TEAM BEYOND CONFERENCE
パラスポーツ×プロボノ ~企業・社員のノウハウでパラスポーツを応援~

2023年7月27日、野村コンファレンスプラザ日本橋にてTEAM BEYOND CONFERENCE「パラスポーツ×プロボノ~企業・社員のノウハウでパラスポーツを応援~」が開催されました。企業がプロボノに取り組む意義や社会背景、プロボノによるパラスポーツ支援の事例等について、支援を受けた競技団体やプロボノワーカーの実体験を交えた興味深い講演が行われました。

アーカイブ映像(2024年3月31日まで公開)

基調講演「プロボノによる団体の組織基盤強化 ~本業に活きる社会貢献~」

認定NPO法人サービスグラント代表理事
嵯峨生馬氏

基調講演では、企業人等の経験・スキルを活かした社会貢献活動である「プロボノ」のコーディネートを通じて、NPO・地域団体等の経営基盤強化の支援に従事する、嵯峨生馬氏が登壇しました。嵯峨氏が代表理事を務める「認定NPO法人サービスグラント」は、2005年から2023年6月まで、パラスポーツの競技団体を含む1,301件の支援実績を有しています。

嵯峨氏は冒頭で「競技団体と企業人がどう連携できるのか」に関して、「企業で活躍するビジネスパーソンたちが持つ、経験、スキル、知識、ノウハウがいっぱいある。それらを活かしてパラスポーツの支援に役立てていけば、普及・拡大や基盤強化に繋がる」と語りました。

そもそも、「プロボノ」とは何か。元々はラテン語で「Pro Bono Publico(プロボノ プブリコ)」、英語で「For Good Public」という言葉が由来であり、日本語に訳せば「公共善のために」という意味になります。「普段の仕事で鍛えられたことをそのまま、もしくは少しだけ応用して社会課題の解決に活かしていただければ、すなわちプロボノになります」と語り、プロボノは誰でもできる活動であることを強調しました。

続けて、プロボノによるパラスポーツ支援の位置づけについて、「競技を一緒にプレーしたり、大会運営をお手伝いする。こちらも大事な活動です。一方、表には見えない色んな悩みが競技団体運営にはあります。ガバナンスコードをどう守っていくか、事務作業をいかに効率的に進めていくかなど、団体運営の基盤から整えていくことが活動の広がりに繋がります。安定性と継続性を重視する民間企業だからこそ、土台部分である運営基盤の強化面において貢献できる領域が多い。」嵯峨氏はそう力説しました。

「企業によるプロボノ」について、興味深い調査結果があります。一般社団法人日本経済団体連合会(経団連)が2005年度と2020年度に行った『社会貢献活動に関するアンケート調査』がそれです。「企業の社会貢献活動に対する意識変化」を表すアンケートデータのうち、15年の間に大きく伸びを見せた項目として、嵯峨氏は以下を指摘しました。

「経営理念やビジョン実現の一環」 37%→83%
「社員が社会的課題に触れて成長する機会」 4%→53%
「ブランディング戦略の一環」 13%→27%
「将来事業/新規事業開拓に向けた試行」 1%→16%

このように、多くの企業の「ボランティア」や「社会貢献活動」に関する意識が変わってきていることが明確になっています。

嵯峨氏はこう続けました。「プロボノ、あるいは社会貢献は、企業にとって奉仕やお手伝い、お付き合いではもはやありません。それは、社員にとっての成長や、企業理念の実現に繋がることであるという認識が広がっています。」

そして、企業におけるプロボノの事例を踏まえ、「企業によって取り組む重点テーマは異なるが、いずれもチーム型支援が主流。本業と両立可能な時間と期間が設定され、様々な部署から、様々な経験をもつ少人数が集結。多様性のある社内横断チームが編成され、明確な目標に向かって進んでいく。」とその共通点を語りました。

サービスグラントが津田塾大学、神戸大学と共同で行った企業でのプロボノに参加した社員向けのアンケートによれば、実に98%が「個人が、本業ではできない体験を通して成長できると思う」(「そう思う」が78%、「ややそう思う」が20%)と回答しています。その結果、「本業への取り組み方を改善できると思う」という回答も「そう思う」「ややそう思う」が合わせて86%を占めるなど、「越境体験」とも言えるプロボノが社員の意識変革につながっている実情も明示されました。嵯峨氏はプロボノの一つの魅力として、「課題解決力に長けている社員を増やしたい、そんな要望をもつ企業にとっても有効ではないでしょうか」と、ポジティブに語ってくれました。

