

ブラインドサッカーの日本一を決する『第23回 アクサ ブレイブカップ ブラインドサッカー日本選手権』FINALラウンドが、2026年1月31日(土)、東京・町田市立総合体育館で開催されました。TEAM BEYONDの観戦会参加者88名が、決勝戦観戦のため、町田に集まりました。
決勝戦に進出したのは、東京を拠点とし昨年3位になった品川CC パペレシアル(以下、品川)と、広島県・広島市にあるA-pfeile広島BFC(以下、広島)の2チーム。 広島は、初の決勝進出を決めて東京・町田に乗り込んできました。
当日は、観戦ナビゲーターとしてパラスポーツを長年取材しているスポーツライターの宮崎恵理(みやざき えり)さんに、ブラインドサッカーの見どころや注目選手など観戦ポイントを解説いただきました。
さらに、今回は日本ブラインドサッカー協会の応援メンバーであるじゅんいちダビッドソンさんを特別ゲストとしてお招きし、ブラインドサッカーへの熱い思いを楽しいトークとともに披露いただきました。また、パラ陸上競技を題材に小説『伴走者』を執筆されている作家の浅生鴨(あそう かも)さんにもゲストとして参加いただき、ブラインドサッカーのボールやアイシェードを使ったミニ交流会のガイドと、視覚障害のある参加者の方に向けた解説を担当していただきました。



クラブチーム日本一を決める決勝戦

第23回を数える『アクサ ブレイブカップ ブラインドサッカー日本選手権』。今大会には全国21チームが参戦し、すでに千葉・成田会場、東京・葛飾会場での予選ラウンド、静岡・浜松会場での準決勝ラウンドが終了しています。一発勝負のトーナメントによる準決勝ラウンドを戦い抜いた最終4チームが、東京・町田のファイナルラウンドに集結しました。
この日、午前中に行われた3位決定戦では、昨年の決勝戦と同カードのコルジャ仙台とfree bird mejirodaiが対戦しました。それぞれ、昨年度の優勝、準優勝チームです。初優勝したコルジャ仙台をfree bird mejirodaiが4−0で下し、3位に。昨年の雪辱を果たしました。
「伸び代ですね〜!」
特別ゲストのじゅんいちダビッドソンさんが、本田圭佑(ほんだ けいすけ)氏になりきって参加者に挨拶。拍手喝采で観戦会のスタートを切っていただきました。じゅんいちさんは、この日決勝戦を戦う品川CC パペレシアルのエース、川村怜(かわむら りょう)選手のダイレクトボレーを見て、ブラインドサッカーに心を掴まれたのだとか。ブラインドサッカーの観戦は久しぶりとのことで、とても楽しみにしていました。
ボールとアイシェードを体験するミニ交流会
試合開始前には、実際に試合で使用されるボール、アイシェード、さらに「シャカシャカ」と鳴るボールに内蔵されたパーツを使用して、ミニ交流会が行われました。作家の浅生さんが音を響かせながら、ゴールキーパーやガイド、監督の声を頼りにプレーするブラインドサッカーの特徴について、解説します。

「じゅんいちさん、アイシェードを着用してみてもらえますか」
「あれ、全く見えない。前に体験した時のマスクとは全然違いますね〜」
「私がボールを振りますから、どこから音が聞こえているか、ちょっと当ててみてください」
そう言うと、浅生さんがじゅんいちさんの頭の後ろの方でボールを振って音を鳴らします。
「うーん、どこや。左の後ろの方かな、いや、頭の上?」
「今のは、真後ろでした」
「いや、全然わからんかったな〜。選手はすごいですね、この音を聞き分けてプレーするんですね」
ボールやアイシェードが参加者にも順番に渡され、体験していただきました。
「シャカシャカ」
音がする方に向かって指を向けるお子さんの参加者に「え、わかるん? 当たってるよ。ダイレクトボレー、できるんちゃいますか」と、じゅんいちさんは目を丸くして、参加者の方々の体験に驚きの声をあげていました。

