支援企業・団体の声
アクサ・ホールディングス・ジャパン株式会社
2025.7.29
ブラインドサッカーの価値を全社で発信、19年間続ける本気の支援が生み出すもの
「本当にすごい能力を持っていて、彼らには計り知れない力がある。そのことを実際に見て体感した従業員たちは、心から応援したくなるんです」

アクサ・ホールディングス・ジャパン株式会社(以下、アクサ)にて、サステナビリティ&エンゲージメントコミュニケーション アシスタントマネージャーを務める山下実沙(やました みさ)さんは、視覚に障害のある人たちがプレーするブラインドサッカーの魅力について目を輝かせながらこう話します。
同社は2006年からブラインドサッカーを支援し、現在では全社を挙げた取組として発展させています。その背景には、社会貢献を超えた、従業員一人ひとりの意識変革への強い思いがありました。
ボランティア活動がKPIに
アクサのパラスポーツ支援は、企業理念に深く根ざしています。その土台となるのが、1991年からグローバル全体で続く従業員ボランティアプログラム「AXA Hearts in Action」です。これは、従業員が自分の時間を使って社会的な課題解決に向けて行動する活動で、現在では重要なKPI(重要業績評価指標)の一つとしても位置付けられています。
「日本では2026年までに従業員の半数以上がボランティア活動に参加することを目標に掲げています。昨年ベースでは従業員の26%、今年は40%の参加率を目指しています」と山下さん。決して低くないハードルですが、それを支えるのが経営戦略に組み込まれたサステナビリティの取組です。
従業員によるボランティア活動は、2020年に公表したアクサのパーパス(存在意義)「Act for human progress by protecting what matters. すべての人々のより良い未来のために。私たちはみなさんの大切なものを守ります。」を体現するための原動力となるものです。2024年にはアクサグループが新戦略計画「Unlock the Future」を発表し、社会におけるアクサの役割を拡大するというコミットメントを主要な柱の一つに組み込みました。
実はパラアスリートだった従業員も
アクサはサステナビリティの取組の成熟度を高める過程でパラアスリートを雇用しています。現在、同社にはブラインドサッカー選手が2人、デフサッカー選手が1人、デフ卓球選手が1人在籍しています。

©Haruo.Wanibe/JBFA
パラアスリート雇用のきっかけは何だったのか。同社がブラインドサッカーをサポートしていた関係で、日本ブラインドサッカー協会から選手の雇用について相談を受けたことが始まりでした。現在のブラインドサッカー日本代表キャプテンの川村怜(かわむら りょう)選手は2013年に入社。当初は社内のマッサージルーム“リラクサ”で働いていましたが、現在ではコミュニケーション・ブランド&サステナビリティ部門に異動し、インクルージョン&ダイバーシティのアンバサダーとしての活動に加え、アスリートとしての活動が業務とみなされ、基本的には競技に専念しています。
一方、他のパラスポーツについては、障害者雇用を推進する中で、実は従業員にすごい選手がいたという発見から始まっています。
「最初は代表クラスではなく、徐々に力をつけてトップレベルになっていった選手もいます。デフ卓球の選手が国際大会に出場する際は、有志の従業員が遠征費を寄付で募ることもありました」と、サステナビリティ&エンゲージメントコミュニケーション マネージャーの鬼島博信(きじま ひろのぶ)さんは振り返ります。

(左)サステナビリティ&エンゲージメントコミュニケーション マネージャー 鬼島 博信さん
(右)メディアリレーション&レピュテーション
メディア&パブリックリレーションマネージャー 岩田 肇(いわた はじめ)さん
川村選手をはじめとする同社のパラアスリートたちは、競技活動だけではなく、インクルージョン&ダイバーシティをテーマとした講演活動でも会社に貢献。例えば、日本ブラインドサッカー協会が行う体験型ダイバーシティ教育プログラム「スポ育®」では講師としても登壇しています。なお、同プログラムは2010年の開始以来、約21万人の小・中学生が授業を受けています。
もちろん、対外的な活動だけではなく、社内向けのイベントにも積極的に参加しており、特に全国の営業所にも訪問し、「あたり前に混ざりあう」社会や企業文化づくりに向けたメッセージを発信し、大きな反響を呼んでいます。
「これまで試合開催がなかった地域の従業員にとって、ブラインドサッカーは東京だけのものという意識があり、遠い存在でした。しかし、川村選手が来ることで『自分たちもすごく勇気をもらった』という感想もあり、反響は非常に大きいです」(山下さん)
284人が参加した観戦イベントの仕掛け
ブラインドサッカー支援は2006年、先述した従業員ボランティアプログラムの中で、「何かできることはないか」と“ネタ”を探していた際に発見したのがきっかけです。
当初は参加する従業員が特定の個人にとどまる活動でしたが、2013年に転機が訪れます。日本ブラインドサッカー協会から日本選手権大会をサポートしてほしいという相談を受け、「アクサ ブレイブカップ」として大会に社名を冠することになったのです。
とはいえ、ボランティアや観戦の人集めは困難を極めました。会場が東京に限られ、当初は社会貢献に関心がある一部の従業員だけのイベントになりがちでした。潮目が変わったのは、無観客試合となった東京大会を経て、2024年のパリパラリンピックの盛り上がりです。
「パリパラリンピックは本当に大きな影響を与えました。会社にとっても、従業員にとっても、ブラインドサッカーに対する興味や関心を高めるきっかけになったと思います」と山下さんは力を込めます。