本日のメインテーマである「パラスポーツ団体へのプロボノ支援」については、団体の基盤強化にプロボノがどのように役立つのか事例を交えて紹介しました。「パラスポーツの競技団体は小さい団体が多く、限られた人と時間で運営しなくてはならない。運営の効率化・共有化や、広報の強化、重点テーマの設定など、競技団体のニーズに対して企業人のスキルや経験を活かすことで、課題解決に近づけることができる」と話しました。

事例紹介①
「競技団体がプロボノと共にガバナンス強化に挑む! ~航空機エンジニアがパラ競技へスキルをピボット!~」

特定非営利活動法人関東パラ陸上競技協会 理事長
花岡伸和氏
プロボノワーカー
石丸大祐氏(株式会社本田技術研究所)

基調講演に続き、プロボノによるパラスポーツ支援の事例紹介に移りました。

1つ目の事例として紹介したのは、関東パラ陸上競技協会へのガバナンス強化支援事例です。スポーツ庁は各スポーツ団体に対して、コンプライアンス強化の一環として、適切な組織運営を行うための原則・規範として「スポーツ団体ガバナンスコード」を策定。スポーツ団体に対し、セルフチェックシートに基づく遵守状況の自己説明と公表を求めています。

関東パラ陸上競技協会で理事長を務める花岡伸和氏は、地方競技団体の多くはボランティア活動で成り立っており、普段から事務作業に汲々としているのに、仕事が増えてしまったことで根を上げそうになったといいます。それでも「より良い組織になるために」ガバナンス遵守に向けて、舵を切りました。

客観的に団体の実情を知るためのセルフチェックシート作成と、問題点・改善点の把握ならびにガバナンス強化を目標に設定。しかし、「どのように進めたら良いかわからず、外部の視点から客観的なアドバイスが欲しかった」とプロボノに支援をお願いすることを決めました。

セルフチェックシートについては、協会が作成した草案をもとにプロボノチームと議論をしながら修正を繰り返し、協会で承認した最終版をHP等で公開しました。花岡氏は、「健全に団体運営ができているのかを第三者の視点から客観的にチェックしていただいたので、協働で作業を行えたのは意味があった。自分たちだけではこの成果を出すのは難しかったと思う。皆さんの力を借りられたことで、業務改善、組織改善につながった。」と振り返りました。

続いて、プロボノチームのメンバーである石丸大祐氏からは、プロジェクトに活用できた自身のスキルや本業への還元について説明がありました。

プロジェクト開始当初は、「ガバナンスコードは抽象度が高いうえ、文字だけで視認性が悪く、現場は困っていた。」と石丸氏は振り返ります。プロボノチームは「セルフチェックシートへのフィードバック」「次年度以降も使える遵守状況の検証と公開作業の手順書」「他団体事例・情報のまとめ」といった成果物を作成。この中で石丸氏が特に手を動かしたのが手順書の作成でした。

ひたすら文章が書かれているガバナンスコードを読み解き、細かく図を用いて視覚的に理解できるように手順書を作成。この時に本業で培った「生産技術」のスキルが活かされたと石丸氏。

「生産技術の仕事はまさに手順を作ること。航空機の設計者が図面を引いた後、生産技術者は、製品実現のために作業者が設計者の意図のとおり作業できるよう言語化・手順化する。今回のプロボノではまさに、生産技術者としての自分のスキルを整理できました。」

一方、現場で不具合が発生した際に、「図面は正しいのに何でできないのか」と設計者から問われることもあると石丸氏は語り、「今回のスポーツ庁と関東パラ陸上競技協会さんの関係がまさにそうだったかもしれません」と続けました。「そんな状況で、私のような第三者がデータをとって、現場の不満を視覚化して、論理的なロジックを作り、設計者にフィードバックする。すると、設計者は『だから、出来ないのか。ならば、ここをこう変えよう』となる。プロボノ参加を通じて自分のスキルを整理してみて、視覚化するのが私のスキルだとわかったので、今回のプロジェクト成果物でも視覚化することを意識した。」と話します。

