男子2種目で金メダル!「東京2025デフリンピック 陸上 4×100mリレー男女 4×400mリレー男女」観戦会レポート

2026.01.06
男子2種目で金メダル!「東京2025デフリンピック 陸上 4×100mリレー男女 4×400mリレー男女」観戦会レポート

日本で初めての開催となる、東京2025デフリンピック。2025年11月24日。駒沢オリンピック公園総合運動場陸上競技場で、陸上競技が行われました。トラック種目の最終日、デフリンピック第2回目のTEAM BEYOND観戦会です。観戦したのは、男女4×100m、4×400mリレー決勝です。陸上競技日本代表は、男女ともにリレー2種目で決勝に進出しています。

トラック種目最終日に行われた観戦会には、104名の参加者が集まりました。当日は、観戦ナビゲーターとして長年パラスポーツを取材しているライターの宮崎恵理(みやざき えり)さんにデフリンピックやデフ陸上競技の基礎知識や見どころなどを解説していただきました。さらに、特別ゲストとして手話通訳ユニット『ケーマトーマ』のお一人であるトーマさん、パラ陸上競技を題材に小説『伴走者』を執筆されている作家の浅生鴨(あそう かも)さんをお招きしました。トーマさんには、手話でのコミュニケーションやサインエールについて、浅生さんには、この日参加した視覚に障害のある参加者に向けた実況解説を担当していただきました。

宮崎恵理さん        トーマさん
浅生鴨さん

100周年のデフリンピック

デフリンピックは、パラリンピックよりずっと歴史が古く、1924年、フランス・パリで第1回大会が開催されました。100周年となる今大会には、79の国と地域から約2800人の選手が集結。陸上競技では、日本チームは男子34名、女子16名の計50名が出場しています。

デフリンピックに出場できるのは、聴覚に障害のある選手だけです。補聴器などを使用しない状態で聞こえる、もっとも小さい音が55db(デシベル)を超えていること、という規定があります。55dbは、静かな場所での普通の会話が聞き取れないという状況です。
「人によっては、音としては聞こえていても言語として認識できない、という感じでしょうか。120dbくらいになると、飛行機の大きな音も聞こえないというレベルになります」
とは、トーマさんの解説です。

聞こえない、聞こえにくいということだけでなく、体のバランスを保つ三半規管などにも影響があると言われています。音による情報が得られない、平衡感覚がとりにくいということが、聴覚障害の特徴として挙げられます。特に、急に頭を振る、体を回転させるなどの動作によって、めまいなどの不調をきたすことがあります。

デフ陸上の特徴 スタートランプ

デフリンピックにおける陸上競技は、一般の陸上競技とほぼ同様のルールが適用されますが、補聴器などの器具を外すことが前提です。陸上競技では、クラウチングスタート時に、スタート合図を視覚的に知らせる「スタートランプ」が開発され、使用されています。これが、一般の陸上競技と異なる特徴です。

トーマさんは、手話通訳ユニットとして活動を開始する以前から、高校の国語教師を続けています。また、中学・高校時代には陸上部に所属し中距離走の選手として活躍していた経験があり、陸上部で指導もされています。手話との出会いは、10年ほど前。生徒たちから「手話をやりたい」という声が上がり、一緒に手話を勉強するようになりました。

トーマさんは、スタートのタイミングを知らせるアプリの開発に携わった経験があります。
「ちょうど手話の勉強を始めた頃でしょうか。東京都内のろう学校でスマートフォンのアプリとして、陸上競技のスタートを合図するシステムの開発に携わりました。それ以前は、選手はみなスタート台に立つ審判のピストルが光る瞬間を見てからスタートしていたんですね」
三半規管に障害がある選手の中には、振り返って審判の合図を見た後にスタートする、という動作だけでめまいを感じる人もいたのだとか。

スマホに入れたスタート合図のアプリを使えば、選手は審判を振り返って見上げなくてもスタートできます。
「でも、当時はスタートして自分のスマホを踏んづけてしまった、なんていう選手もいました。そのアプリが進化して、現在のスタートランプになったんですね」

