TEAM BEYOND CONFERENCE
パラアスリート雇用の最前線

2023年2月28日、東京都立産業貿易センター浜松町館でTEAM BEYOND CONFERENCE「パラアスリート雇用の最前線」が開催された。第一部では、障害者雇用のコンサルタントや企業人事、パラアスリートをお招きし、パラアスリート雇用の基本から、雇用事例として現役アスリートの1日のスケジュールや勤務の実態などを紹介いただいた。

基調講演「パラアスリート雇用入門」

株式会社ユニバーサルスタイル 代表取締役
初瀬勇輔氏

基調講演を務めていただいたのは、北京2008パラリンピックに視覚障害者柔道で出場し、現在は障害者雇用を推進する企業を立ち上げ、パラアスリートの就職支援も行っている初瀬勇輔氏。初瀬氏は、東京2020パラリンピックに出場した選手のほとんどが企業に所属しているが、中小企業に所属する選手も多く、大企業ではなくても支援ができるという考えを持って欲しいと訴えた。

そして、近年のパラアスリート雇用の広がりには、法定雇用率の上昇、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の推進、広告効果への期待、また、挑戦するアスリートと共に成長したい企業が増えているといった背景があると言及。

選手の採用方法としては次の3つを紹介。1つ目は、企業と現役トップアスリートをマッチングするJOCの就職支援制度「アスナビ」。パラアスリートの登録があれば採用も可能とのこと。2つ目は、興味のある競技団体に相談してみること。3つ目は、人材紹介会社を使って競技の相談や支援内容のアドバイスがもらうことを挙げた。

続いて、アスリートの主な働き方は、「競技優先型」、「業務優先型」、競技と業務を両立する「デュアルキャリア型」の3つに分けられると説明。「競技優先型」は、競技力は向上する一方で、会社との関係性が希薄になってしまうというデメリットを指摘。お金を出しているだけだと失敗に繋がる原因になるので、社内研修の講師や、スポーツイベントでの一体感醸成など、D&I活動にアスリートが参画することで会社に帰属意識を持たせるなどの仕掛けが必要だと語った。

今後の課題としては、東京大会終了によるパラスポーツへの注目度の低下を挙げた。一方で、2025年のデフリンピック東京開催など、今後もスポーツの国際大会が日本で開催されるので、皆さまに一緒に盛り上げていただくことで注目度が高まると思うとも話した。もう一つの課題として、選手のセカンドキャリアを挙げ、企業がアスリートと現役中も含めコミュニケーションを取り、引退後を考えておくことが大切だと述べた。

オリンピックは平和の祭典だが、パラリンピックは「人間の可能性の祭典」と初瀬氏。パラアスリートという困難に立ち向かう仲間が社内にいることで、人間の可能性を信じることができる。皆さんもパラアスリート雇用を検討する際に、前例も予算もなく苦労をするかもしれないが、まずはチャレンジして欲しい。一緒に働く仲間になるパラアスリートから一歩踏み出す姿を学ぶことで、会社にイノベーションが起こると思う。ぜひ一緒に人間の可能性に挑戦して欲しいとメッセージを送り、講演を締めくくった。

アーカイブ視聴(2024年3月31日まで)

雇用事例紹介①株式会社エグゼクティブプロテクション
「アスリートの一人として、社員のひとりとして」

人事部長
河西寛氏
人事部
パラ・パワーリフティング選手
光瀬智洋氏

綜合警備保障会社であるエグゼクティブプロテクションからは、人事部長の河西寛氏とパラ・パワーリフティング選手の光瀬智洋氏が登壇した。

大前提として、挑戦するアスリートを応援する企業でありたいと河西氏。そのうえで、自社の企業イメージである若さ、力強さ、肉体美を前面に押し出し、若者に警備業に関心を持ってもらいたい。そのためのチャレンジの1つが、企業イメージとキャラクターが合致し、パワーリフティングの実績などを併せ持つ光瀬選手の雇用だったと語った。キャラクターを重視していたため、障害の有無は意識しておらず、純粋に選手を応援する目線で採用を決めたとのこと。

採用の目的には、若さ、力強さ、肉体美に興味のある方をリクルーティングしたいという人事採用面の期待があるという。光瀬選手が記録を残せば自社の注目度も上がり、よりピンポイントな人材の目線を自社に向けることができる。アスリートの一人として競技に専念することで記録を出してもらい、社員の一人として広報活動をお願いしていると話した。

広報活動をお願いするなら、より知名度のある競技や選手が望ましいと考えている企業が多いかもしれないが、選手の知名度やハンディキャップの有無はさほど関係ないとも。現代のメディアは、YouTubeやSNSなどで何の壁もなく自身のPRが可能になったこともあり、企業と親和性の高い特技を持つ人材であれば、企業のイメージアップに貢献できるチャンスは誰にでもあると河西氏。

雇用条件としては、固定給のほかに強化支援費としてジムにかかる費用等を支援。神戸市を拠点にしている光瀬選手とは、電話やメールでのやり取りで定期報告を受けるなど、積極的にコミュニケーションを取っているとのこと。また、関東近隣で合宿や大会が開催される際は、なるべく六本木のオフィスに立ち寄ってもらっているほか、経営層自ら大会へ応援に行くなど、会社全体で応援する機運を高めている。

