密着!パラアスリートの肖像 ~陸上(走幅跳T12クラス)・澤田優蘭選手②~

2018.08.02

未完だからこそ、高まる期待

密着!パラアスリートの肖像 ~陸上(走幅跳T12クラス)・澤田優蘭選手②~

助走の勢いを活かし、より遠くへ跳ぶことを競う、走幅跳。わずか10秒ほどの競技の中に、大きく分けて、助走、踏み切り、空中姿勢、着地の4つのパートがある。それぞれにテクニックが求められ、さらに、それらをうまくつなぎ、精度を高めていく作業が必要な、難しくも奥深い競技だ。

その競技に魅了されたアスリート、澤田優蘭(マッシュスポーツラボ)は今季、好スタートを切った。初戦となった5月上旬の世界パラ陸上グランプリシリーズ(GP)北京大会で、走幅跳女子T12クラスの日本新記録となる5m70をたたき出したのだ。 

約1年前に初めて5mを超え、自らがつくった5m03の日本記録を大きく塗り替える、まさに、“大飛躍”だった。

【足踏みから、見えた課題】

密着!パラアスリートの肖像 ~陸上(走幅跳T12クラス)・澤田優蘭選手②~

続く6月中旬のGPパリ大会では記録更新は逃すも、5m30を記録。安定して5m台を出せるようになってきた中、澤田は6月末から7月初旬にかけ、好調の今季前半を締めくくる、2連戦に臨んだ。

1戦目の、第23回関東パラ陸上競技選手権大会(6月30日、7月1日/東京・町田市)では強い風にも翻弄され、記録は5m28にとどまった。

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「5m50が目標だったので、記録も内容も納得していません。課題は明確。助走が安定せず、ファウルが続いたことと、着地の乱れで距離をロスしたことです。」

収穫もあった。1本目、2本目をファウルした後、助走のスタート地点を後ろに下げた。強い追い風で踏み切りが合っていないことをコーチに指摘されたという。その調整がきき、3本目で5m28をマーク。

さらに、この日は6本目も手応えがあったという。記録は5m20だったが、「ずっと乱れていた着地姿勢がやっと修正できました。この跳躍が安定してできれば、5m50はいける、と思えるジャンプでした。」

とはいえ、短期間での調整は難しく、1週間後の7月7日、8日に群馬県前橋市で開かれた、ジャパンパラ陸上競技大会では、5m01の記録に終わる。

1本目をファウルした後、助走を調整した2本目は4m90。3本目、4本目では着地姿勢も意識したが、4m89、4m91と伸ばしきれない。「修正が、うまくまとまった」のが5本目で、5m01を出したが、6本目はいつもより上に跳んで失速し、ストンと落ちる形で4m77に終わった。

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「今日は記録を狙って意識しすぎたあまり、助走で突っ込んでしまいました。少しずつ修正しながら6本の跳躍が終わってしまった感じです……」と、悔しさをにじませた。

次の試合は9月1日、2日に香川県高松市で開幕する第29回日本パラ陸上競技選手権大会になる。

「1カ月ちょっとあるので、少し休んで連戦の疲れをリセットしてから、明確になった課題に取り組み、次こそ、5m50をしっかり跳びたいです。」

【大切なのは、タン、タ、タンのリズム】

密着!パラアスリートの肖像 ~陸上(走幅跳T12クラス)・澤田優蘭選手②~

課題のなかから、まずは、「助走の安定」を目指す。

澤田は今、助走を17歩で走る。視覚障がいのため、見えるのは左右と足元だけで、正面は真っ暗。正確な位置で踏み切るために、歩数を数えて目安にしているのだ。昨季は19歩だったが、「長すぎると失速する」と気づき、最も速度が上がった時点で踏み切れる距離として、今季から2歩、距離にして約3m短くしたという。

同じ17歩でも、その日の調子や風などにより1歩の距離が微妙に変化する。練習を重ね、17歩でちょうど踏切板に到達できる感覚を磨くしかない。

さらに、助走で貯めたパワーを跳躍に活かすには、「ラスト3歩のリズムが特に重要」と澤田はいう。「タン、タ、タン」と16歩目を短く刻むようにリズムを変え、17歩目の踏み切りにつなげる。助走で蓄えたパワーをまとめ、空中方向へとスムーズに重心移動するイメージだ。

失敗ジャンプのときは、このリズムが「タン、タン、タン」と単調のまま、貯めのない形で跳ぶことになり、パワーが逃げてしまう。

ジャパンパラ大会では4本目まで助走距離が合わずに16歩が短く刻めず、「腰が遅れて踏み切る形となり、跳んだ感覚がなかった。やっと助走の足が合い、踏み切りのリズムまで意識できたのが5本目の1本だった」という。

「タン、タ、タン」のリズムを体に覚え込ませ、試合で再現する精度を上げることを、この夏に目指す。

【課題はすべて、伸びしろでもある】

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澤田は今季から本格的に100m走にも挑戦し始めた。助走スピードが上がれば、それだけ蓄えられるパワーも増し、跳躍距離の伸びにもつながる。

すでに手応えもある。6月上旬の布勢スプリント(鳥取市)で1310をマークし、日本記録を10年ぶりに塗り替える快走を見せたのだ。関東大会では向かい風もあり、1362だったが、ジャパンパラでは1318と調子を戻した。

弱視の澤田はトレーナーも務める塩川竜平ガイドとロープを握り合って走る。コンビネーションがさらに高まり、筋トレによる脚力アップも加われば、まだタイムもアップしていくだろう。

上がっていく助走スピードをさらに活かせるよう、「空中姿勢」の改良にも取り組んでいる。助走での手足の動きをそのまま空中でもつづけて推進力につなげる、「シザース」と呼ばれるフォームだ。「完成度はまだ50%。距離に活かせていない」というが、100%を目指して跳び続ける。

着地にもテクニックが要る。できるだけ踵にお尻を近づけて着地することが大切で、足が先に行き、後ろにバランスを崩すと距離のロスになる。20~30cm変わることもある。澤田は障がいのため砂場との距離を視覚でつかみにくく、恐怖感もあって足が先に着地しがちだ。何度も跳んで、理想の着地姿勢を取るタイミングを感覚でつかむしかない。

最終目標は、「2年後の東京2020パラリンピックで、金メダル」。だが、「まずは課題を一つひとつクリアすることが大切」と話す澤田はまだ、発展途上。言い換えれば、それは、伸びしろだ。

それぞれの完成度と精度が高まり、すべてがかみ合ったとき、“大飛躍”はまた、きっと生まれる。

(文・取材:星野恭子)

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