品川対広島 いよいよ試合開始

品川CC パペレシアルは2023年のチャンピオン。川村選手、佐々木ロベルト泉(ささき ろべると いずみ)選手など、長く日本チームを牽引してきたベテランが所属し、決勝ラウンドの常連チームです。3年ぶりとなるチャンピオンを目指して決勝戦に臨みました。
対するA-pfeile広島BFCは、ブラインドサッカーだけでなくアンプティサッカー(上肢、下肢障害者のためのサッカー)、電動車椅子サッカーなどもある総合型スポーツクラブです。広島県出身の日本代表・後藤将起(ごとう まさき)選手を中心に、パリパラリンピック以降強化指定選手として選出されている林健太(はやし けんた)選手など若い世代の選手が活躍しています。2022年に行われた第19回大会で初めて3位決定戦に臨み、惜しくも4位になりました。そこから闘志に火がつき、「決勝進出、優勝を目指すぞ」と、今大会決勝戦を迎えたのです。
試合は、広島のキックオフで始まりました。両チームとも、ひとたびボールを保持すると、スピードのあるドリブルで相手陣営に切り込んでいきます。品川の川村選手が思い切り振り抜いたシュートを、広島のゴールキーパー村尾竜次(むらお りゅうじ)選手ががっちりとセーブ。広島の林選手と矢次裕汰(やつぎ ゆうた)選手がそれぞれ左、右サイドを駆け上がりながら、パスを多用して品川を揺さぶっていきます。


「選手同士はアイコンタクトもできないのにパスが通るのがすごい。選手の視線が見えないから、ゴールキーパーは球筋を読みにくくて、すごく守りづらいはずですよね」
サッカー熱のこもったじゅんいちさんの解説が、試合中にも参加者に届きます。
前半終盤、選手同士の接触がありました。広島の森島爽平(もりしま そうへい)選手が出血してしまいます。広島のフィールドプレーヤーは、森島選手を含めて4人。つまり交代なしで全員がフル出場しなくてはいけない人数で戦っていました。森島選手がベンチに下がり、3人でプレーを続行することとなりました。ほどなく木村陽一(きむら よういち)ヘッドコーチがタイムアウトを要求。その間、森島選手の出血が止まり、タイムアウト後に再びピッチに戻ることができました。
「予選ラウンドからこの決勝戦まで、ずっと4人で戦ってきたんですか。しかも、3人でプレーするなんで、初めてみましたよ」(じゅんいちさん)
両者譲らず、前半は0−0で折り返します。
特別ゲスト 鳥居健人選手
ハーフタイムには、もう一人、特別ゲストがスタンドに来てくれました。3位決定戦を戦い、2得点を挙げてチームを3位に導いたfree bird mejirodaiの鳥居健人(とりい けんと)選手です。昨年覇者のコルジャ仙台相手に4−0で勝利を決めました。

「僕も一人の選手として、決勝の舞台に立ちたかったという悔しさを抱えながらも、この決勝戦の前半、とても楽しみながら観戦していました」
開口一番、そう語ってくれました。
「初の決勝進出を決めた広島を含め、日本のブラインドサッカーのレベルがすごく高くなってきていると感じています。音の反響が大きい体育館でのプレーでは、さまざまな音を聞き分けるのが難しく、接触が多くなりがちです。でも、僕ら選手は、接触を一切怖がらない。そうした選手の勇気は、ブラサカの大きな魅力になっていると思います」
じゅんいちさんも、鳥居選手に質問します。
「これだけボディコンタクトが激しいと、その対応として体を鍛えたりするのですか」
「もちろんです。僕は体が大きい方ではありません。体幹を鍛えるトレーニングをしないと激しいぶつかり合いに対応できないんですね」
アイシェードをした選手が自由自在に動き回ることがブラインドサッカーの魅力ですが、それだけではないと鳥居選手が語ってくれました。
「ブラインドサッカーは、目の見えない人と見える人が協力しあって成立するスポーツ。そこが、他の競技にはない魅力だと感じています」
参加者の方々も、大きくうなずきながら鳥居選手の話を聞き、惜しみない拍手を送りました。

緊迫の後半戦
後半に入ると、広島はさらにスピードを上げ、ゴールに迫ります。矢次選手からパスを受けた後の林選手の素早いドリブルに、会場内からはどよめきが起こっていました。
後半開始から4分37秒。広島にフリーキックのチャンスが到来します。ペナルティエリアのすぐ外、右サイド寄りという絶好の位置から森島選手と林選手がフリーキックを担います。品川が作る4枚のカベの前には矢次選手と後藤選手。しんと静まり返った会場全体に、ガイドがポストを叩く音が鳴り響きます。そして、レフェリーの笛が鳴りました。