最後にパラアスリート雇用を検討している人事担当へのメッセージとして、「最初は遠征中の取り扱いや必要経費の認定など、ルールのないところから始めていったが、競技にどれだけ集中させられるか、そのために何ができるかを常に考えていた。考えすぎて行動できないより、まずは実践してみることが大事だ」と語った。

続いて、光瀬選手は自らの歩みを振り返った。前職では、デュアルキャリアを重んじる企業で約3年勤務したが、日本記録保持者ながら東京2020パラリンピックで10人中10位という結果に終わったことで、競技に専念したいという想いが強くなり転職活動を開始。警備業の概念を変えていくというチャレンジングな姿勢にインパクトを受けて、入社を決めたという。

自分のような競技専念型の選手は企業と心の距離が生まれがちだが、自分の勝利や競技の成績が企業のPRになるという事は、選手にも企業にも良い関係だと光瀬氏。試合にも応援に来てくれるので、いい所を見せたい、勝って会社に貢献したいと思えた。目標は日本人初のパラ・パワーリフティングメダリストになること。そしてアスリートの一人として、社員の一人として、立場を忘れず自社に貢献したいと力強く語った。

六本木に本社を構える企業に所属しながらも神戸を拠点に活動している理由としては、「パラ・パワーリフティングはメンタルが影響する競技。東京の方が練習環境は整っているが、自分を事故から立ち直らせてくれた大好きな場所で応援してくれる地元の方のそばで活動したい。それが競技力に繋がるということで会社にも受け入れてもらっている。」と話した。

アーカイブ視聴(2024年3月31日まで)

雇用事例紹介②株式会社セールスフォース・ジャパン
「アスリートも仕事も諦めない。デュアルキャリアで実現するインクルーシブな世界。」

イクオリティオフィス・ディレクター
酒寄久美子氏
Trailhead Academy Certification Coordinator(認定資格コーディネーター)
車いすバスケットボール選手
古川諒氏

クラウドベースの顧客管理システムなどを提供するセールスフォース・ジャパンからは、イクオリティ(平等)オフィス・ディレクターの酒寄久美子氏と、車いすバスケットボールの古川諒選手が登壇。アスリートと仕事を両立しながら活躍するデュアルキャリアの雇用事例を紹介した。

社員のニーズに合わせた福利厚生制度やウェルビーイング施策をリードしている同社。イクオリティ(平等)の価値観に基づいてDEI(多様性、公平性、包括性)を実現する活動を実践している。酒寄氏は、セールスフォースが大切にするコアバリューとして、「信頼」「カスタマーサクセス」「イノベーション」「平等」「サステナビリティ」の5つを紹介。多様な人材が会社で活躍できるからこそ、製品や考え方にイノベーションが生まれ、その先にいるお客様の成功を後押しすることができるお客様の成功を実現するために、まずは社員の成功をサポートすることで、社員と会社がWin-Winの関係になると話した。また、ビジネスを推進する上で大切なサステナビリティについては、気候変動のリーダーになることをコミットし、かつ社会の変化に対応できるような多様な考え方を社員が持つことが必要である。その上で、ビジネスだけでなく社員の成長も大切にすることが重要であると語った。また平等の観点から最終的に同社が目指しているのは、多様性のある社会を反映した職場づくりの追求であるという。自分たちが暮らす社会と同様の多様性を職場でも実現するために努力していきたいと話した。

インクルーシブな職場の醸成には、社員一人一人が自ら自分ごとにして動くことが大切だという。セールスフォース・ジャパンでは、全社員の平等を実現するために活動する5つのイクオリティグループがある。古川さんは障害を抱える方を支援するAbilityforceに参加しており、コミュニティに参加する同僚のAlly(アライ)から多くの励ましをもらったという。

セールスフォース・ジャパンには、古川さんのようなデュアルキャリアアスリートが複数所属しており、コミュニティを築き、良い影響を与え合うWin-Winの関係が生まれている。アスリートの働き方には、競技専念やデュアルキャリアなどさまざまな形態があると初瀬氏の発言でもある通り、各アスリートの考え方によって異なるので正解は無いと酒寄氏。アスリートの皆さんにはキャリアや働き方について、個人の人生として、引退後のキャリアも含めて自分自身で考え、決定してほしいと述べた。

続いてお話しいただいた古川選手は、セールスフォース・ジャパンで自社認定資格の管理・運営、問い合わせ対応、認定資格関連システムのローカライズを担当しながら、車いすバスケットボールチームの埼玉ライオンズに所属。コロナ禍で競技活動がストップした際に、人生やキャリアについて熟考するようになった古川選手は、その不安をセールスフォース・ジャパンなら解消できる、自分らしく活躍できると考え入社を決めたと話した。