スタートランプは、クラウチングスタートする際に、選手が使用するスターティングブロックのすぐ前に設置されます。「位置について(オンヨアマークス)」で赤、「用意(セット)」で黄色、ランプが緑色に変わった瞬間がスタートです。選手は目の前のスタートランプの色の変化で一斉にスタートしていきます。

今回観戦したリレー2種目でも、このスタートランプが使用されました。

4×100mリレー 女子は6位入賞

いよいよ競技開始です。
最初は、4×100mリレー、女子決勝です。前日、予選が行われ、決勝進出を決めています。1走は今野桃果選手、2走は生井澤彩瑛選手、3走は猿楽彩香選手、アンカーに門脇翠選手。予選と同じメンバー、走順です。
女子のリレーは、2013年ソフィア大会以来12年ぶりの出場です。この間、女子選手の人数が少なくメンバーが揃わなかったのです。門脇選手と猿楽選手は12年前のリレーメンバーでした。18歳の今野選手、仙台大学1年の生井澤選手というデフリンピック初出場のフレッシュな選手たちが日本代表に選ばれ、12年ぶりのリレー出場を実現させました。

その女子日本チームは、3レーンです。各国の選手の走りを見ながら、全力で追いかけられるもっとも理想的なレーンでしょう。

男子2種目で金メダル!「東京2025デフリンピック 陸上 4×100mリレー男女 4×400mリレー男女」観戦会レポート

スタートランプの色が変わり、今野選手が飛び出しました。5レーンを走るドイツが他を引き離してぐんぐん加速していきます。スムーズにバトンが渡り、ついにアンカーの門脇選手に。3走の猿楽選手とのバトンパスが少し乱れたようにも見えましたが、結果は6位入賞でした。

金メダルの期待がかかる4×100mリレー男子

続いて、男子決勝です。男子日本チームは、このリレーの金メダル候補です。2017年サムスン大会の同種目で金メダル、さらに2024年台湾で行われた世界選手権では、41秒15の世界新記録を樹立しています。男子は参加国も多く、予選、準決勝を勝ち抜いた8チームが最後の決勝に臨みました。

1走は岡本隼選手、2走は冨永幸佑選手、3走は坂田翔悟選手、そしてアンカーには日本男子チームスプリントを代表するエース、佐々木琢磨選手です。佐々木選手は、今大会すでに100mで銅メダルを獲得しています。金メダルを獲得したサムスン大会、昨年の世界新記録樹立のレースでも走っている頼もしいアンカーです。日本は、4レーン。一番内側の1レーンから外側の8レーンのちょうど中間。女子同様、理想的なレーンとなりました。

号砲とともに飛び出した岡本選手からスムーズに冨永選手にバトンが渡されます。3走の坂田選手にバトンが渡ると、遠くのスタンドから見てもわかるほど加速力を見せて力強く走っていきました。そして、アンカーの佐々木選手へ。スタンド前の直線に差し掛かると隣のレーンを走るアメリカとデッドヒートを繰り広げていましたが、1位でフィニッシュ。タイムは41秒22。日本が持つ世界記録にはわずか0.7秒及びませんでしたが、圧倒的な走りで金メダルを獲得しました。

ゴールする佐々木選手
男子2種目で金メダル!「東京2025デフリンピック 陸上 4×100mリレー男女 4×400mリレー男女」観戦会レポート

4×400mリレー女子は6位 デフ日本新記録

午後3時40分、女子の4×400mリレーがスタートします。4×400mリレーは、1人の選手がトラックを1周するため観戦会の参加者がいるスタンドの目の前でバトンパスが行われます。このリレーでは、2走の選手のレース途中からオープンレーンといって、選手はトラック内側に自由に位置を変えて走ることができます。接戦の中での位置どりや駆け引きも、このレースの重要なポイントであり、見どころでもあります。

