放課後BEYOND ニューススタンド

義肢装具士・臼井ニ美男さんの考える未来
第2回 「フェイク」じゃなくて「オリジナル」

かおるこプロフィール

1997年生まれ
■放課後BEYONDに参加した理由:
学生の目線で2020年について考えたり、伝えたりする良いきっかけになると思ったから。
■未来の東京が、こんな風に変わったらいいな:
様々な、人との「違い」を価値にできる環境

「義足ってかっこいい。」
素直にそう思い、すこしの羨ましささえ感じたほど、自身の義足について語る患者さんの顔は明るかった。

事故などによって足を切断せざるを得なくなった方の新たな人生を支える「義足」。
これを作るためには、熟練の技術はもちろん、患者さんとのコミュニケーションや信頼関係が大切になる。

一人一人の切断端の形状や義足の使用用途も様々であるうえに、その人の体の変化によって日々調整が必要になってくるからだ。

今回は、患者さんと義足を繋ぐコミュニケーターとして最前線で活躍されている義肢装具士・臼井二美男さんを取材し、自身の活動や義足のこれから、そして来たる2020年への思いについてお話を伺った。

■ 多くの人がつくりだすサポート環境

東京都荒川区にある公益財団法人鉄道弘済会義肢装具サポートセンター。
ここは、患者さんの入院・リハビリ、義肢装具の製作までを一貫してサポートできる施設であり、そんな環境は日本にあまりない。医師や看護師はもちろん、義肢装具士や理学療法士なども常駐し、患者さんを様々な角度から看ることができるのだ。

私は、そのリハビリ室に、足を踏み入れた瞬間、義足自体に抵抗はなかったものの、患者さんを目の前にした時、見慣れないその姿にドキッとしてしまった。
10人ほどの患者さんは、年齢も性別も様々。
共通点は、「義足を利用している」ということ。

股関節の下から伸びる金属の義足は、本来の「足」とは程遠い容姿であるものの、彼らの歩く様子はその存在を忘れさせるものだった。
そしてなにより、彼らの優しく明るい姿勢が私の緊張感をいつの間にか消してくれていた。

「同じ義足は一つもない。」これはのちに臼井さんから聞いた言葉であったが、それは様々な義足のデザインからもわかる。1人1人の好みに合わせたデザインが義足の表面を彩り、それは履くたびに気分が明るくなれる、そんな工夫に感じられる。

お気に入りのアニメのロゴを入れた男性は、誇らしそうに義足を見せてくださり前向きにリハビリへと戻っていった。また、仕事をしながら週5日の陸上の練習に勤しんでいるというパワフルな女性もいる。
話しているこちらが圧倒されるほどの気力と明るさが印象的な方ばかりだ。

しかし、そんな彼らの笑顔は「当たり前」ではない。
この施設の、医師とパラメディカルスタッフ(看護師、理学療法士など)による包括的なサポートがあってこその結果なのだ

現場では、患者さんと近い距離で接しながら、義足の状態などを確認するスタッフの方々をたくさん目にした。患者さん側も、一生の付き合いである義足だからこそ、それを支える人たちともそのような関係性を築いていくことが大事であるようだ。このような恵まれた環境の下で、患者さんたちの努力が重なり、たくさんの笑顔と挑戦が生まれていることを知ることができた。

■ 義足との人生の中に「目的」を

「もし私が明日足を失ったら?」
そう自分に問いてみると、恋愛はできるのか?友達にどう思われるんだろう?など様々な不安が出てきた。
実際の患者さんの精神状態も同じで、結婚や仕事への不安などで内気になり、部屋にこもってしまう方が大半だという。

そんな彼らに臼井さんは目標になりうるような、「なにか」を見つけていくことを勧める。絵画、スポーツ、楽器…。
患者さんの中に、なにか夢中になれるものや自分を表現するものが一つでも見つかればリハビリへの、そして人生への「目的」が自然と生まれるという。
そのようなものを持ってもらうことが、患者さんをリハビリへとモチベートする方法に繋がっていくのである。
「たとえ義足と一緒でも、その人のやる気次第で人生の選択肢はどんどんと広げられる。年齢は関係ない。」
臼井さんのこの言葉がとても印象的だった。

