放課後BEYOND

文化系女子が恋する!車いすバスケの世界

こんにちは。青山学院大学3年の盛本志穂です。

パラスポーツの語り手ならば、スポーツが大好きな人間かと思われるかもしれませんが、私は、根っからの文化系女子で、スポーツとは無縁の生活を送ってきました。(趣味はテレビにラジオ、加えて休日はなるべく家にいたいインドア派です)。
そんな私はこの夏実家に帰省した時に、あまりにも時間を持て余し、『スラムダンク』を全巻読破してしまいました。感動冷めやらぬまま東京に戻ると、パラスポーツの記事を書いてみないかというお話をいただきました。「スラムダンクを読んだことだし、車いすバスケだったら楽しめるかも!」と思った私は、車いすバスケの試合に行くことになったのです。

私が観戦したのは、「三菱電機 WORLD CHALLENGE CUP 2017」、イギリス対日本の試合です。試合前に競技用の車いすを体験させていただく機会があったので、その体験も踏まえて、観戦記を書きたいと思います。

車いすバスケというと、「激しい」というイメージを持つ方が多いのではないでしょうか。ディフェンスの時、相手の体に車いすごと当たっていき激しく衝突するシーンは見ている人をドキドキハラハラさせ、そのようなプレーは、試合に勢いを与えてくれます。
私も観戦していて、何度も車いすバスケのもつ「激しさ」に圧倒されたのですが、それと同時に車いすバスケの魅力はそれだけでないことに気付きました。車いすバスケの見どころ、それは「持ち点制」「滑らかさ」にもあります。

<<ルールの要となる「持ち点制」~チーム作りに求められる戦略性とは~>>

まず「持ち点制」について説明します。
車いすバスケのルールは一般のバスケットボールのルールとほとんど変わりません(スラムダンクでつけた知識で十分楽しめました。パラスポーツを初めて見る、という方にも、はじめの一歩としておすすめのスポーツです)。

車いすバスケ特有のルールの一つが持ち点制です。
選手は個々の障がいレベルに応じて、障がいの重い順に1.0~4.5と0.5点きざみで持ち点が定められています。そして、試合中コート上の5人の持ち点の合計が14.0点を超えてはなりません。これは障がいの重さに関わらず、すべての人が試合に出られるようにするためのシステムです(選手がそれぞれ車いすの後ろにつけている旗を見ると、各選手の持ち点がわかります)。

もちろん選手交代後も、持ち点の14.0点を超えてはいけません。例えば一般のバスケの場合、逆境の時に強い選手を入れて一発逆転を狙う、ということがあります。しかし、車いすバスケの場合、持ち点制があるため、ただ強い選手を入れればいいというわけではありません。
例えば、4.0点の選手と2.0点の選手の二人を交代させるならば、交代後の選手は、同じく4.0点の選手と2.0点の選手を入れるのか、それとも3.0点の選手を2人入れるのか。
持ち点制を守りつつ、最強のチームを作る、ということは、戦略性がとても大切になってくると実感しました。

<<選手と車いすが生み出す滑らかさ~広いコートの端から端まで、車輪を回したのはたった3回!?>>

次に「滑らかさ」についてです。
試合中、選手たちは車いすを乗りこなし、相手選手をかわすために細かくターンしたり、スピードを出してゴールまでボールを運んだりします。
私が試合の中で一番感動したのが、イギリスからリバウンドをとった日本の選手がそのまま日本のゴールへ向かっていき、ゴールを決めた瞬間です。
ゴールへ向かう途中、タイヤを回したのはわずか3回ほど。一回こぐだけでかなりの距離を稼ぐことができるのです。
スーッと滑らかに進んでいく様子は、アイススケートを見ているかのようでした。
スピードを緩めることもなく、ゴール下からボールをひょいっと放つと、きれいなゴールがきまりました。

実はこの滑らかさの秘密は、競技用の車いすにあります。
私も体験してみて初めて気づいたのですが、競技用の車いすは一般の車いすと違い、タイヤがななめについています。このため回転性能が高くなり、選手たちの細かな動きを可能にしているというわけです。
タイヤの動かし方を少し変えるだけで、車いすは前後左右どの方向にも進むことができ、選手たちはこの車いすを乗りこなし果敢にプレーしているのです。
そして一番驚かされたのが、一こぎでかなりの距離とスピードを出すことができるという点です。車いすにはブレーキがついていないので、少しスピードが出ただけでもちょっと怖いな、と感じたほどです。一般のバスケットボールで選手がボールを受け取ってからゴールするよりも圧倒的に早いスピードでゴールまでボールを運んでいるので、そのスピードに驚かされました。

私自身、競技用の車いすに乗るのは初めてだったのですが、その操作の難しさに翻弄されました。ただまっすぐに進む、ということだけでも始めは苦労しました。車いすのタイヤはとても敏感で、ちょっと動かしただけでも方向が変わってしまいます。少し気を抜くとあらぬ方向へ進んでしまうので、たった20メートルほどの距離でも集中しなければなりませんでした。加えて、あの大きなタイヤを回すには想像するより力がいります。私が競技用の車いすに乗っていたのは30分ほどでしたが、翌日には二の腕が筋肉痛になったほどです。
体験後に試合を見ていると、器用に車いすを乗りこなす選手たちがより輝いて見えました。全速力で進んでいると思ったら急にブレーキをかけたりバックしたり。こんなにスムーズに操作できるようになるまでには相当の練習を重ねたんだろうな、と思うと胸がジーンとしました。

ゴールが決まると、私は思わず友人と「おーっ!!」と顔を見合わせました。ボールを持ってからわずか数秒、選手の美しい動きに見とれていました。
ハイスピードに展開する試合の中で、衝突をしながらもボールを奪い合う激しさとは対照的に、こんなにすんなりと気持ちよくゴールが決まるなんてとても爽快な気分でした。

試合を見て、車いすバスケは、頭と感情を揺さぶるスポーツだと感じました。
持ち点制からは、チーム全体のバランスを戦略的に考えなければならないという難しさがあります。
そして、激しいぶつかり合いの場面と、スピードを出して滑らかにコートを進む場面が繰り返され、その間を行ったり来たり、その動きを追うのに、振り回されっぱなしで、驚きの連続でした。

スラムダンクを読んだ、というひょんなきっかけから観戦に出かけた私ですが、会場を後にするころには深い感動で胸がいっぱいでした。車いすバスケにこんなにも感激させられるとは想像もしていませんでした。
車いすバスケからもらったこの熱い気持ちは、会場に行った人だけが味わえる特権です。感動冷めやらぬまま、私は帰りの電車の中でさっそく次の車いすバスケの試合を検索していました。この日、車いすバスケというパラスポーツとの出会いが、私のスポーツ観戦の始まりになりました。

パラスポーツを観戦してみたいと思っている方は、ぜひ車いすバスケの会場にも足を運んでみてください。たった40分の試合の中で生まれる数々の物語に、あなたも胸を打たれるはずです。
(文責:青山学院大学 3年 総合文化政策学部 盛本志穂) 取材日:2017年9月1日


<放課後BEYONDとは>

2020年にハタチになる高校生や、新社会人となる大学生など、未来を担うTEAM BEYOND学生メンバーが放課後に集まり、パラスポーツについて学んだり、実際に体験したりしながら、同世代に向けて発信していくプロジェクトです。学生の声で、パラスポーツの魅力を発信していきます。

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