女子チームの1走は岡田海緒選手、2走は4×100mリレーにも出場した生井澤選手、3走も同じく4×100mに出場した猿楽選手、アンカーは中村美月選手が担当しました。1走の岡田選手は中距離を専門とする選手で、800m、1500mのデフ日本記録保持者。2022年カシアス・ド・スル大会では1500mで銅メダルを獲得しています。23歳の中村選手も岡田選手同様800m、1500mを得意とし、今大会でも個人種目で2種目出場しています。

女子のリレーがスタートしました。今回、日本は一番外側の8レーンでスタートです。後ろからスタートしてくる選手たちを気にせず自分のペースで走れる位置で、カーブがきつくないという特徴があります。選手たちはトラックを1周しウクライナが先頭に立ちました。日本は3番手でバトンを渡しています。オープンレーンに変わったところからケニアの選手が加速してウクライナの後ろについています。

3走の猿楽選手(左)

「3走の猿楽選手、足の回転がとても速い。すごくいいピッチで走っています」
と、陸上競技としても解説をしてくれるトーマさん。最終走者にバトンが渡ると、全てのチームがラストスパートを始めました。中村選手がゴール前にポーランドの選手に捉えられ、最終的に6位でフィニッシュしました。タイムは4分10秒54。中村選手も力尽きて倒れ込んでいましたが、この記録はデフ日本記録となりました。

ゴールするアンカーの中村選手

男子4×400mリレーも見事金メダル!

いよいよ、陸上競技トラック種目の最終レースとなる男子4×400mリレーです。前回大会では、コロナウイルスの感染の影響により日本選手団が途中で棄権を余儀なくされたため、男子はこの種目に出場していません。2024年台湾で行われた世界選手権では銀メダルを獲得しています。

1走は足立祥史選手、2走は村田悠祐選手、3走が荒谷太智選手、そしてアンカーは山田真樹選手です。山田選手は、東京2025デフリンピックのポスターにも登場している、まさに今大会の「顔」というべき存在。すでに個人種目で出場した400mで金メダル、200mで銀メダルを獲得しており、「この後、男子リレー2種目での金メダルを獲得して、大会を締めくくりたい」と語っていました。

「3走の荒谷選手、実は個人的にもとても親しくしていて。だから、つい応援に力が入ってしまいます」
と、トーマさん。
「競技のために大好きなコーラやジンジャーエールなどの甘い飲み物を封印して、ここまで頑張ってきました」

日が西に大きく傾き、競技場全体の気温がグッと下がりました。朝から駆けつけている観客は、メインスタンドを埋め尽くし、反対側バックスタンドでも大きくサインエールを送る人たちの姿が見られます。陸上競技場での最終日、全身を使った応援が、大きなうねりとなって選手たちに力を送っていました。

レース、スタート。日本は5レーンです。1走の足立選手は初出場の今大会で400mに出場し、厳しいレースで決勝に進出しています。2走の村田選手も同じく400m決勝を走り5位入賞。ともに400mの実力を備える選手が前半を担います。村田選手から3走、荒谷選手には3番手でバトンが渡されました。この後、荒谷選手の激走で、前を行くケニアを捉えトップに立ちます。ケニアと日本がデッドヒートを繰り広げながら、アンカーにつなぎました。

村田選手から荒谷選手へバトンパス

山田選手が走り始めた途端、すぐ後ろにいたケニアの選手がまさかの転倒。思わず後ろを振り返る山田選手ですが、レースを中断するわけにはいきません。そのままスピードを緩めることなく走りぬき、必死の追い上げをはかるコロンビアを振り切ってゴールしました。3分17秒00での金メダル。ついに、日本男子はリレー2種目での2冠を達成しました。

アンカーの山田選手

選手たちの言葉

「何より、女子のチームが12年ぶりにリレーに復帰できたこと。12年前よりもいい景色を見ることができました」
そう語るのは、女子4×100mリレーアンカーの門脇選手。門脇選手は2016年の世界選手権後、現役を引退しましたが、東京2025デフリンピック開催決定を機に、復帰しました。
「オリンピック・パラリンピックの日本代表選手と同じ、サンライズレッドのユニフォームを着用して今大会、初めて出場できました」
日本代表という自覚と誇りを胸に走り切った充実感が、女子選手全員の表情に表れていました。

