視覚障害のある人も、ない人も、見える人も、見えない人も楽しめる実況とはなにか。ブラサカ実況のスタイルを一から作る。

2021.05.19
視覚障害のある人も、ない人も、見える人も、見えない人も楽しめる実況とはなにか。ブラサカ実況のスタイルを一から作る。

2020年12月から4か月間、TBSラジオで毎週木曜日10時40分から10時45分に放送された「伊集院光とらじおと(月~木 朝8時半~放送)」内『伊集院光とらじおとパラスポーツと』。
伊集院光さんとTBSアナウンサーの喜入友浩さんが、ゲストを招きながら5人制サッカーの実況コンテンツを作っていく過程を通じて、5人制サッカーをはじめ視覚障害競技の魅力をお伝えしてきました。

今回パーソナリティを務めた伊集院光さんと喜入友浩さんのお二人から、放送を振り返っていただき、番組のご感想を寄稿していただきました。

—TBSラジオ「伊集院光とらじおと」パーソナリティ・伊集院光

スポーツ観戦全般が好きな僕ですが、中でもブラインドサッカー(以下ブラサカ)が好きです。プロ野球と同じくらい好きです。理由は簡単。「面白いから」です。「パラスポーツの中で」とか限定は何もありません。「全スポーツの中で」こんなに面白いスポーツはなかなかないと思っています。
誤解を恐れずに言うならば、パラリンピックではなくオリンピックの公式競技になってほしいと思っています。ブラサカのルールでは「フィールドプレーヤーは、その視力の強弱に関わらず、完全に目隠しをする」とありますから、ルール上問題はないと思います。そうなったとしても、現日本代表選手たちの立ち位置は揺るがないのではないかとも思っています。

この面白さをより理解したくて、プライベートでブラサカの初心者教室に参加しました。バッティングセンターで実際に打ってみると、野球観戦がより一層面白くなるのと同じ理屈です。
「パスを一本もらうにしても、出すにしても、彼らが軽々と行うプレーの一つ一つの難易度は、外で見ていた何倍も高度な技術である」すぐにそれはわかります。そもそもの目論見はズバリだったとともに、思いもよらぬところへ考えが広がっていきました。

僕は、19歳の時からラジオに出て喋っています。この原稿を書いている今は53歳で、タレント活動の中でラジオは僕の本業だと思っていますし、それなりのプライドも持っています。しかし、僕は、たかだか「右」と言う言葉ですら、その本質を理解できていなかったことに気付かされました。「声のする方に向かってあなたの右」ということの大切さ。「右だよ右」と言う言葉の足りなさ。

何度か教室に参加していくうちに、さらにブラインドサッカーが好きになり、次の疑問がわきました。
「なぜブラサカのラジオ中継をやらないのだろう?」大きな試合は、部分的にテレビで中継があったり、ネットで映像配信も増えてきましたが、パラリンピックでさえもラジオ中継の話をあまり聞いたことがありません。競技人数や、注目度の問題はあるのでしょうが「目が不自由な超人たちの大活躍を、目が不自由な人たちに届けずして何がラジオか?」そして疑問は僕の目標に変化しました。

視覚障害のある人も、ない人も、見える人も、見えない人も楽しめる実況とはなにか。ブラサカ実況のスタイルを一から作る。

「TEAM BEYOND」にスポンサードしていただいたラジオ番組で、「ブラインドサッカーの試合の実況コンテンツの制作」を企画の中心に置くことにしました。視覚障害のある人も、ない人も、見える人も、見えない人も楽しめる実況とはなにか。プロ野球中継もある程度の試行錯誤を経て「ピッチャー第一球のモーション振りかぶって、なげました」が通じるようになったと聞きます。「ブラサカ実況のスタイルを一から作る」。これには、TBSの若手スポーツアナウンサーの喜入友浩くんが大いに興味を持ってくれて、一緒に取り組んでいきました。

番組制作の中でブラサカの選手、コーチ、監督、協会関係者等のゲストとの話は奥深く「なぜあの時あそこに立っていたのか」「一見凡ミスに思われるプレーにどういう意図があったのか」「スーパーゴールは、どこから始まっていたのか」「僕に見えていないこと、彼らに見えていることとは何か」様々な疑問をぶつけるたびに驚きの答えが返ってきて、僕らのブラサカへの理解が飛躍的に深まるとともに「視覚障害とはなにか」「見えるとはなにか」ということへの疑問と興味が広がり、「柔道」「マラソン」の視覚障害者グループのアスリートのゲストを迎え、「障害とはなにか」「僕と何が違うのか違わないのか」「彼らはどうやって競技に出会ったのか」「僕の中の差別意識とは」となり、車いすラグビー、さらには車椅子の整備技術者までゲストにお越しいただき「人生とはなにか」もはや「人間とはなにか」にまで…

