過去を振り返らず前へ
2018年10月6日~13日、インドネシア・ジャカルタで開催された「インドネシア2018アジアパラ競技大会」は、眞田卓にとって“4年前のリベンジ”を誓った舞台でもあった。2014年の前回大会、眞田は男子シングルス決勝でストレート負けを喫した。その相手は、2008年北京、2012年ロンドンとパラリンピック連覇を果たした国枝慎吾。今年世界ランキング1位に返り咲いた“王者”だ。果たして今大会もまた、男子シングルス決勝で顔を合わせた眞田と国枝。その結果は――。
【“世界王者”からの初勝利で東京パラへ】
「4年前は国枝さんと組んだ男子ダブルスで金メダルを取って、シングルスで優勝した国枝さんが二冠を獲得したんです。だから今度は僕が金メダルを2つ持ち帰るつもりです」
眞田は今シーズンのはじめにそう語っていた。
今大会、車いすテニスは唯一、アジアパラでの優勝者に2020年の東京パラリンピックの出場権が与えられることとなっていた。そのため、金メダル獲得は2年後の“本番”にもつながっていた。
しかし、眞田が最も強くこだわっていたのは国枝に勝つことにあった。現在、世界ランキングで1ケタ台に君臨しているのは、国枝と9位の眞田の2人。眞田は長らく国枝に次ぐ“国内2位”の座を守り続けてきた。これまで自分よりもランキングが上位の海外選手には何度も勝利をあげている。ところが、国内最大のライバルであり、世界最強の国枝には未だ一度も勝っていない。公式戦での対戦成績は5戦全敗。だからこそ、国枝と決勝で顔を合わせることが予想されたアジアパラは、眞田にとっては大きなチャンスだった。
果たして、眞田と国枝はそれぞれ順当に勝ち上がり、決勝での対戦が実現した。その前日に行われた男子ダブルスではペアを組んだ眞田と国枝は優勝。金メダルの一つを手にしていた。ここまでは筋書き通りだった。
第1セットの序盤は、まさに互角だった。1ゲーム目にいきなりブレークしたのは眞田だった。ところが、2ゲーム目には国枝が眞田のサービスゲームをブレークバック。3、4ゲーム目も互いにブレークしあうという一進一退の試合展開となった。
しかし、5ゲーム目以降は一転、国枝が主導権を握った。デュースまでもつれた6ゲーム目、眞田は大事なところで痛恨のダブルフォルトで国枝にポイントを与え、続く7ゲーム目も眞田は2度のゲームポイントを逃して国枝に連続で奪われた。そして8ゲーム目はラブゲームで自らのサービスゲームをブレークされ、2-6で第1セットを落とした。
【国枝の好守備に阻まれた勝機】
第2セットに入ると、国枝の守備が光った。終始攻め続けた眞田だったが、厳しいショットにも国枝は食らいついて打ち返す好守備を見せた。眞田も、会心のショットが決まるとガッツポーズをして自らを鼓舞。ゲームカウント2-4で迎えた7ゲーム目には、国枝がこの試合初めてダブルフォルトするなどし、眞田がラブゲームでブレークしてみせた。これでゲームカウントは3-4となり、眞田にも十分挽回の余地があった。
しかし、さすがは世界王者。国枝は“勝負どころ”となった8ゲーム目をきっちりとブレークしたのだ。そして優勝まであと1ゲームとした国枝は、眞田に付け入る隙を与えることなく一気に決めてみせた。
2-6、3-6でストレート負けを喫した眞田。これで国枝との対戦成績は0勝6敗となった。
「試合内容は、ずっとオフェンシブルなテニスができたので決して悪くはなかったと思います。厳しいコースを突けていたので、国枝選手が攻撃に転じることが難しいような状況は作れていました。ただ、それを上回る国枝選手のディフェンスの強さに正直驚きました。この厳しいコンディションの中で、あれだけ走って、つなぎ続けた国枝選手に完敗でした」
だが、その表情に落胆の色はほとんど感じられなかった。
「もともとの実力にスコアほどの差はないと思っています。同じ銀メダルでも、4年前とはまったくテニスのレベルが違うので、意味合いは違うかなと。今取り組んでいることをしっかりとやり続けていけばという手応えはあるので、東京まで焦らずにじっくりと積み上げていきたいと思います」
目標としてきた“4年前のリベンジ”を果たすことはできなかった。しかし、眞田は過去を振り返るつもりはない。2年後の“本番”に向けて、淡々と歩み続けていく。ただそれだけだ。
(文・斎藤寿子、写真・竹見脩吾)