林選手がドリブルで正面に回り込み、そのままシュート。右足からの一撃がゴール左上に突き刺さり、広島が先制点を挙げました。

品川はその後、猛攻を仕掛けていきますが、後藤選手のディフェンスと、村尾選手の好セーブに阻まれ、得点に結びつけることができません。

試合時間、残り29秒。林選手からのボールがバックパスの反則となってしまいます。品川が、ゴール正面でのフリーキックとなる最大のチャンスを迎えました。笛が鳴り、川村選手が思い切り足を振り抜きましたが、広島の堅守に弾き返されてしまいます。その後、井上選手がドリブルしてゴールへと向かいますが、試合終了のブザーが響き渡りました。広島が1点を守り抜き、初優勝を遂げました。

激闘を振り返って
「ここしかないという場面で打って、決めた。過去一、嬉しかったです!」
そう喜びを爆発させたのは、先制点を挙げた広島の林選手。大会MVPを獲得しました。

ガイドを務めたのは、林選手の母・由香(ゆか)さんです。
「親子で決めるのが夢だったので、達成できてよかった、ちょっと気恥ずかしいですけど(笑)」
一方で、試合終了間近でバックパスの反則を取られ、最大のピンチを招きました。
「ゴールキーパーの村尾さんからのスローをうまくトラップできずに戻してしまった。もう、めちゃくちゃ反省です」
ピッチ両サイドで林選手と見事な連携を見せていた矢次選手も、次のように語ります。
「去年まではドリブルで突破していました。それは強みではあったけれども限界も感じていました。この1年、パスの精度を上げることに取り組んできた。林選手は音の認知が素晴らしくボールを扱う技術も高い。だから、いつもいいパスが飛んでくる。僕らは、落ち着いて主導権を握れたと思う」
広島とは初対戦だった品川の川村選手は、
「広島は誰もがすごく走り、どこからでも得点してくる。町田の体育館でのプレー経験は僕らの方にアドバンテージがあり、チャンスも度々作れていたのに、決めきれなかった」
と、悔しさを滲ませていました。
激闘の決勝戦を見届けたじゅんいちさん。
「これぞ、ブラサカという試合でした。ブラサカはサッカープラス格闘技。この激しさ、面白さは会場で観戦するからこそ味わえます。また、みなさん、ぜひ、試合会場に足を運んでくださいね」
と、応援メンバーとして、大いにアピールしていました。

様々な参加者と一緒に観戦

今回の観戦会でも、参加者がご自身のスマートフォンで解説や実況を聞くことができる「チアホン」という音声配信サービスを使用しました。車いす席はチームビヨンドの席から離れた場所にありましたが、チアホンを通じて他の参加者と一緒にお楽しみいただきました。

試合中も、チアホンを使って参加者の方からはたくさんの質問をいただきました。
「体育館だと音が反響して、 “ボイ”って言っている声が誰のものか、わかりにくいのではないですか」
「サイドフェンスに激突すると痛そうです。クッションをつけたほうがいいんじゃないかと思います」
「守備に戻る時など、歩数を数えたりしているのでしょうか」
「キーパーやガイドは暗号のような、サインのようなもので伝えたりもするのかな」
どれも、ブラインドサッカーに興味を持って観戦しているからこそ自然と湧き起こる疑問。じゅんいちさんも、一つひとつに丁寧に、また楽しく回答してくださいました。
初めて観戦した参加者からは、驚きの感想が寄せられました。
「あのスピードで走っているのが信じられない。見えていないとは思えなかった」
「じゅんいちさんがおっしゃっていた通り、サッカープラス格闘技を実感しました」
「応援しているチームが出ていて、とても楽しかった」
「生の試合を子どもたちに見せることができて、よかった」
「実際に選手たちが使うボールやアイシェードを体験できたのは面白かった」
などなど、観戦会を楽しんだ声もたくさん届けられました。

アクサブレイブカップ日本選手権以外にも、『LIGA.i(リーガアイ)ブラインドサッカートップリーグ』というトップチームによるリーグ戦も行われています。また、今年4月15日〜25日には、大阪で『IBSAブラインドサッカーアジア選手権 2026 in うめきた』が男女とも開催されます。ブラインドサッカーを生で観戦する楽しみを、継続していただけたらと思います。