支援企業・団体の声
東京都
2024.3.25
パラスポーツを取り入れた新任研修を開催
東京都は新任研修の一環で、パラスポーツを取り入れた運動会(あすチャレ!運動会:プログラム提供日本財団パラスポーツサポートセンター)を12月に全7回開催しました。約1,300人の新規採用職員たちは、所属を超えてチームを組み、パラスポーツを体験することでどんな気づきがあったのでしょうか。ある日の運動会の様子を紹介します。
新規採用職員の研修としての運動会
2020年から「多様性を尊重する職員を育成する」というコンセプトの下、新任研修にパラスポーツを取り入れた「あすチャレ!運動会」が導入されました。当初は、新型コロナウィルス感染拡大の影響により人数を絞って開催していましたが、2022年度から全員参加プログラムに。この日は、200人ほどの研修生が日本財団パラアリーナに集結しました。
相手を考えるコミュニケーション
運動会のナビゲーターは、ブッキーこと伊吹祐輔さんとパラ・パワーリフティング とパラアイスホッケーの現役選手でもあるマッシーこと馬島誠さん。
最初のメニューはアイスブレイクです。アイスブレイクとは、研修生の緊張をほぐしたり、場の雰囲気を作ったりするために行うミニゲームや雑談のこと。今回は声を出さずにコミュニケーションをとりながら、お題に沿ったグループをつくるというミニゲームを行いました。
声を出さずにどうコミュニケーションをとったらいいのか、戸惑いながらも、研修生はジェスチャー等でグループを作り始めます。最終的に答え合わせをしたところ正しく伝わっていたのは半分くらい。難しさがわかります。
アイスブレイク終了後にブッキーは、ジェスチャーの他にも、いくつかコミュニケーションの方法を紹介されました。「ある方法が使えない場合に他の方法を考える」、「相手の立場を考えて伝え方を変えてみる」これは、誰もが楽しめるようルールや競技用具を工夫しているパラスポーツの考え方に繋がるとともに、共生社会の実現にも繋がる重要なポイント。ナビゲーターのコメントから研修生たちはそのことに気付いたようです。
人気競技ボッチャに挑戦!
最初の競技は、パラリンピックでよく知られているボッチャ。ボールを操るテクニックだけでなく、相手との駆け引きが勝負のカギになります。
ナビゲーターのお二人からルールとコツの説明があった後、ビブスの色で8チームに分かれて競技がスタート。初めはボールの転がり方に戸惑う研修生がいましたが、試合を重ねるにつれ上手に投げられる人も出てきました。ナビゲーターの「今のはすごい!」「おしいなぁ!」などの掛け声で会場が盛り上がってきました。
聴覚を研ぎ澄まして臨むゴールボール
次の競技もパラリンピック種目であるゴールボール。選手は視覚を完全に遮るアイシェード着用して、静寂の中、鈴入りのボールの音と仲間の声や気配を頼りに攻撃と守備を繰り返して得点を競います。コートのラインテープの下には糸が挟み込んであり、選手は手触りで自分の位置を確認します。「あすチャレ!運動会」では、競技で使用するボールより柔らかいボールとアイマスクを使ってオリジナルルールで行います。
ルール説明とデモンストレーションの後に競技がスタート。初めは、アイマスクをしただけで方向を見失う研修生や音が聞き取れずボールに触れられない研修生が目立ちましたが、順番にトライするうちに、試合が成り立つようになってきました。応援する研修生たちは、試合の邪魔にならないように手話の拍手で音を出さずに盛り上げます。
研修生からは「研修を受講するまでパラリンピックの競技種目とその内容をほとんど認識していなかったが、ゴールボールを経験し、見た目以上に難しさと楽しさがあることを理解できた」「視覚障害者が感じている「見えないこと」への不安感を、ほんの短い間だが体験することができた」といった感想が寄せられました。
競技用車いすでつなぐリレー
最後の競技は車いすリレーです。はじめに、ナビゲーターのお二人からクイズを交えて日常用の車いすと競技用車いすの違い、動かすコツ、ルールの説明と注意点のお話がありました。
初めて車いすに乗る研修生がほとんどで操作に四苦八苦。思い通りに動かせなかったり、斜めに進んでしまったり。そんな時、コースの先で待っているチームメイトが声をかけたり、乗り降りのサポートをしたりという姿が見られました。力を合わせて競い合ったので、勝っても負けても最後の順位発表は大盛り上がり。
3種類の競技が終了し、研修生の表情は達成感にあふれているように見えました。「伝え方がいろいろあるのを知った」「車いすの操作が難しかった」「パラスポーツは誰でも一緒に楽しめると思った」研修生から様々な声があがりました。