限られた文字数の中で、果てしないところまで話題が飛躍してしまいましたが、約束の期間を終え、本来ならば企画終了となるはずだった4月を超えても、僕らの疑問、興味は尽きないはずなので、パラスポーツの取材を続けていきたいと思います。
僕はスポーツを見る意味、見せる意味の大きな一つを「見ているものの人生のヒントになること」だと思っています。「あのポジションは僕の仕事においての誰だ」「あの選手が置かれている立場は、あの時の僕と一緒だ」「あの選手の気持ちは」「あの選手の復活劇は」…ブラサカには、車いすラグビーには、パラスポーツには、有り余るほどのそれがあると思っています。
僕のパラスポーツへの関わり方は、ボランティアとかそういうものではありません。面白いスポーツ、すごい選手にほかなりません。どうか今後もそれに関わらせてください。

視覚障害のある人も、ない人も、見える人も、見えない人も楽しめる実況とはなにか。ブラサカ実況のスタイルを一から作る。

—TBSラジオ「伊集院光とらじおと」アシスタント・喜入友浩

視覚障害のある人も、ない人も、見える人も、見えない人も楽しめる実況とはなにか。ブラサカ実況のスタイルを一から作る。

はじめまして、TBSアナウンサー喜入友浩と申します。TBSラジオ「伊集院光とらじおと」木曜アシスタント、そしてラジオやテレビでのスポーツ実況などを担当しております。

2年前に参加した障がいのある人もそうでない人も一緒にクライミングを楽しむイベントがきっかけでパラスポーツに興味を持ちました。以来、パラクライミングやパラ陸上、車いすラグビーなどパラスポーツの取材を始め、その魅力や凄さを伝えたいという思いを持ち続けてきました。

そんな中始まったこの「伊集院光とらじおとパラスポーツと」
喋りで人の心を動かすプロフェッショナルであり、パラスポーツへの深い情熱を持った伊集院光さんと一緒に「パラスポーツをラジオで伝えよう」というゴールに向かうことは大きな喜びであり、私の心も燃えました。今回、番組ではブラインドサッカーの実況コンテンツを作ることを柱にしました。そのためにまず競技のことを、そして障がいのことを学ぼうということで、伊集院さんと一緒に、誤解を恐れず、体当たりで取材をしてきました。結果、大きな収穫がありました。

ブラインドサッカーは、晴眼者であるゴールキーパーやガイドと視覚障がいのあるプレーヤーが一緒にプレーを作り上げるという特徴があります。「目が見えないから頑張っているとは思っておらず、一人のアスリートとしてリスペクトを持って接している」と話すブラインドサッカー男子日本代表の高田監督。そこに障がいの有る無しの境はありませんでした。ゴールキーパーの和地さんは「視覚障がい者から教わることが多く、お互いの得意、不得意を活かしてフォーローし合うのが普通の感覚になった」と自身の変化を教えてくれました。何が「普通」なのか考えるきっかけになりました。ブラインドサッカーのフィールドはまさに私たちが生きる社会の縮図だと感じています。両者の関わり方やお互いへのリスペクト、そこから生まれるプレーの緻密さに驚きました。

これから作り上げるブラインドサッカーのラジオ中継を通して「こんな凄い選手がいるんだ!」「あんなプレーができるんだ!」ということを聞いている人の頭に描き、伝えることは大きな目標のひとつです。

ただ同時に、取材の中での私たちの「気付き」を多くの方に伝えることできっと、実際の社会がブラインドサッカーのフィールドに近づいていくのではないか、そういった可能性も感じています。私はほぼ毎日、駅のホームで白杖を持った方を見かけます。立ち往生する姿に何もできなかったこともあります。何と声をかけたらいいのか、どんな反応をされるのか、迷っているうちにタイミングを逃していました。しかし、その迷いが取材を通して無くなっていくのを感じています。ブラインドサッカーがきっかけで自分の心が動き、考え方が変わってきました。そんな「きっかけ」がこの番組には詰まっています。

心揺さぶられるプレーの興奮を、そして変わる「きっかけ」を伝えるためにも、まだまだ番組を通して伊集院さんと挑戦したいことがたくさんあります。

20210519

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