パリでの活躍にも期待!ブラサカ日本一のチームを決める「第21回 アクサ ブレイブカップ ブラインドサッカー®日本選手権」観戦会レポート

2024.04.10
パリでの活躍にも期待!ブラサカ日本一のチームを決める「第21回 アクサ ブレイブカップ ブラインドサッカー®日本選手権」観戦会レポート

2024年3月9日(土)、「第21回 アクサ ブレイブカップ ブラインドサッカー日本選手権」が、町田市立総合体育館で開催されました。全国24チームが5グループに分かれて予選ラウンドを行い、各グループの上位2チーム(全10チーム)による準決勝ラウンドを経て、この日、3位決定戦と決勝が行われました。観戦会が実施されたのは、決勝戦。対戦するのは、パペルシアル品川とfree bird mejirodaiの2チーム。クラブチームの日本一決定戦をみなさんで観戦しました。

当日は、観戦ナビゲーターとしてパラスポーツを長年取材しているスポーツライターの宮崎恵理さんをお迎えし、ブラインドサッカーの見どころや注目選手など観戦ポイントを解説いただきました。宮崎さんの大会のレポートをお届けします。

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過去最多の24チームが出場。強豪同士の頂上決戦

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ブラインドサッカー(通称ブラサカ)の日本選手権である「第21回 アクサ ブレイブカップ」には、北日本地区から1チーム、東日本地区から10チーム、中日本地区から6チーム、西日本地区から7チームの合計24チームが参加。5グループに分かれて予選ラウンドを戦い、各グループの上位2チームの計10チームが準決勝ラウンドに進出しました。トーナメント方式による一発勝負で決勝戦に駒を進めたのが、パペルシアル品川とfree bird mejirodai。どちらも東京を拠点とするチームです。パペルシアル品川は、昨年のチャンピオン。対するfree bird mejirodaiは2022年のチャンピオンで、昨年は3位でした。強豪同士の頂上決戦です。

ピッチを間近で見ることで感じるスケール、選手たちの距離感

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試合前、主催者のNPO法人日本ブラインドサッカー協会のご厚意で、観戦参加者のみなさんと一緒にピッチサイドを歩きながら、ブラインドサッカーについて基本的なルールや見どころなどを説明しました。実際のピッチサイズは40m x 20m、フットサルコートと同じくらいのサイズです。ブラインドサッカーのピッチの特徴は、タッチライン沿いに設置されたサイドフェンスの存在でしょう。
フェンスのすぐ横に立ちながら実際に見て触れてみることで、“壁”であることを実感します。

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高さ1mほどの非常に頑丈なフェンスがあることで、ボールの跳ね返りを利用してプレーを続けることができ、選手はサイドフェンスがあることで、自分の位置を確認することもできます。

ゴール裏からピッチ全体を見渡しながら、味方のゴールキーパーや、相手チームゴール裏に待機するガイドについても説明しました。

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ピッチでプレーする4人のフィールドプレーヤーは、全員アイマスクを着用しています。目の見えるゴールキーパー、ガイド、そしてベンチにいる監督の3人が、選手にボールや相手選手の位置、動きなどのほか、向かうべき方向やゴールまでの距離などを的確に声をかけ続けます。ゴール裏から見ることで、ゴールキーパーやガイドからの見え方や選手たちとの距離感が少しでも感じられたのではないか、と思います。

インクルーシブな競技ブラサカ®
日本選手権には、女子選手、アイマスクを着用した晴眼者(目が見える人)がフィールドプレーヤーとして試合に出場できる特別ルールになっています。

ブラインドサッカーのボールの内部には金属の小さなプレートが入っており、転がすと「シャカシャカ」という音がします。この音によって転がり方やスピードなどを選手たちは把握するわけです。

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ボールを持っていない選手が、ボールを持っている選手やボールを追いかける際、「ボイ(Voy)!(スペイン語で行くという意味)」という声を出さなくてはいけない、というルールがあります。危険な衝突を防ぐための大切なルールで、声を出さないと「ノースピーキング」という反則を取られます。参加者の中には、胸に大きく「Voy!」の文字があしらわれたTシャツを着用した方がいらっしゃいました。すでに熱烈なブラサカサポーターですね。
この後、スタンドに移動し、今大会の決勝戦を戦うチーム、注目選手について解説しました。

多数の日本代表候補を抱える2チーム
昨年度覇者のパペルシアル品川、一昨年覇者のfree bird mejirodaiにはともに現在日本代表選手として活躍する選手が多数在籍しています。