「今日、この会場を出たら、街にはバリアがたくさん存在していることに気づくと思います。皆さんには、今日体験して感じたことを忘れないでほしいです。そうすれば、誰もが安心して暮らせる東京に変わっていくかもしれません」とブッキーから最後のメッセージ。大きな拍手に包まれて運動会は閉会しました。
「あすチャレ!運動会」が伝えたいこと
日本財団パラスポーツサポートセンターの「あすチャレ!」プログラムのディレクターであり、パラ・パワーリフティングの選手としても活躍している山本恵理さんに「あすチャレ!運動会」についてお聞きしました。
「パラスポーツには、さまざまな障がいのある人が公平に偏りなくプレーできるようにたくさんのアイデアが施されています。そのため、初めてチームを組んだ参加者同士であっても、協力し合って臨むことができます。また、運動会のスタイルなので、チームごとの一体感も高まってきます。自治体さんの研修で「あすチャレ!運動会」を取り入れていただいたことで、楽しみながら2024年4月に義務化される「合理的配慮」を考えるきっかけになって欲しいとも考えています。何かできないことにぶつかったり、制約があっても、工夫すればできるようになる手段があると伝えたいです」
また、「あすチャレ!運動会」を通じて知ってもらいたいことは、「パラスポーツを体験だけすればわかるというものではないので、ナビゲーターのブッキーやマッシーの言葉に落とし込んで皆さんに伝えています」
今回の「あすチャレ!運動会」を通じて、障がいを理解し協力し合うことの大切さと同時に、この「合理的配慮」についても学べたのだとすれば、新規採用職員にとって将来に向けての大きな気づきになるのではないでしょうか。
~研修担当者より~
この研修を担当している東京都総務局人事部の福岡俊雄さん、會津勇矢さんに、プログラムを採用した経緯、体験によって学び取ってほしいことについてお聞きしました。
「東京都の長期計画に「未来の東京」戦略が公表されており、戦略の1つに「ダイバーシティ・共生社会戦略」(共生社会の実現)を掲げておりますが、その共生社会の実現に向けた取組を強化していくため、多様性を尊重する都職員として必要不可欠な素養を早期から身に付けることを目的に新任研修に取り入れました。また、東京2020大会開催直前だったことから、パラリンピックの更なる庁内気運醸成を図るため、パラスポーツを体験する研修を取り入れることとしました」(會津さん)
研修生が実際に競技を体験して、個々で気づきや課題を感じられるように、体験型の研修を選んだと言います。
「都庁の業務は多岐に渡っています。障がいがある方、外国籍の方、いろいろな考えや習慣を持つ方など、多くの人と接する仕事なので、『自分の当たり前が他の人の当たり前ではない』ということに気付いてほしいという思いがあります」(會津さん)
「車いすに乗ったり、アイマスクをつけたりして、普段とは違う状態を自分で感じることが大事です。障がいがある方への配慮が自然にできるようになるきっかけになればと考えています」 (福岡さん)
また、この研修ではチームでパラスポーツ体験をすることから、新規採用職員同士のコミュニケーションや連帯感も深められるのではという狙いもありました。
「最終的には、それも含めて多様性の理解につながってくれればいいと考えています。そして、今後の業務に活かされることが目標です」 (會津さん)
「ただ、体験してよかったということだけでなく、それを仕事でどう活かしていくかという着地点が重要と考えています」(福岡さん)
研修生のアンケートでは、「自分で常識と考えていることは必ずしもほかの人にとっての常識ではないということを強く感じました」という気づきに関する感想の他、「車いすの難しさを感じ、道路整備等に今回の経験を活かしたいと思った」という業務に直接繋がる意見もありました。とは言え、新規採用職員一人ひとりのその後を追跡できるわけではありません。
「パラスポーツの体験によって、それぞれが得るものがあると思うので、今後、何かの機会に職場で生かしてもらえればうれしいです」と福岡さんは笑顔で結びました。
「隗より始めよ」
インクルーシブシティ東京の実現に向けて、職員自身が正しい知識や体験を通じて意識を高めていくこの研修は、まだ始まったばかりですが、パラスポーツ体験による「気づき」は未来の東京を形作るピースになるはずです。
東京都
担当部署 | 総務局人事部人事課 |
---|---|
住所 | 東京都新宿区西新宿二丁目8番1号 |
問合せ先 | S0000016@section.metro.tokyo.jp |