■「みんな一緒」の場所

臼井さんを象徴する活動のもう一つが、自身が主宰する切断障害者のスポーツクラブ「ヘルスエンジェルス」である。
切断を経験し、心をふさぎこんでしまう傾向にある患者さんが、スポーツを通じて少しでも自信や出会いを得られればという思いから始まった。
練習には、選手として本格的に陸上をしている人もいる一方で、健康維持や気分転換のために参加する方が大半だ。
また年齢層も様々で、下は小学生から在籍している。
年下であっても「義足の先輩」として、下から上の世代に教えられることは多いという。
患者さんの1人が、
「ヘルスエンジェルは、「みんな一緒」の場所。年齢も性別も、健常も障害も関係ないんです。」
とおっしゃっていたが、それに強く納得した。

■「こんな光景日本にない。」

臼井さんの研究室には、ヘルスエンジェルスの写真がたくさん貼ってある。
それはどれも患者さんの一体感と自信に溢れていた。

だが、患者さんが新しい挑戦を義足とともにしていくことはかなり難しいことであり、彼らの姿はまだまだ一般的なものではない。
臼井さんが、実際に陸上に誘っても多くの人が初めは戸惑いを感じるらしい。参加する前に、「自分には無理だ。」と諦めてしまう方も少なくない。
義足利用者に参加へのハードルを高くもたれてしまいがちなのが歯がゆいところであるという。

しかし、一度来ることを決めて参加した方はみるみるうちに変化していく。内向きな人が社交的になり、さらにその人の周りの方も元気になる、という笑顔の連鎖が生まれていくのだ。
「ヘルスエンジェルスを通じて仲間と挑戦することや自信を持つことにつなげてほしい」という臼井さんの願いを体現する参加者は日々増えているようだ。

■ 義足だから」と諦めてほしくない

患者さんの中には、「義足のことを親類にさえ言えていない」という方もいる。
また、義足に負い目を感じたりする人も多く、臼井さんは「様々な自分の可能性を殺してしまうことにつながってしまっていることは良くない」と考えている。

そんな人を減らすためにも、義足のイメージを変えていくことともに、利用者自身が義足に愛着を持てる工夫を考えていくのも義肢装具士としての仕事であるという。
そんな「仕掛け」にあたるのが、義足へのデザインの施しやヘルスエンジェルスの設立であるのだ。
最近では、義足利用者によるファッションショーに出演する方も生まれ、義足をむき出しにすることによる自己表現の動きが出てきている。
義足に対してこのような心持ちをできる人はまだまだ少数であるのは事実だが、今後増えていければいいと思った。そして、自分の義足に愛着と誇りを持つことがその人の人生を豊かにするための一歩なのだと感じた。

■ 臼井さんが描く2020年

「障害への差別をなくしていくきっかけになる年になれば。」
臼井さんにとってパラリンピックとは、障害について考える象徴的なイベントであるそうだ。
開催国である日本全体が、障害のある方を思い合って助け合うようになれば周りの国に刺激を与えていくきっかけになりうる、と話す。

義足に関しては、メインドインジャパンの製品を増やしていくことも目標の一つであるという。
現在義足部品はヨーロッパ製のものが大半であり、日本の技術は未だ発展途上である。より良い質と多くの用途に合わせた義足を国内で作っていけるような環境づくりが必要になってくるであろう。近年では、スポーツメーカーと義足の部品メーカーがコラボレーションした製品の人気も上がっている。
これからの義足の技術の発展が楽しみになった。
様々な観点から2020年を盛り上げながら、社会に残る障害への差別や偏見をなくしていくことが臼井さんの未来への願いである。

■ 取材を終えて
今回の取材を終えて、私の中で義肢装具士をはじめとする、「障害のある人を支える職業」への根本的なイメージを変えることができた。以前は、障害というマイナスを0にすることが大きな役割の職業だと思っていたが、臼井さんとのお話を経て、1以上のプラスに持っていくのが「支える職業」、というものに変わったのである。
障害のある人はもちろんだが、その方を支える環境の方々も障害に対して失望せず、むしろそれを無限の可能性に変えようとしている姿勢が見えた。
そんな彼らのマインドが社会に広がれば、明るい姿勢でサポートできる人が増える気がした。


<放課後BEYONDとは>

2020年にハタチになる高校生や、新社会人となる大学生など、未来を担うTEAM BEYOND学生メンバーが放課後に集まり、パラスポーツについて学んだり、実際に体験したりしながら、同世代に向けて発信していくプロジェクトです。学生の声で、パラスポーツの魅力を発信していきます。

20170830

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