います」
その他にも、同社は2019年から北九州市の小学生車いすバスケットボール大会に協賛しています。2003年に始まったこの大会は、市内の小学5年生が約半年間、授業の一環で車いすバスケットボールを行い、その集大成として開かれるという、全国でも珍しい取り組みです。

「中学生にもなれば、部活動や体育で男女が分かれていきます。だからこそ、小学生車いすバスケ大会は、男女が一緒に競技できる貴重な機会だと思います。この競技は体格や運動神経に恵まれていたとしても、ひとりの力では勝つことができません。子どもたちは車いすの特徴を理解し合いながら、誰かにパスを渡すこと、受けることに、思いやりと信頼を込めて、見事なチームワークを見せてくれます。そして、勝って笑い、負けて涙を流すその姿がとても純粋で感動的でした」と河野さんは現地で観戦した印象を語ります。
パートナーづくりがパラスポーツ支援には不可欠
10年にわたってパラスポーツの支援を続けているモリサワ。こうした活動の輪が他の企業にも広がっていくためには何が必要なのでしょうか。河野さんは「同じ志を持てるパートナーづくりが大切」と断言します。
「スポーツ観戦には、それぞれ好みがあります。まさに一人ひとりの好みの『違い』なのだと思います。応援が盛り上がらないときも、そこで挫けず、さまざまなやり方や見せ方を工夫し続けることが大切です。何か悩まれることがあれば、ぜひモリサワに声をかけてください。私たちのこれまでの経験を、喜んで共有させていただきます。そしてそれは同時に、私たちが新たな学びや気づきをいただく機会にもなると考えています。お互いに力を合わせることで、思いがけないきっかけや新しい展開が生まれることもあると思います」と河野さんは続けます。
パラスポーツ支援の社内浸透に苦労した経験から、河野さんは社外からの反応や評価が社内の意識を変えるきかっけになることもあったと語ります。「世の中にSDGsの認知が広がり、今では小学生が授業で社会課題や社会貢献について学ぶようになり、企業規模にかかわらず、社会課題に向き合う姿勢が求められる時代になりました。私たちにできることは、まだまだ小さなことかもしれません。それでも、お客様からモリサワの活動に対してお褒めの言葉をいただくと、社員一人ひとりの関心も、少しずつ、着実に高まっていきます」
「パラスポーツ支援を社会全体に広げるためには『自分ごと化』できる要素が必要だと思います。スポーツの持つ感動を伝えると同時に、一人ひとりが関心を持てる要素です。そのためには競技の歴史やチームや選手の持つストーリーなど、さまざまな面を見せることが欠かせません」と河野さんは話します。
「これからも、一人ひとりが違っていいという思いを込めて、パラスポーツ支援のメッセージ『あらゆる違いを、魅力に変えていく』を発信していきます。同じ志を持てるパートナーのみなさまとも力を合わせて、パラスポーツを盛り上げていきたいですね」と河野さんは改めて強調しました。
ユニバーサル社会の実現を目指し、パラアスリートの鍛錬とフォントづくりを重ねて、一人ひとりの「違い」を魅力と捉えているモリサワ。
より多くの人の見やすさ、読みやすさを考えて作られた「UDフォント」は、身近なWindows OSに搭載されています。文書作成する際にはフォントにも目を留めてみてはいかがでしょうか。

株式会社モリサワ
担当部署 | コーポレート・ブランディング部コーポレート・ブランディング企画推進室 |
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