パラスポーツから広がる共生社会

2020.03.18

『企業・団体向けBEYONDワークショップ「パラスポーツを通して地域とつながる』(2020年3月4日:中止)に登壇予定であった
拓殖大学 商学部 松橋崇史准教授に「パラスポーツから広がる共生社会」をテーマとしたレポートを寄稿していただきました。

1、はじめに

東京2020オリンピック・パラリンピック(以下、東京2020大会)を開催するにあたり、大会後にどのような「レガシー」を遺すのか、そのためにいかなる準備を行っていくのかということが議論されてきた。サッカーやラグビーなどの国際大会(ワールドカップなど)でも同様の議論が行われてきた。2019年に開催されたラグビーW杯では、初めてのアジア圏での開催となることからラグビーの世界的な普及が1つのレガシーとして目指され、日本国内ではラグビーの魅力の訴求によるラグビー文化の浸透が掲げられた。ラグビーが独特に持つ、ノーサイドの精神(勝負終了後は敵味方無しとして、互いに称えあう姿勢に特徴的にみられるもの)やワンフォーオール・オールフォーワンの姿勢は、日本代表の活躍と共に多くの人々の記憶に刻まれたことは、大会開催の重要なレガシーとなった。

国際的なスポーツイベントにおけるオリンピック・パラリンピックの特徴は、種目の多様性と参加国・地域の多様性であり、最大の特徴は、様々な障がいを抱える人々が参加するパラリンピックが行われることだろう。大会のレガシーも、パラリンピック開催に伴って広がることになる。本稿のテーマでもある“共生社会の実現”は、今日の日本社会が抱える重要な課題の1つであるが、その促進を促すこともパラリンピック開催のレガシーとして議論されてきた。

そもそも、スポーツは、それぞれの時代における社会課題に適応して様々な役割が付与されてきた。体育や部活動においてスポーツは教育の観点から役割を付与されたものだし、レジャーにおけるスポーツはプレーする人々にとっては余暇の充実や気晴らし、ゴルフ場やスキー場を提供する地方にとっては経済活性化の観点から役割を付与された。今年のパラリンピックは、国内においてバリアフリーやノーマライゼーション、共生社会の充実が叫ばれているタイミングでの開催となることから、それらの社会課題との親和性が意識されながら、様々な組織や地域で注目されるようになっていった。

2、パラスポーツと共生社会の接点

オリンピックのみの開催となれば、共生社会との親和性が議論されることは無かっただろう。パラリンピックだから時代の要請に応え、共生社会への実現にスポーツが活用可能と考えられるようになった。それがなぜなのか理解することが、パラスポーツと共生社会の接点を考える上では重要である。

オリンピックで行われるスポーツでは、ルールや用具に、プレイヤーが適応し、戦略・戦術を立てて試合に臨む。ルールや用具の規定は国際的な組織で決定される。例えば、ラグビーでは頻繁にルール変更が行われ、それに適応し、戦略・戦術を調整することが求められる。参加する選手・チームがルールを共有することによって平等な競争環境が生まれ、日本一や世界一を決めることができるようになる。使用用具には強い制約がかかっている。現在注目されているナイキ社製の厚底シューズの登場や、かつてのレーザーレーサー(好タイムを支えた水着。その後使用禁止)のように記録更新を促す用具の登場は大いに注目される。

ルールや用具の規定があることはパラリンピックで行われるスポーツも同じであるが、そもそもの出発点として、パラリンピックで行われるスポーツでは、選手の身体的な制約を前提にルールや用具のカスタマイズが行われている。パラリンピックでは、金メダルを目指して競技を行う点はオリンピックと変わらないが、ルールや用具の設定の発想が、オリンピックで行われる種目とは異なる。

パラスポーツから広がる共生社会

プレイヤーがルールや用具に適応するのか、ルールや用具をプレイヤーに適応させるのかは、重要な違いである。パラスポーツは、後者の特徴を持つ。今日では、厳密にパラリンピックで行われるスポーツよりも多様な種目(ルール)を指す言葉として用いられている。プレイヤーにスポーツ側があわせるという特徴を強調することで、例えば、老若男女問わず参加すること、スポーツが得意な人も不得意な人も参加すること、健常者と障がい者が一緒に参加することなどを前提にスポーツのルールなどを調整していくことが可能になる。パラスポーツの代表格であるボッチャが注目され、社内研修や各地のスポーツイベントで用いられる理由も、様々な条件を持つ人々が同時に一緒にプレーできるからだろう。

パラスポーツの特徴は、共生社会の実現とも合致する。様々な人が一緒に暮らしていけるように心のバリアフリーや施設のバリアフリーを促すことは、パラスポーツ同様、様々な人々が暮らしやすいようにルールを考えることに似ているからだ。マジョリティに合わせた画一的なルールだけではないと考える柔軟な発想が求められる。

 

3.パラリンピアンとの交流を通じた心のバリアフリーの浸透

パラスポーツから広がる共生社会

既存のスポーツとは一線を画すパラスポーツのメッセージ性が共感を呼び、パラスポーツを社内研修で用いたり、社内のコミュニケーションを促したりする取り組みが盛んになってきた。社員にボッチャの審判資格取得を推奨し、社員が地域等の様々なイベントのサポートを買って出るような社会貢献を行う企業まで現れている。各地においてもパラスポーツの大会などが盛んになりつつある。本稿では、パラスポーツの発想に共鳴してまちづくりを進めようという青森県三沢市の取り組みを紹介する。

三沢市は、内閣官房東京オリンピック・パラリンピック推進本部事務局が主導する共生社会ホストタウンに取り組む。ホストタウンは参加国・地域の人々との交流を行う自治体のことである。

三沢市ではカナダをホスト対象国として、車いすラグビーチームの事前キャンプを受け入れる。

パラスポーツから広がる共生社会

東京2020大会が決定した翌年の2014年に活動の検討を始めた。少子高齢化が進む中で、皆が幸せに暮らせる街を目指そうと市の総合計画を見直している中で、東京2020大会への関わり方を探ることになる。東京2020大会関連事業の一環でパラスポーツの体験会を開催した際に、従来のスポーツと異なり、多様な人が参加できるように設計されたパラスポーツのコンセプトに触れた。「共生社会を実現する」という市とパラリンピックのビジョンの共通性を実感し、まちづくりに寄与すると考えてパラリンピック参加チームの事前キャンプ誘致に動いた。カナダの車いすラグビーチームは、既に3回のキャンプを三沢市で実施している。選手との交流を通じて、市内の小中学校を中心に好影響が生まれ、公共施設のバリアフリー化も始まっている。

パラスポーツから広がる共生社会

2019年5月には「先導的共生社会ホストタウン」に登録され、“ユニバーサルデザインの街づくり”や“心のバリアフリーの取り組み”が一層推進しやすい状況になっている。カナダチームのキャンプを通じて、障がいに臆することなく活発になった児童、憧れの国際交流の現場にやりがいを見つけた高校生、町の活動への接点を見つけてアクティブになったボランティアなどもいる。一方で、三沢市の担当者の実感では、バリアフリーに対する市民の取り組みや、施設のバリアフリー化は、これまでのキャンプに関わる部分に留まっていて、市内全体に浸透しているとは言い難い状況があるという。2020年の本大会が、多くの市民に波及させるための大きなチャンスであり、そのための準備が重要になる。

パラスポーツから広がる共生社会

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