ロードレースの楽しさは変わらない ~ 明治神宮外苑大学クリテリウムに「パラサイクリング」初参加

2017.03.21

神宮クリテでパラサイクリング・ロードレースを初併催

2017年3月12日(日)、「第11回明治神宮外苑大学クリテリウム」が開催されました。通称「神宮クリテ」と呼ばれるこの大会は、今年度80周年を迎えた日本学生自転車競技連盟が、70周年を記念する行事として2007年に54年ぶりに開催した都心部サーキットロードレース。都心の公道をハイスピードで疾駆する選手を間近で観戦できるとあって、毎年注目を集めています。
今年の神宮クリテでは、新たな試みとして、国際自転車競技連合(UCI)公認の「パラサイクリング・ロードレース」が初めて同時開催されました。
レース前日の3月11日(土)、「ユニバーシティ・フォーラム」に参加するため、全国から競技者が集まりました。その機会に、神宮クリテでパラサイクリング・ロードレースが同時開催される意義などについて、選手の方々にお話を伺いました。

ロードレースの楽しさは変わらない ~ 明治神宮外苑大学クリテリウムに「パラサイクリング」初参加

集まってくださったのは、葭原(よしはら)滋男選手、鈴木陸来選手、橋本優弥選手です。
葭原選手は日本を代表するパラアスリート。二人乗り用タンデム自転車競技に出場し、2000年のシドニー大会では世界新記録で金メダルを、4年後のアテネ大会では銀メダルを獲得しています。
鈴木選手は法政大在学で、タンデムのパイロットを務めていて、2016 年度、インカレのタンデムスプリントで優勝しています。
橋本選手は鹿屋体育大在学で、2016 年度の学連女子トラック最優秀選手。お兄さんは2016年のアジア選手権で金メダルを獲得した、橋本英也選手です。
パラサイクリングの二人乗り用タンデム自転車では、前に健常の選手が乗り、後ろに視覚に障がいをもつ選手が乗ります。前に乗る選手を「パイロット」、後ろの選手を「ストーカー」と呼びます。この日はアテネ大会で葭原選手のパイロットを務めた大木卓也選手にも飛び入り参加していただき、和気あいあい、和やかに語り合いました。

2人のベクトルがぴたりと合ったアテネ大会

ロードレースの楽しさは変わらない ~ 明治神宮外苑大学クリテリウムに「パラサイクリング」初参加

葭原選手は、もとは陸上選手。24歳で走り高跳びを始め、92年のバルセロナ大会、96年のアトランタ大会に出場し、アトランタで銅メダルを獲得しています。
「年齢的にもう限界かなと思って引退を考えていたんですけど、自転車クラブチームの監督に声をかけられたんです。『金メダルを目指してみないか』って」
それが、自転車競技へ転向した理由とのこと。転向してわずか4年で本当に金メダルを獲得、しかも世界新記録で!
「シドニーで終わりにしようと思ってたんですけどね。やり残したことがたくさんあったような気がして…」
これを“アスリート魂”と呼ぶのでしょうか!?
「もう一度…。アテネを目指そう!」そう決心したとき、葭原選手の前に現れたのが、国内のアマチュアトップサイクリストとして活躍していた大木選手でした。葭原選手が41歳、大木選手が23歳のときです。合宿で葭原選手の姿はいく度か目にしていたという大木選手。でも、パラサイクリングの経験はありませんでした。二人の年の差なども含めて、戸惑いはなかったのでしょうか?
「年齢差なんて関係ないですよ。僕は、選手としての大木さんの実力を認めていましたからね」と葭原選手。

“互いを信頼し合う”、その関係なくして二人乗り用タンデム自転車は成り立ちません。選手の目となりレースを引っ張るパイロット。そのパイロットと後ろに乗るストーカーとの“呼吸”が勝負の鍵を握るからです。
「重心が一つにならないと…」
それが理想と葭原選手は断言しますが、2人が1つの自転車に乗っている状況から考えて、それはかなり難しいのでは…。
「数えきれないほど2人で乗っているけど、本当に息が合ったなと思えるのはほんの数回じゃない?」と葭原選手と大木選手は顔を見合わせました。その一つがアテネ大会。
「審判のジャッジに納得がいかなくて」
“憤り”の感情が2人のベクトルをぴたりと合わせたとのことです。

タンデム自転車競技の見どころとは

「2人の呼吸が合うと、自転車の重さがまったく感じられなくて、まるで空を飛んでいるような気分になりますよね」
鈴木選手が、「そこが堪らないんですよね」とでもいうような満面の笑みでいうと、「うんうん、わかるわかる」と葭原選手と大木選手が頷きました。タンデム自転車では、後ろの選手のハンドルは固定されていて、前の選手に合わせて身体を傾けます。激しい遠心力に耐え、2人が同時に同じ角度に身体を傾けてコーナーを疾駆。平均時速70~80キロメートル。そのスピード感と迫力、2人の呼吸や駆け引き。そこが二人乗り用タンデム自転車競技の見どころでもあります。

自身もパイロット役の鈴木選手が「とはいえ、パイロットにすべてを預けるって、すっごく怖いっていいますよね~。僕の相棒は『おまえに任せる』っていい切ってくれますが、インカレの場合、ストーカーの選手も見えているわけだから、自分の気持ちでハンドルを動かしたくなっちゃいますよね」というと、「後ろの選手、目隠しして練習したほうがいいかもね」と大木選手からアドバイスが。「目隠しですか…、いいかもしれませんね」と鈴木選手。なるほど…、二人乗り用タンデム自転車の競技では、パラスポーツとの垣根が案外低いのかもしれません。

「2人の呼吸が合うようになるためには、普段から一緒にいて、それこそ生活をともにするくらいのことが必要だと聞きましたが、そうなんですか?」と橋本選手が質問すると、「僕らは普段から仲がいいですよ」と鈴木選手。大木選手が「この前、初めて同じベッドで寝ましたよね~、部屋がとれなくて」というと、葭原選手が大笑い。やっぱり仲がよさそうです♪

パラサイクリングの今後について

パラサイクリングが同時開催されることについて「こうして直接お話できたのは今回が初めてですし、日頃はなかなかお会いする機会もないので、同時開催は選手同士の交流のいいチャンスだと思います」と鈴木選手と橋本選手は声を揃えて語ってくれました。
「お互いに刺激されることや、吸収できることがたくさんあると思います。こうした機会がどんどん増えてくれるといいですね」と葭原選手も相槌を打ちます。
「そして、インカレの選手の中から、僕らのパイロットになってくれる人がどんどん出てきてくれたらうれしいですね」

ロードレースの楽しさは変わらない ~ 明治神宮外苑大学クリテリウムに「パラサイクリング」初参加

葭原選手は現在ブラインドサッカーに転向していて、2007年から日本代表として活躍しています。一方で、タンデム自転車交流協会の顧問相談役として、タンデム自転車の一般公道走行の認可に向けて尽力しています。
「当初は2~3府県だけだったんです。ようやく14府県までになりました。僕は、一人では自転車に乗れません。タンデムに乗って、街を走りたいですね~。タンデムが公道を走ることができれば、お年寄りや身体の不自由な人だって自転車に乗れます。あの風を感じてほしいなぁ」

桜の開花も間もなくという、春の一日。2020年の五輪/パラ五輪を目指す選手たちの意気込みや静かな闘志をひしひしと感じました。こうしたささやかな出会いから、ともにメダルを目指すパイロットとストーカーが誕生するのかもしれません。

各大学新聞でも第11回明治神宮外苑クリテリウムの記事を掲載していますので、下記リンクバナーよりご覧ください。

20170321

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