放課後BEYOND

「趣味はスポーツ観戦」サッカー、野球…何を観る?真のスポーツ通なら断然パラ!
―パラ卓球岩渕幸洋選手に会いに行ってみた

早稲田大学商学部三年 平山 真帆

「趣味はスポーツ観戦かなあ」―サッカー、野球、バスケ…趣味はスポーツ観戦だという人はたくさんいる。そんな皆さん、パラスポーツについての知識はお持ちだろうか。本当にスポーツを語ろうとするならばパラなくしては語れない、と思う。

パラスポーツ入門としておすすめしたいスポーツがある。それが「パラ卓球」である。初心者にもわかりやすく、パラならではの魅力を楽しむことができるパラ卓球。今回はパラ卓球界の注目選手、協和発酵キリン株式会社所属の岩渕幸洋選手にお話を伺った。障がいを活かしたプレースタイルを強みに戦い、リオ2016パラリンピック大会への出場経験もある岩渕選手。パラ卓球を観たことない人、知らない人も彼の言葉からパラの魅力、新たな気付きを得られるだろう。是非これを読んで真のスポーツ通になって頂きたいと思う。

「パラ卓球の醍醐味は駆け引き。相手の持っている障がいに応じて戦術を組み立てます。」

はじめに、私が岩渕選手を知るきっかけとなったテレビを始め、メディアに数多く出演されている理由についてお伺いした。
―パラスポーツの活動に関わり始めた時、パラについて調べていたところ、インタビュー記事や番組などで岩渕選手を頻繁にお見掛けしました。メディアに積極的に出ることなど何か意識されていることはありますか?
岩渕選手「そうですね、パラの試合ってなかなか結果を報道してもらうことがないので、お声をかけてもらったときはできる限り協力しようと思っています。僕らの試合ってなかなかライブ配信があったりすることはないので、自分でできるところは自分で三脚を立てて動画を撮って流したりですとか、たくさんの人に見てもらうために工夫はしています。」
―できるだけ多くの人に広めるためにご自身が広告塔となって活動されているんですね。ではこの記事でパラ卓球と初めて出会った多くの方へ向けて、岩渕選手から見たパラ卓球の魅力というのを教えてください。
岩渕選手「パラ卓球の醍醐味の1つはスピード感や速さもありますが、もう一つ、『駆け引き』の要素もすごく強いんですね。卓球ですと初めて見る方は玉の回転や駆け引きの部分まで目が行きにくいと思いますが、パラ卓球は必ず選手の体のどこかに障がいがあって観ている人にも弱点がわかりやすい、その弱いところを攻めていく『駆け引き』がある試合展開が魅力だと思います。例えば僕は左足が悪いので、左に動く範囲が狭いのが弱点です。パラ卓球は弱点がわかりやすいから戦術面もわかりやすい。そこが魅力だと思います。」
―岩渕選手は台の近くでプレーする超攻撃的なプレースタイルが特徴ですよね。
岩渕選手「はい、僕は左足が悪くて動く範囲が狭いので台の近くでプレーする前進スタイルを取っています。僕も結構動くので、岩渕足悪くないんじゃないか、みたいなことも言われちゃうんですけど(笑)。」
―確かに、私も試合を拝見したのですが、足首が不自由なのを全く感じさせないような勢いと速さでした。今年は卓球のクラス分け(パラ卓球は障がいの度合いによって11段階のクラスに分かれている)の見直しがあるそうですが、それによる影響などありますか。
岩渕選手「僕はたぶんTHE・クラス9みたいな感じなんで、変わらないと思うんですけど、僕の願いは世界ランク1位のベルギーの選手がずれてくれること、ですかね(笑)選手が増えてきて、いろんな障害の人がいて、クラス分けの基準が少しおおざっぱなので、クラスの基準が今回細分化されるみたいです。ぎりぎりの選手は、そこで動いたりすることがあるみたいですね。」

「明日足がなくなったとしても、ああクラス変わったなあ、くらいにしか思わない」

続いて、リオ大会への出場経験のある岩渕選手が2020年の東京パラリンピックについて思っていることや、ご自身がパラリンピックに向けてどのような取組をしているか伺ってみた。
―2020年のパラリンピックの会場が満員になったら多くの人にとって初めてパラスポーツを見に行くキッカケになると思うのですが、パラ卓球やパラスポーツ全体について観戦するときの心構えなどあれば教えてください。
岩渕選手「リオの時は大勢のお客さんが来てくれて、ブラジルの人はブラジルの人だけではなく、どの国の選手にも同じように声援を送っていたのが印象的でした。日本のお客さんにもどの国の選手にも同じように声援を送っていただければと思います。パラ卓球の応援の方法は特にないのですが、ラリー中は静かに見て頂いて、点を決めたら盛り上がっていただければと思います。」
―五人制サッカー(ブラインドサッカー)など音が重要なスポーツは、静かに見なければいけないんですよね。
岩渕選手「そうなんですよ、ブラインドサッカーとかゴールボールって本来静かに見なければいけないじゃないですか。リオの時は、ブラジルの人すごい盛り上がっちゃって(笑)。(ブラインドサッカーの選手が)もうリオのときは観客がうるさすぎて何も聞こえなかったって言ってました(笑)。陸上競技の時も目が悪い選手の時には掲示板に静かに、という注意書きが出るんですけど、結構盛り上がっちゃってましたね(笑)。」
―ブラジルの方の盛り上がり凄そうですよね(笑)。競技が円滑に行われるために観客側は『静かに見るべき競技は静かに見る』『電光板や係員の指示に従う』ことに注意しなくてはいけませんね。
岩渕選手「あとは、パラの試合ってあんまりないんですけど、来てもらったら結構マインドが変わると言いますか。僕もそうなんですけど、手とか足とかない人が普通の世界なんで、そこに長くいると、明日足がなくなったとしても、ああ、(卓球の)クラス変わったなあ、くらいにしか思わないんですね。普通の人は悲しむと思うんですけど。色んな人がいることを知ることで常識が変わる体験があると思うので、試合観戦にぜひ来られることをおすすめします。」