男子4×100mの1走を務めた岡本選手は、19歳でデフリンピック初出場。ゴール後、涙を流していた姿が印象的でした。
「昨年、世界記録を樹立した時には、このメンバーには入っていませんでした。世界記録更新という目標もありましたから、すごくプレッシャーもあったのですが、先輩たちが支えてくれて、冷静に走れました」

若手選手を鼓舞して金メダルを獲得したアンカー、佐々木選手は語ります。
「リレーメンバーの中で私だけが30代。でも、自分は18歳という気持ちで、上下関係なく互いに言いたいことを言い合える信頼関係を、日常生活から築き上げてきた成果が出たと思います」

一方、男子4×400mリレーで3走を担った村田選手は、実は冬季デフリンピックの選手でもあります。2024年トルコで開催された冬季デフリンピックのアルペンスキーでは大回転で銀メダルを獲得。夏冬デフリンピックのメダリストとなりました。
「仙台大学では佐々木選手のほか、同じ学生にも聴覚に障害のある陸上競技選手が複数いて、いつも一緒に練習できています。夏冬二刀流選手としてメダルを獲得した日本人はいないと聞いています。達成できて、本当に嬉しいです」

今大会の顔である山田選手は、昨年の世界選手権ではリレー2種目に出場しましたが、今大会は4×400mリレーに照準を絞りました。
「4×100mは佐々木琢磨、4×400mは私。デフ陸上を引っ張る2人がそれぞれの役割を果たして、2つの金メダルを獲得できました。一緒に走った若い世代に、このバトンが確かに引き継がれていくのだと思っています」

とはいえ、男子4×100mではこの先、世界記録更新という目標もあります。まだまだ、佐々木選手も山田選手も、若い選手には負けないと意気込みを新たにしていました。

様々な参加者と一緒に観戦

今回の参加者の中には、選手と同じく聴覚に障害のある方や、視覚に障害のある方もいらっしゃいました。解説やゲストのトークはこれまでのTEAM BEYOND観戦会と同様、音声配信サービスでお聞きいただきましたが、聴覚障害のある方々には、解説の音声を手話通訳でお伝えするとともに、RICHO社のPekoeというシステムを使って手元のスマホで文字情報でもお伝えしていました。

さらに女子バレーの観戦会でも使用したNTTコノキュー社のスマートグラスMiRZAも準備しました。スマートグラスを通じて、競技を見ながらメガネの視界の中に、観戦会の解説をリアルタイムで文字化した情報や、会場の案内、関連する動画などをハンズフリーで同時にご覧いただき、より深く楽しんでいただきました。

また、視覚障害のある方々に向けては、浅生鴨さんが競技の進行やトラックの状況などをキメ細やかに説明し、選手の表情なども伝えていただきました。

解説があったことで、デフリンピックの陸上競技について知らなかったことを知る機会になりました」
「何より、日本チームが金メダルを2つもとる瞬間を目撃できたのが、とても嬉しかった」
「手話通訳の方と同時に、文字情報も参考にしました」
「トーマさんが選手の手話をその場で読み取って、何を話しているのかなど伝えてくれたのもすごく面白かったです。普段は絶対に選手の声は聞こえないですから」
「こんなにたくさん聴覚障害のある方がいらっしゃるとは知らなかった。そこに気づけたことも、みなさんと一緒に応援できたこともよかったです」
と、たくさんのコメントをいただきました。

東京2025デフリンピックには、会期中応援に訪れた観客は総数28万人にも及んだとか。実際、陸上競技場のメインスタンドは競技初日からいっぱいでした。
聴覚障害について理解を深め、デフリンピックを目指す選手たちにさらなる注目が集まっていく。東京2025デフリンピックが、その第一歩としての足跡を残したのでした。

男子2種目で金メダル!「東京2025デフリンピック 陸上 4×100mリレー男女 4×400mリレー男女」観戦会レポート

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