放課後BEYOND

伴走練習会に突撃!パラ陸上の立役者「伴走者」とは!?

鈴木 馨

こんにちは、横浜市立大学国際総合科学部3年、鈴木馨です。

実は私、高校時代陸上競技部のマネージャーを務めていました。しかしマネージャーと言えど運動神経が悪く(中高の体力テストは6年間4段階中下から2番目のCでした)、大学生になった今、唯一の運動といえば月に数回のランニングぐらいです。運動は好きだけど得意ではない、だけど高校時代マネージャーとして選手をサポートしていた経験がある、という私に、「パラ陸上を支える側になれる機会がある」とお誘いがあり、今回ある練習会に参加してきました。

<<ランナーを「ガイド」!伴走者の役割とは!?>>

それはパラ陸上を支える重要な役割、「伴走」です。みなさんは伴走をご存知でしょうか。伴走者(英語ではガイドと言います)とは、視覚障がいのあるランナーの横で一緒に走る人のことを指します。しかし一緒に走るだけでなく、走っている道の状況(段差があるのか、カーブが近くにあるのか、側溝などがないか、枝がないか)を伝えるのも、ランナーの命を預かる伴走者の重要な役割です。

ランナーのガイドなんて、なんだか難しそう……そう感じるかもませんが、実は伴走をするときに特別な資格は必要ありません。そして伴走を私たちも気軽に体験、練習できる機会があります。日本ブラインドマラソン協会が主催し、毎月第一日曜日に代々木公園で開催されている伴走練習会です。

《実際に伴走を体験!練習会に行ってみよう!》

この伴走練習会はランナー、伴走者合わせて毎月約100人が参加し、伴走の練習だけでなくランナーの方の練習もしています。そのうち約20人が初参加の方だそうです。40代が中心ですが、大学生から60代まで幅広い年代の方が男女問わず、参加していました。私は「練習会」という名前から自然と厳しく固いイメージを持っていたのですが和気藹々としていて、肩の力がスッと抜けました。興味はあるけどどのように力になればいいかわからない……、そんな人でも気軽に体験できるうってつけの機会です!

<<二人三脚で走り抜け!ランナーと伴走者の絆>>

私は伴走が初めてだったので、「伴走講座」に参加しました。伴走者約20人に対しランナーの方が3人ついてくださり、教わりながら伴走の練習をしました。
伴走といっても最初は歩く練習から始まります。伴走者は基本的にランナーの左側の一歩前につき、ランナーがつかみやすいように右肘を軽く曲げ、半歩から一歩リードするような形で進みます。伴走をするときに注意することは、何よりもランナーの安全を守ることです。私もアイマスクをしてランナー側の体験をしたのですが、少しの下り坂や段差も恐怖に感じてしまいます。何m先にどれくらいの長さの坂があるのか、急なのか緩やかなのか、伴走者が情報を与えない限り、道の様子はランナーには伝わりません。段差をおりるときにも「段差を一段おります」と言って先に伴走者がおりることで腕の下がり具合からどれくらいの段差なのかを感じ取ることができるのです。私たちが普段何気なく歩いている緩やかな坂は「見ているからこそ」自然に歩くことができているのだということに気づかされ、はっとしました。そこからは、伴走者と自分の足元だけでなく、数m先や周りの障害があるかについても気を配るようになりました。

代々木公園のランニングコースを一周歩き、いよいよ走る練習に移りました。歩くときには肘をつかめばよいのですが、走るときには肘をつかむとぐらついてしまうので、伴走ロープによってランナーと伴走者がつながります。伴走ロープは直径15㎝くらいの輪っか状なのですが、長さはランナーと相談して長くするのか短くするのか決める必要があります。私は今回、お互いの手の甲が触れるくらいの長さで体験しました。走るときには「二人三脚」で走ることが特に重要となります。お互いの内側の脚が前にでるときに「はい、はい」と声を出すことで伴走者とランナーがテンポよく走ることができるのです。また、走るときには伴走者はランナーの走り方に合わせなくてはなりません。その際一番重要なのが腕の振り方です。通常、一人で走るときには腕を内側に向けて振りますが、伴走者とランナーの両者が内側に振ろうとすると腕の動きがちぐはぐになってしまいます。そのため、伴走者が左側にいるときには右腕を外側に向けて動かすのです。そうすることでランナーは両腕を内側に向けて振ることができます。伴走者ではなくランナーが自然に走ることができることが第一。まさに「支える」とはこのことだと感じました
ランナーの方も、障害のレベルは様々です。生まれつき眼が見えない人、光だけは感知できる人、片目の中心だけは見える人……。障害のレベルやその人の個性に合わせた伴走をすることも重要なです。