赤いユニフォームのパペルシアル品川の注目選手は、東京2020パラリンピックの主将を務めた川村怜選手、佐々木ロベルト泉選手、寺西一選手といった長年男子日本代表チームを支えてきたベテラン勢です。

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ロベルト選手(背番号7)は、ブラジル・サンパウロ生まれで、父方の祖母が長野県出身という縁で来日しました。2006年に通勤途中の交通事故で両目の視力を失い、そこからブラインドサッカーを始めました。日本国籍を取得して、東京2020パラリンピックに日本代表選手として出場しています。小さい頃から裸足でサッカーボールを追いかけていたブラジル仕込みのサッカーで、チームを盛り上げています。

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川村選手(背番号5)は、東京2020パラリンピックの順位決定戦、スペイン戦で見事なループパスで貴重な1ゴールをアシスト。土砂降りのゲームでスペインから勝ち星をあげました。山なりのループパスはボールが転がる音が消えてしまいます。相手チームを惑わすことができますが、味方がボールを見失うリスクも高い、非常に難しいテクニック。それを大事な試合で発揮してゴールにつなげられた。どれほど練習を重ねてきたかを証明するシーンでした。この話をすると、観戦参加者の方が大きくうなずいていらっしゃいました。テレビ、動画などでご覧になったのでしょう。ブラインドサッカーは、サッカーとしての魅力に溢れています。

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一方で、水色のユニフォームのfree bird mejirodaiには、東京2020パラリンピックの時に高校生選手として出場した薗部優月選手をはじめ、現在日本代表チームの中核を担う鳥居健人選手、丹羽海斗選手、永盛楓人選手(丹羽、永盛選手は今大会不出場)や女子の若杉遥選手が在籍しています。

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薗部選手(背番号7)は、現在、日本大学文理学部に通う20歳。川村選手のプレーや姿勢から、リーダーとしての行動、哲学を学んでいることが自身の成長につながっていると語ります。連携プレーの起点としてゲームメイクする姿に目を奪われます。

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鳥居選手(背番号11)は、11歳からブラインドサッカーを始めた32歳。ブラサカの魅力は空間認知能力の高さなのだとか。「空間認知能力」、なかなか聞きなれないキーワードです。選手たちは、さまざまな音を聞き分けながら、進む方向や距離感、3次元でのボールの位置などを把握しています。

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例えば、目をつぶって、あるいは目隠しをして、家族や友人に手を叩いたり「こっち、こっち」と声をかけてもらい、その方向に体ごと向ける(正対する)ことをやってみると、案外音に集中して体を向けることができることがわかります。自宅や公園など安全な場所でゲーム感覚で、ブラサカを体感してみていただけたら、と思います。

さらにfree bird mejirodaiには、若杉遥選手(背番号14)がプレーしています。若杉選手はもともとゴールボールの日本代表選手として、2012年のロンドンパラリンピックで金メダル、東京2020パラリンピックで銅メダルを獲得しました。東京大会の後、ブラサカに転向。今は女子日本代表強化指定選手となるだけでなく、この試合でも黄色いキャプテンマークを腕に巻き、チームを牽引します。

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素早く綺麗に形作られるダイヤモンド陣形
スタンド席からは、ピッチ全体が見渡せます。決勝戦に進出した2チームはいずれも鉄壁のディフェンスが強み。ボールが相手チームに渡った瞬間、すぐに自陣に戻って、ダイヤモンドの陣形を形成します。「本当に見えないの?」と驚くほど、スピーディに正確に陣形を作る様子が見られるのは、スタンドで観戦する醍醐味でしょう。

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ブラサカ®ならではの応援
ところで、ブラインドサッカーには、大事な応援ルールがあります。それはプレーが続いている間は、声を出して応援してはいけない、というものです。プレー中は静かに、ゴールが決まったら、選手と一緒に喜びを爆発させます。

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試合は、開始直後からコーナーキックのチャンスを重ねたfree bird mejirodaiが攻め込みます。薗部選手が右サイドからセンターにいる鳥居選手(背番号11)にパス、そこからドリブルで運んだ鳥居選手が左足を振り抜いてゴール!先制点を決めました。「スロースターターなチームだから、とにかくチャンスが来たらゴールしようと思っていました。カットインできて、まだ距離はあるかもしれないと思ったが、思い切り振り抜いたのがよかったです」(鳥居)