石丸氏は今回のプロジェクトに参加したことで、自分の仕事をより客観的に棚卸しが出来たといいます。最初に就職した企業では航空機の量産に携わった中で、言語化、手順化、可視化するスキルを身に着けました。転職後、スキルの軸足はそのままで、対象を機体からエンジンの生産技術にピボット(片足を動かしてみた)。ある程度上手くいったので、次は別の対象にも自分のスキルは通用するのか試すため、全く知らない領域であるパラスポーツ競技団体のガバナンス強化にチャレンジしました。こちらも上手くいったことで、個人のスキルを軸足にピボットできると自信になり、現在は本業でも新しい分野にチャレンジしているといいます。「自分の領域をどんどん広げて、プロボノでの越境体験を通じて、私の成長に繋がりました」と語った石丸氏。

最後に、プロボノへの参加を迷っている方へのメッセージとして「(サービスグラントのプロボノは)スキルを活かせるプロジェクトにアサインされるので、まずは安心して手を挙げてほしい。私のように自分のスキルを見つめ直す機会になるので、プロボノは本業でのさらなるチャレンジにもつながる」と語り、事例紹介を締めくくりました。

事例紹介②
「“プロボノ”というスタイルの“パラスポーツ”支援 ~共生社会実現に向けた社員プロボノ活動の魅力と役割~」

NEC 経営企画部門 コーポレートコミュニケーション部
池田俊一氏
NECプロボノ倶楽部 代表
川本文人氏

2つ目の事例紹介として、日本電気株式会社(NEC)の社員2名が、社員と会社それぞれの立場からプロボノ活動の意義とパラスポーツ関連の取り組みを紹介してくれました。

まず、CSR推進を担当する池田俊一氏が、NECのSDGs貢献について「NECがPurposeで掲げる通り、安全・安心・公平・効率という社会価値を創造し、社会課題を解決していくことが重要である。そのためには、社員一人ひとりが社会課題への感度を高めていかないと実現できない。」と語りました。そして、認識された課題に対して会社の強みを活用し、地域社会やNPO・NGO等と「共創」という形で、経済価値と社会価値が両立した価値づくりに取り組んでいるといいます。

NECでは、若手の社会起業家育成プログラム「NEC社会起業塾」を長年行っており、卒塾生へのフォローアップとして、2010年に国内企業初のプロボノである「NECプロボノイニシアティブ」というプログラムを立ち上げました。元々のきっかけである社会起業家のフォローアップに始まり、自治体や教育機関なども支援。また、30年以上継続支援している車いすテニスを起点に、地域のステークホルダーと連携しながら、大会やイベントの企画・運営への支援を通じて、パラスポーツの普及啓発にも取り組んでいます。

池田氏は「プロボノは、社員が社会課題の現場に実際に参画することで、様々なニーズを汲み取ってもらう仕掛けの1つである。」と述べました。

続いて、社員創発による任意団体として設立されたNECプロボノ倶楽部の活動について、代表である川本文人氏が紹介してくれました。

NECプロボノ倶楽部は、2020年の設立から約3年間で70を超える企業や団体の社会課題解決に携わってきました。「自分に、仕事に、活かせる・つなげるプロボノ」「楽しくなけりゃ、プロボノ・ボランティアじゃない」をコンセプトに、現在は全国の社員500人程度でオンラインを駆使しながら社会課題を解決するプロボノ活動を行っています。川本氏はこれまでの経験から、プロボノ並走による社会課題の解決は、会社で培ったノウハウを活用することで喜ばれるものになると確信しているといいます。

続いて、社員創発のNECプロボノ倶楽部が急成長できた要因として、川本氏は会社のコーポレート部門と二人三脚で歩んできたことを挙げました。NECには、約8,000人の社員が登録している社内ボランティア管理システムがあり、プロボノ倶楽部でもこのシステムを活用してワーカーの募集を行っています。また、支援案件をNECプロボノ倶楽部のメンバーが参加する社内デジタルワークプレイスで告知し、メンバーのマッチングを行っているほか、誰でも進捗管理と成果を参照できる仕組みになっています。

NECプロボノ倶楽部は、その着実で明確な活動理念と取り組みが評価され、様々な賞を受賞しています。障害などで外出が難しい子供たちにもボッチャを楽しんでもらうため、川崎市の高校生と遠隔ロボットランプを共創開発。オンラインで楽しめるボッチャで共生社会実現を目指したこの取り組みは「かわさきSDGs大賞 特別賞」を受賞しました。川本氏は「産学連携は企業プロボノの有効な手段。学生単独ではできないことを企業が支援することで、パラスポーツを応援するという流れも作れると思っている。」と語りました。