代々木公園のランニングコースを2周ほどすると、私も徐々に慣れてきて、ランナーの方と話しながら走る余裕も生まれてきました。私が「まだ少し緊張しています」というと、ランナーの方は「私たちは伴走者に頼らなければ走ることはできないから、肩と腕に力が入ったらどう進めばいいかわからなくなるよ」と言われました。いい意味で緊張せず、力を抜くこともランナーをサポートするコツの一つなのだと感じました。
また、リラックスするだけではない大切なことにも気が付きました。それは声掛けです。「今のペースでいいですか?」「給水を取りますか?」など、お互いに気軽に声を掛けられる信頼関係を築くこともランナーの方と協力して走る伴走者の重要な役なのです。

<<ブラインドマラソン100回完走のランナーに聞く!伴走者との「信頼」>>

約2時間半、「伴走者として」の講習を終えた後、私はランナーの方の想いや願いを知りたくなり、生まれつき眼が見えなく、2004年から今までに100回フルマラソンを完走した荒谷惇子さんに取材をしました。
(写真中央が荒谷さん)

―荒谷さんが走り始めたきっかけは何ですか。
2004年に東京シティロードレースに参加したことがきっかけです。当時私は夫に肝移植をしたのですが、私自身が移植後に鬱状態になってしまい、気晴らしにと知り合いに誘われて参加しました。出場は一度きりの予定でしたが、完走したときの感動が忘れられず、その後も出場しています。東京シティロードレース後、練習会にも参加し、定期的に走るようになりました。
―荒谷さんの伴走者に求めることは何ですか。
私たちランナーは伴走者に命を預けて走っています。だからといって肩に力が入っているとランナーも走りづらくなります。リラックスして走ってほしいですね。あとは走者との信頼関係や思いやりが大事だと思います。お互いに無理をしすぎず、安心して走れる関係がいいですね。
―荒谷さんは100回もフルマラソンを完走し、100㎞のウルトラマラソンも15回完走されていますが、走るモチベーションになることはありますか。
走り始めたころ、私は肝移植を広めるためにマラソンへ出場し、鬱状態の辛さを思い出して走る辛さを乗り越えていました。しかし走っていくうちに楽しいことを考えながら走れるようになりました。あとはやはり完走したときの感動が忘れられず走っていますね。ウルトラマラソンは一日中、朝から晩まで走り続けます。そうなると日々のことを忘れ、無我の境地に入ることができます。最近だと、走り終わったあと何を食べようかな、などと考えながらフルマラソンを走っていますね(笑)
―2018年1月で70歳になるそうですが、今後の目標などはありますか。
80歳までフルマラソンを走り続けたい……と言いたいところですが厳しいかもしれません(笑)。走り続けることができる限り走りたいですね。

意外なことに、フルマラソンを100回以上完走されている荒谷さんも、ほぼ毎回違う人が伴走者となっているそうです。過去には高校生に2時間伴走について講習、体験をしてもらい、そのまま大会に伴走者として出場してもらったこともある、というお話には大変驚きました。毎回同じ伴走者と走ってその人と絆を強めることも重要ですが、先ほども書いたように、走っている最中やその走りひとつひとつに思いやりをもつことによって、初心者でも立派な伴走者になれるのです。

私たちがパラ陸上の力になる方法は、ボランティアやスタッフなど間接的な方法だけではありません。伴走者のように、直接力になることもできるのです。伴走練習会は初めての方でも丁寧に教えていただけます。私も練習会に参加しなければ「伴走は難しいもの」とずっと思っていたのかもしれません。重要なことはランナーへの思いやり、信頼、そしてあなたが一歩踏み出す勇気です。「自分にはパラ陸上の力になる方法はないのかな……」と思っている方こそ、気軽に参加してみてください。きっとパラスポーツの奥深さや、走る側、サポートする側のやりがいを感じ、魅了されることでしょう。

(文責:横浜市立大学 国際総合科学部3年 鈴木馨)


<放課後BEYONDとは>

2020年にハタチになる高校生や、新社会人となる大学生など、未来を担うTEAM BEYOND学生メンバーが放課後に集まり、パラスポーツについて学んだり、実際に体験したりしながら、同世代に向けて発信していくプロジェクトです。学生の声で、パラスポーツの魅力を発信していきます。

20180820

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