(目標を色紙に書いてくださった岩渕選手)

「東京パラリンピックで金メダル。フロント的な役割もできればいいかなと思っています。」

―リオ大会後、2017年は経験値を積む年、パラリンピック直前期までは手の内を見せず技を磨くとおっしゃっていましたが、今2018年を迎えて改めて2020年の東京パラリンピックに向けてどのように活動しているか教えてください。
岩渕選手「そうですね、試合経験というところで2017年にたくさん試合に出てがっつり世界ランクを上げて、準備の年へ向かうイメージだったんですけど全然勝てなくて」
―私の記憶ですと、昨年金メダルや銀メダルを多くとっていた印象があるのですが、『全然勝てなかった』とはどういう意味でしょうか。
岩渕選手「メダルはとれるんですよね。あまり格上に勝てなかったというか。今年ランキングが13位から9位に上がったんですけど、それも勝って上がったわけではなくて上の人がいなくなって棚ぼた的にあがったみたいな(笑)。今年もこのままじゃだめだなと思って。試合運びを向上するには実際に出るしかないですし、出れる大会にはたくさん出ていこうかなと思います。メインの大会は、10月にスロベニアで行われる世界選手権とアジアパラリンピックですね。そこの大きな大会で結果を出せるようにしたいです。」
―2020年の東京パラリンピックの目標を教えてください。
岩渕選手「ずばり金メダルですね。まあそれだけではちょっとつまらないので(笑)。試合以外のところで行くと、選手を取り巻く環境を良くするフロント的な役割も担えればいいかなと思います。今協会の方で、監督やコーチがいなかったり、ユニフォームが一着ずつしかもらえなかったりするんですよ。自分で買わないといけないんですよね。ユニフォームを2着以上支給してもらえるようになるっていうのは僕の悲願です(笑)。」
卓球だけではなく、パラスポーツ界全体がこのような問題を抱えている。背景には資金源が少なく、協会の方が、専業で運営するのが難しい状況などがあるようだ。
岩渕選手「僕たち選手側も、パラスポーツの価値っていうのを打ち出していって、貰うだけじゃなくてこちらも与えるというところで対等な関係を築いていけたらなと思っています。
―そうですね。私も少しそれに寄与することができるような活動をしていきたいなと思います。
岩渕選手「心強いですね。ぜひお願いします。」

「ようかん好きが高じて、学生時代、とらやにスポンサーについて頂きました」

―岩渕選手ご自身についてのご質問に移りたいと思います。中高大ですっかり「早稲田魂」をお持ちだと思います。大学の後輩として普段の学生生活をどのように過ごしていらしたのか気になるのですが、空きコマ(空いている授業の合間)は何をしていましたか?
岩渕選手「僕は教育学部で裏に練習場があるので、空きコマも練習、卓球漬けの毎日でした。」
―地球科学は理系ですよね?
岩渕選手「そうです。僕の友達が皆、理工学部とかにいくなか僕だけ教育学部で(笑)」 ―何を勉強してらっしゃったんですか?
岩渕選手「古生物を勉強していました、地学ですね」
―アンモナイトとかですか?
岩渕選手「僕が勉強しているのは有孔虫ってやつですね。沖縄に行った時に星の砂ってあるでしょ?あれ有孔虫なんですよ」
―砂じゃないんですか?(笑)
岩渕選手「砂じゃないんです。(笑)」
―よく食べていたワセメシ(早稲田のご飯)を教えて下さい。
岩渕選手「キッチンミキとか早稲田屋、焼き肉のえんまなどですね。練習後によく通いました。早稲田屋さんは卓球部を応援してくれていて、僕のサインも飾ってあります(笑)!今でも大学の体育館で練習がある時には利用しています。」
―何か試合前に必ず食べるものはありますか。
「ようかん。僕が色んなところでようかんが好きって言っていたら、学生時代、とらやさんにスポンサーについて頂きました。ファンの方からも差し入れにたくさんようかんを頂いたり、言ってみるものだなと思います(笑)。」

「世界のトップ選手が集まる中で自分の力を試したい。」

―最後に今秋に控える世界選手権と、アジアパラリンピックの意気込みを教えてください。
世界選手権ではベスト4、アジアパラリンピックでは優勝を目標にしています。世界選手権には昨年の世界ランク上位の世界のトップが集まるので、そんな中で自分の力を試してみたいなと思います。
―応援しております!本日はどうもありがとうございました。

終始素敵な笑顔で気さくに話して下さった岩渕選手。お話の中でも「明日足がなくなってもクラス分けが変わったな、としか思わない」とおっしゃっていたのが自分にとってかなり衝撃だった。私も全ての物事にそんな風に向き合えたらと強く感じた。

パラスポーツには私たちがまだ見ぬ世界、新たな価値観が広がっている。実際にまずは見に行って、パラの魅力をぜひその肌で感じてほしい。「趣味はパラスポーツ観戦かな」そんな言葉が多く聞こえるようになりますように。

(文責 早稲田大学商学部三年 平山真帆)


<放課後BEYONDとは>

2020年にハタチになる高校生や、新社会人となる大学生など、未来を担うTEAM BEYOND学生メンバーが放課後に集まり、パラスポーツについて学んだり、実際に体験したりしながら、同世代に向けて発信していくプロジェクトです。学生の声で、パラスポーツの魅力を発信していきます。

20180820

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