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前半残り1分を切ったタイミングでパペルシアル品川の森田翼選手がフリーでシュートを打つも枠を捉えられず、free bird mejirodaiが1点リードでハーフタイムを迎えました。

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今回は、観戦会用のLINEオープンチャットをつくり、試合観戦中も参加者から質問を受け付けました。ガイドエリアラインのことやチームファールについてなど、様々なご質問やコメントをチャットでやりとりしながら観戦しました。

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後半すぐに今度はパペルシアル品川が猛攻を仕掛けます。キックオフからのボールを受けた森田選手(背番号20)が切り込み、ターンしてシュート。これがゴール右隅に決まり、イーブンに戻しました。

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しかし、その3分後、今度は薗部選手が左コーナーキックからのドリブルでゴール。「ロベルト選手の守備がとてもかたかったが、しっかり体を入れて振り切りました」(薗部)

さらに、ナショナルユーストレセン指定選手として成長中の北郷宗大選手(背番号15)が、川村選手の激しいプレスを受けながらも、1対1の攻防を振り切って追加の3点目を決めました。ゲーム中、ループパスが飛び出したり、ガイドがフリーキックの際にゴールポストを金属の棒で叩いて選手に位置を指示する場面など、解説していたことが実際に見られる場面があり、その都度、観戦者のみなさんからは「ほうっ!」という大きなためのようなささやかな声が聞かれました。

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試合は、free bird mejirodaiが逃げ切って優勝しました。
free bird mejirodaiの山本夏幹監督は「トータルフットボールがチームのテーマ。鳥居、薗部、北郷が持ち味を生かして決め切った。今大会ですごく成長を感じられました」と試合後、語ってくれました。女子の若杉選手もフル出場。「誰がピッチに出ても、同じレベルで戦える。まさに“トータルフットボール”を体現できた」とチーム全員が喜びを口にしていました。
今大会、準決勝以降に6得点を挙げた鳥居選手が得点王、ベストゴールキーパー賞にはfree bird mejirodaiの泉健也選手、そして大会MVPには決勝点を挙げた北郷選手が選出されました。

さまざまな参加者と一緒に観戦
今回の観戦会では、ロービジョン(弱視などの視覚障害)の観戦者も4名参加していただきました。イヤホンからの場内実況アナウンスに加え、今回はQDレーザ社が開発した「RETISSA(レティッサ)」という特殊な機器を使用して、試合を観戦していただきました。

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レティッサは、ちょうど顕微鏡のようなフォルムで手に持ってのぞき込むことができます。半導体レーザから生み出されるフルカラーの微弱なレーザ光が網膜を高速で走査することで、直接画像が投影されるメカニズムを備えています。見えにくい人が、映画を見るように試合そのものを見ることができる最先端技術の機器です。
小学2年のお子さんも、このレティッサを使って試合を観戦しました。
「最後にゴールを決めた北郷選手が、めっちゃかっこよかった!」と、ゴールシーンを振り返ってくれました。

今回、初めてブラサカを観戦するという参加者の方も多数いらっしゃいました。
「アイマスクをしていることを忘れてしまうほど、全速力で走る選手に思わず“すごい!”と声が漏れそうになりました」「サイドフェンスの頑丈さがわかりました」など、ブラサカの魅力を感じていただいたようです。

一方で、TEAM BEYONDの観戦会に今回で参加5回目という方からは、「2019年に初めて車いすラグビーの試合を観戦して、その魅力に夢中になりました!」というコメントともに「宮崎さんの解説が楽しみでこの観戦会に応募しました」という嬉しいお言葉も。少しでもパラスポーツ観戦に貢献できたとしたら、解説冥利に尽きる、というものです。

2023年度は、車いすラグビー、パラ陸上競技、パラバドミントン、車いすバスケットボール、そしてブラインドサッカーの5競技を観戦していただきました。どの競技も全力で取り組むパラアスリートの強さ、激しさからスポーツとしての醍醐味を感じられたのではないか、と思っています。

パリでの活躍にも期待!
今年8月には、パリパラリンピックが開催されます。東京2020パラリンピックで開催国枠として初出場したブラサカ日本代表は、今回自力で出場権を獲得。現在世界ランキングは3位と、メダル獲得を狙えるポジションです。決勝戦で戦った選手たちも数多く出場することでしょう。今大会の観戦で感じた興奮を、パリ2024パラリンピックでもぜひ味わっていただきたいと思います。

20240410

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