基本的には9時~17時の業務後に、トレーニングというスケジュールだが、フレキシブルに活動をさせてもらえるため、業務の間にトレーニングをすることもあるという。合宿や遠征の際は、終日トレーニングに充てることもあるが、その間も業務は進行しているので、置いて行かれないようアンテナを張っている。そこで助けになるのが同僚のサポート。逆に自分が、休んでいるチームメンバーのサポートをすることもあり、チームとして助け合う文化が社内に定着しているため、競技に取り組みながらも休養と仕事のメリハリが付いていると語る。

今後の目標は、セールスフォース・ジャパンで認定資格について勉強を重ね、サポート業務のスキルを上げること。アスリートとしては、パラリンピック出場と埼玉ライオンズの日本一。そのうえで、デュアルキャリアアスリートのロールモデルとなり、アスリートが取れる選択肢やキャリアへの考え方への理解を広めることを挙げた。誰もが自分らしさを諦めず、挑戦し続けられる社会を実現できるよう努力していきたいと決意を語った。

※本プログラムのアーカイブ配信はありません。

ワークショップ

認定NPO法人スローレーベル
「ソーシャルサーカス・ワークショップ」

第二部では、車いす利用者や聴覚に障害がある方も参加する中、認定NPO法人スローレーベルによる「ソーシャルサーカス・ワークショップ」が実施された。スローレーベルは、国内外で活躍するアーティストとともにコミュニティが抱える課題を発掘し、マイノリティの視点から社会課題を解決に導く「もの」「こと」「人」の仕組みをデザインする団体。

ソーシャルサーカスは、エンターテインメント集団「シルク・ドゥ・ソレイユ」のアーティストたちが25年に渡って蓄積したソーシャルサーカスのノウハウと、スローレーベルがパラリンピック開会式のために開発したアクセシビリティのノウハウを融合させた、独自の体験型教育プログラム。協調性・問題解決能力・自尊心・コミュニケーション力など、社会を生き抜くために必要なスキルを総合的に育む取り組みだ。今回は4つのワークが行われ、車いす利用者や聴覚に障害がある方も参加した。

最初に実施したのは「空間移動」のワーク。自由に会場内を歩き回りながら、講師の合図で目が合った人とハイタッチ。初対面で表情が硬かった参加者も徐々に笑顔に。慣れてきたところでハイタッチをする人数を増やしながらチームを作っていき、最後には8人組のチームが4つ完成した。

完成した4チームで次に実施したのは「コミュニケーションボールの受け渡し」。名前を呼んで相手にボールを渡す。ワークショップでは、ニックネームか下の名前を呼ぶルールになっており、敬称も禁止。名前を呼びあうことでぐっと距離が近づく。
次は名前を呼ばずに、アイコンタクトだけでボールを渡す。途中からボールの種類を増やし徐々に難易度がアップしていったが、参加者は互いにアイコンタクトを取りながら、スムーズにボールの受け渡しをしていた。

続いて「筒けん」を使用したワーク。筒けんとは、けん玉と同じような体験ができる20センチ程度の長さの筒と玉でできた道具。筒の上で玉をジャンプさせる基本動作からスタート。慣れてくると筒の上下に交互に玉を乗せる「もしかめ」などの技にチャレンジする参加者も。
その後は筒けんを応用して、筒けんリレーを実施。4チームがそれぞれ縦1列に並び、筒でボール受け渡す。先頭から最後尾までボールを受け渡し、また先頭にボールを戻すまでの速さを競った。どのチームも自然に声を掛け合いながら取り組んでいたのが印象的だった。勝利したチームには皆から拍手のプレゼント。上手くいかなかったチームも「ドンマイ」と声を掛け合うなど、会場内に一体感が生まれていた。

最後は2チームに分かれて「ソレイユ」というワーク。「ソレイユ」とはフランス語で「太陽、ひまわり」という意味で、大きな円になるよう並んだ参加者が、それぞれ放射線状に伸びるロープの端を1本持ち、ロープの中央に乗せたボールを離れたところにある筒の上に皆で移動しながら乗せるという大技。チームでコミュニケーションを取らなければ絶対に成功しないが、これまでのワークを通じてチームのまとまりができていたので、自然にアイコンタクトや声がけが行われ、身振りなども交えて見事成功。

最後に講師からそれぞれのワークの目的を振り返り。
「挨拶やアイコンタクトをするだけで業務が円滑に進むこともある。物を渡すときに一声かける心遣いも立派なコミュニケーションの一つ。筒けんでは、成功体験を通じて自己肯定感が上がった方も多かったのではないか。上手くいかなかった時は、その理由を自分の中にフィードバックして落とし込むことが大事。チームワークが求められるソレイユでは、名前を呼びあってコミュニケーションを取っていたのが素晴らしかった。自分の思いをどのように相手に伝えるのかを常に考えてほしい。」と話した。

参加者からは、「交流のコミュニケーションスキルが上がった」、「相手の障害を自身で気づいて普通に対処する感じが良かった」、「想像していた以上の成果を得る事ができ、自分に自信が持てた」などの感想をいただいた。

ソーシャルサーカス・ワークショップは、多様性理解やチームビルディングの学び、社内コミュニケーションの活性化など、企業研修としても活用されている。興味があれば、認定NPO法人スローレーベルへぜひ問い合わせを。

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20230410

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