放課後BEYOND

はじめに

“その人にしかできない滑りがある。”パラアルペンスキーの魅力をアルペンスキーチームヘッドコーチ志渡一志さんは語った。今回は、2018年の平昌パラリンピックに向けてメダルへの期待が大きく寄せられるパラアルペンスキーについて深く知るきっかけとなった濃い40分の取材であった。

パラアルペンスキーとは?

健常者アルペンスキーと同じく5種目に分けられている競技。
滑降、スーパー大回転、大回転、回転、スーパー複合があり、それぞれタイムで競うスポーツである。
2014年のソチパラリンピックで日本人選手は3種目で金メダル、1種目で銀、1種目で銅メダル、合計で5つのメダルを獲得するなど日本人選手の活躍が際立つ種目でもある。

パラアルペンスキーの今

2016年−2017年にかけての冬、長野県白馬村にて、パラアルペンスキーのW杯が開催された。そこでも日本人選手の活躍は目覚ましく、森井大輝選手(37)が男子座位の個人総合優勝を果たし、W杯2連覇を達成するなど、平昌へと繋がる順調な出だしとなった。

——白馬での大会も終わり、平昌への期待が高まりますが、選手やコーチはどのような準備をなさっているのですか?

基本的に選手は基礎体力をあげるトレーニングをしています。最近ナショナルトレーニングセンターを障がい者のスポーツ選手も使えるようになり、低酸素室で5〜6日過ごして高所順応のためのトレーニングなどもしています。1年の半分は外国で過ごす選手が多く、遠征でチリやニュージーランドによく行きますね。コーチとしては栄養管理や心理的なサポートをしています。2020年の東京オリンピック・パラリンピックが決定したことで、確実に競技環境は良くなってきていて、選手の負担が軽減されるようになったと感じます。

——競技環境というとスポーツ用具がありますが、今まで取材してきた中で、大半の競技は外国製のものを使用していて、その用具のコストがとても選手の負担になっているという話を聞きました。その面で、パラアルペンスキーの用具の状況というのはどのようなものですか?

パラアルペンスキーの座位では、チェアスキーと呼ばれる用具を使います。世界各国の座位の選手の大半は、日本製のチェアスキーを使用しています。日本製のチェアスキーが生まれたきっかけは、長野パラリンピック後、森井大輝選手が日本のメーカーとチェアスキーの開発をはじめ、トリノモデルと呼ばれるものを作ったことが始まりでした。そのモデルを他の選手も使用するようになり、今やスタンダードな形となった訳です。森井大輝選手はその後もチェアスキーの開発を競技の練習と同時に進め、ソチモデルも開発し、これもまたトリノモデルにつぐスタンダードな形として浸透しています。

——メイドインジャパンのものを使えるというのは最高の武器となりますね。だからこそ、欧米諸国に並ぶほどの高いレベルを維持しているのではないでしょうか?

そうですね、自分にぴったり合った道具を使える環境はとても大切だと言えます。しかし、欧米諸国に学ぶべき点はたくさんあって、特に組織の面では欧米の方が進んでいます。今の日本のパラアルペンスキーでは選手の人口の幅が狭いこと、協会の人材不足という2つの点で大きな課題があります。

まず、競技人口については、今のチームにはベテランが圧倒的に多く、若手の選手が数少ないということです。欧米では競技人口が多いことからピラミッド型の組織が成り立っていて、次の世代の育成も充実しています。日本ではベテランの選手とジュニアの選手とが分けられてすらいないというのが現状です。
協会の人材については、日本の協会にはクラシフィケーションの国際資格を持つ人がいないということです。クラシフィケーションとは、選手の障がいの種類でクラスに分けることで、国際資格を持つ人はその障がいの種類を判断してその選手のクラスを決定する人です。国際資格を持った人にクラシフィケーションをしてもらわないと、国際試合に出場できないのです。
今は海外で大会がある前に合わせてクラシフィケーションも済ませていますが、これから先、組織として発展していくためには国際資格を持つ人が必ず必要になります。
このように、日本のパラアルペンスキーは、組織面でもっと進化する必要があるんです。

——なるほど、成長の余地がまだまだあるということですね。私は記事を書いてパラアルペンスキーを多くの人に広めることでその課題の解決に貢献できたらと思います。それでは最後にパラアルペンスキーの魅力をお聞かせください!

まず前提として知っていてほしいことは、パラアルペンスキーは実測で競う訳ではないということです。
速度にその人の障がいのクラスに当てられる数値をかけて、その値で競い合います。ですから、残存機能が多い選手ほどタイムに少ない数値を掛け、残存機能が少ない選手ほどタイムに大きな数値をかけます。そうすることで、障がい別に選手が戦うのではなく、立位、座位、視覚障がいの3つの枠内で様々な選手が競い合うのです。
それにより、1つの枠内で、様々な滑り方を見ることができます。選手それぞれ、その人の得意と不得意があり、滑り方に顕著に反映します。特性を最大限に生かした突き詰められた滑りが見られること、それが一番の魅力と感じます。

終わりに

今回はヘッドコーチへの取材ということで、スポーツ環境のみならず、コーチの仕事や日本障害者スキー連盟についてなど、多岐にわたってパラアルペンスキーの知識を深められた。
今回の取材で、パラアルペンスキーは現場でも応援できる、ということも知った。映像で見る限り、観客はどこでどのような応援をしているのかがわからなかったが、スキーが上手であれば、自分で登りレーンの脇で観戦できるそうだ。もし自信がなければ、ゴールの付近で待機して見ることもできるという。
この競技を現場に応援しに行くのは難しい環境であると、志渡さんはおっしゃっていた。

応援は選手にとって強い力になる、ということはいうまでもない。応援に行きにくい環境であっても足を運んで、あの迫力満点の豪快で素早く滑る選手の姿を実際に見に行き、応援したいと私は強く思った。


<放課後BEYONDとは>

2020年にハタチになる高校生や、新社会人となる大学生など、未来を担うTEAM BEYOND学生メンバーが放課後に集まり、パラスポーツについて学んだり、実際に体験したりしながら、同世代に向けて発信していくプロジェクトです。学生の声で、パラスポーツの魅力を発信していきます。

20180820

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