応援機運の高まりを逃すことなく、パリパラリンピック後、14人のプロジェクトチームを結成し、ブラインドサッカー観戦イベントの企画を練りました。以前も観戦機会はありましたが、社内で案内をしてもなかなか人が集まらない状況でした。
「参加してもらうためのきっかけが必要でした」と山下さんは打ち明けます。事前アンケートを実施し、交通費補助、アクサグループが公式トレーニングパートナーを務める英国プレミアムリーグの「リヴァプールFC」のグッズプレゼント、スタジアムまでのバスのチャーター便などを検討。最終的にグッズプレゼントの人気が最も高かったといいます。
さらに、元サッカー日本代表の中澤佑二(なかざわ ゆうじ)さんと、フィリップ・トルシエ元サッカー日本代表監督の通訳を務めたフローラン・ダバディさんをアンバサダーに迎え、従業員の興味関心を引きました。もちろんプロジェクトチームによる草の根的な活動も行い、山下さん自身も営業部門の朝礼に顔を出し、チラシを持参してプレゼンテーションを行うなど、積極的な呼びかけを実施しました。

結果、2025年2月に行われた「第22回 アクサ ブレイブカップ ブラインドサッカー日本選手権」決勝には、ボランティアを含め同社から計284人が参加するほどの大成功を収めました。

参加した従業員からは感動の声が多数寄せられたといいます。「感動して涙が出た」「貴重な経験だった」「応援したことで興味を持った」といった反応がありました。山下さんは、ブラインドサッカーの魅力を「良い意味でのカルチャーショック」と表現します。
「一度見れば、ファンになる方が多いと思います。迫力がすごいんです。普通のサッカーにはない選手同士のぶつかり合い、サイドフェンスへの激突など、独特の接触プレー。そして選手のボールコントロール能力、空間認知能力には本当に驚かされます。『目が見えているんじゃないか』とみなさんおっしゃるほどの精度でボールを捉えているんです」(山下さん)
なお、川村選手の日常の様子からも、人間の持つ可能性を実感することがあります。鬼島さんが話します。
「川村選手は白杖を持って会社に来ますが、社内では白杖を使わずに歩けるんです。空気の流れで壁の位置が分かり、体感で覚えている。音だけで、例えばセキュリティカードのタッチポイントも把握できます。人間の持つ能力は、目に見えている部分だけではなく、見えないところに大きな可能性があるということを、このスポーツは教えてくれます」
地域展開への挑戦
アクサは、日本ブラインドサッカー協会と連携して「アクサ 地域リーダープログラム with ブラサカ」も展開しています。これはブラインドサッカーやロービジョンフットサルのチームが全国に増え、それぞれの地域で活動を推進していくためのスキルセット、例えば、チーム立ち上げのノウハウや経営手法などを学ぶプログラムです。現在は全国に32チームありますが、最終的な狙いは47都道府県すべてにブラサカやロービジョンのサッカーチームを作ること。
参加者は多様で、スポーツ好きの人もいれば、視覚障害者支援学校の教師もいます。アクサ・ホールディングス・ジャパンの安渕聖司社長兼CEOもリーダーシップ研修の講師を務めるなど、トップ自らがこうしたパラスポーツのすそ野を拡大する社会啓発に関与することで、従業員の意識向上にもつながっているといいます。
パラスポーツに対する約20年間の取組みを振り返り、山下さんは今後の展望について語ります。
「私たちも日本ブラインドサッカー協会のニーズをお聴きしながら、多くのことを学び、手探りで活動を展開してきました。これが正解だとは思っていませんし、まだまだやるべきことがたくさんあります。パラスポーツの支援は一企業だけでできることは限られているので、それぞれの企業が持つ強みが混ざり合って、さらに応援できる機会が生まれると思います」
パラスポーツを支援したいと考える他企業に向けたメッセージとして、このように、まずはできるところからスタートすることの重要性を山下さんは強調します。
また、アクサは競技のプレー環境の整備や改善でも日本ブラインドサッカー協会と協働しています。メディアリレーション&レピュテーション、メディア&パブリックリレーションマネージャーの岩田さんより、こんなエピソードをいただきました。

「2006年当時ピッチにはサイドフェンスがありませんでした。世界選手権大会でアルゼンチンに渡航を果たしたチーム関係者から、世界の強豪はピッチにサイドフェンスがある環境でプレーしていたと聞いて衝撃を受けたんです」
サイドフェンスとは、ピッチ両サイドのライン上に隙間なく並んでいるフェンスのこと。ボールがサイドラインを割ることを防ぎ、選手がピッチの大きさや向きを把握することを助けます。今では当たり前の光景ですが、それまでは、ボールがピッチ外に出るとボランティアの人が壁の役割をして、大声で「カベ!カベ!」と知らせていたとのこと。
「1口500円の募金にご協力いただいた方にブラインドサッカーを知ってもらうため、シャカシャカボールをモチーフにした携帯ストラップをお渡しし、集めた資金で日本ブラインドサッカー協会にサイドフェンスを整備してもらいました。空間認知が行いやすく、プレー中断が少なくなり、世界の強豪チームに引けを取らないプレー環境が整いました」と岩田さんは続けます。
アクサのブラインドサッカー支援は、社会貢献活動を超えて、従業員の意識変革と企業文化の醸成に大きな役割を果たしています。「障害がある人たちとどう触れ合えばいいか分からない」という、先入観のあった従業員が、イベント参加を通じてそうした考えを払拭するケースも生まれています。
「ブラインドサッカーがお金を払って観に行きたいスポーツになっていることをもっと多くの人に知ってほしい」
山下さんのこの言葉からは、ブラインドサッカーの競技としての価値と、それを通じて得られる体験の大切さが伝わってきました。

アクサ・ホールディングス・ジャパン株式会社
担当部署 | サステナビリティ&エンゲージメントコミュニケーション |
---|---|
住所 | 〒108-8020 東京都港区白金一丁目17番3号 NBFプラチナタワー |
電話 | 03-6737-7200 |
URL | https://www.axa-holdings.co.jp/ |