また、パラスポーツへの支援としては、NECの強みを活かした競技団体の業務DX支援実績も紹介。手作業で進めていた業務のICT化を進めました。川本氏によると、最近はDX支援へのニーズが高いとのこと。

このようなNECならではの技術的な強みだけでなく、社員個人のネットワークやスキル等を活かした事例として、パラスポーツ大会やイベントの企画運営支援についても紹介してくれました。川本氏は「会社には色々なスキルを持った社員がいると思う。そのスキルを発揮する場として、パラスポーツを組み合わせた企業プロボノ活動ができるのではないか。」と語りました。

川本氏は最後に「企業プロボノだけでなく、個人でプロボノ活動を考えている方にも向けて」と前置きしてこう総括しました。

「プロボノは特殊な技能、会社でのスキルだけが発揮されるだけではないということを知って欲しいです。自分の趣味や得意分野を活かすこともできる。是非、パラスポーツ団体やパラアスリートのいる場所に飛び込んでください。たとえ小さくても、課題を乗り越えたら、それがプロボノだと思います。誰にでもできる。それが、パラスポーツのプロボノ支援です。」

交流会
「パラスポーツすごろく」体験

株式会社エムブイピークリエイティブジャパン 代表取締役
大海恵聖氏

基調講演、事例紹介の終了後に休憩時間を挟み、参加者の皆さんによる交流会がスタートしました。

アイスブレイクとして行ったのは「パラスポーツすごろく」。パラスポーツすごろくは、コミュニティFM「渋谷のラジオ」の番組「渋谷の体育会」で取材したパラアスリートのエピソードをまとめて誕生した、パラアスリートの人生を体験できるすごろくです。

交通事故で車いすユーザーになるところからスタートし、パラスポーツに出会い、国際大会を目指していきます。このすごろくの特徴は、ゴールの速さではなく、マス目やカードに書かれているリアルなエピソードによって増減する「アスリート力」の高さで勝敗が決定すること。パラアスリートのエピソードを知ることで、より身近に感じられるのが醍醐味です。

制作に携わった株式会社エムブイピークリエイティブジャパン代表取締役の大海恵聖氏から、パラスポーツすごろくの概要とルールの説明が行なわれました。また、同番組パーソナリティのフリーアナウンサー、平井理央さんがビデオメッセージで登場。平井さんからは「パラアスリートの人生をパラアスリートの目線で楽しんでいただける、そんなすごろくとなっています。たくさんのプロフェッショナルによって生まれた、まさにプロボノによって生まれたすごろくです」とメッセージが寄せられました。

体験に移ると、大海氏の明るく軽快なスピーチとともに、参加者は各テーブルに用意されたすごろくを4人ずつで囲み、パラスポーツすごろくを楽しみました。

ゲームで使用するアスリートカードには、パラアスリートの実名とともにエピソードが記載されており、大海氏からは「本を読むよりもぐっと身近に感じられる。すごろくをやっていくうちに自分がパラアスリートになっていくような体験ができる」という仕組みが説明されました。

すごろくのコマは、パラパワーリフティング、パラ卓球、パラ陸上、パラアーチェリー、パラフェンシングの5競技で使われる用具をデフォルメしたデザインで作られています。参加者は自分がやりたい競技を選び、コマを進めます。いざスタートしてみると、各テーブルが徐々に白熱していき、大いに盛り上がりました。

パラスポーツすごろくの後は、自由交流の時間。パラスポーツすごろくで打ち解けた参加者の皆さんが、講演の登壇者も交えて様々な話を交わし、和やかな雰囲気の中、TEAM BEYOND CONFERENCEは閉会しました。

TEAM BEYONDでは企業・団体メンバーを募集しています!

TEAM BEYONDは、アスリートだけでなく、スポーツをする人、観る人、支える人、さらには、企業・団体など、あらゆるジャンルを超えて、本プロジェクトの趣旨にご賛同いただいた皆様にメンバーとしてご加入いただいています。
企業・団体メンバー加入の特典として以下をご用意しております。

①パラスポーツ情報満載のメールマガジンを配信
②企業・団体のロゴやメッセージをTEAM BEYOND公式ウェブページに掲載
③TEAM BEYONDロゴの使用
④パラスポーツイベントの告知サポート(メールマガジン、各種SNSで発信)

〇メンバー登録はこちら
https://www.para-sports.tokyo/apply_form_register_group/

20230926

ページトップへ