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世界パラ陸上の成功は、パラリンピックにある!?  ~パラスポーツ事情・ロンドン編~

2018.02.26
世界パラ陸上の成功は、パラリンピックにある!?  ~パラスポーツ事情・ロンドン編~

2017年7月、 “世界パラ陸上ロンドン大会”が開催された。 期間中、チケット販売枚数は30万枚を超えた。
写真は、イギリス選手のウイニングランに盛り上がる観客。

ロンドン・スタジアム。

2012年のオリンピック・パラリンピックが開催された競技場だ。ここで今年、7月に世界パラ陸上ロンドン大会、8月には世界陸上ロンドン大会が開催され、再びトップアスリートたちによって熱戦が繰り広げられた。

世界パラ陸上のチケット売り上げは約30万枚強。1日に2万から3万人が観戦した。この成功はロンドンパラリンピックに関係あるのではないか……まずはそこから探ってみたい。

CMが盛り上げたパラリンピック

ロンドンパラリンピックの成功の鍵は、広告だったかもしれない。パラリンピックを「広告で表現する」という発想は、それまでとても少なく話題に上がることもなかった。ゆえに世界中で大きな話題となったイギリス公共放送局チェンネル4が放った、パラリンピックCM「Meet the Superhumans」は、まさに革命だった。CMのマーケティングリーダーであるジェームズ・ウォーカー氏はこのCMについてこう説明する。

世界パラ陸上の成功は、パラリンピックにある!?  ~パラスポーツ事情・ロンドン編~

「ロンドンパラリンピックは、障がいや障がい者スポーツへの見方を根底から覆す最高のチャンスでした。だからどう表現すれば視聴者は、ability beyond disability (=障がいを超えたところにある能力)に注目するかを考えました。

そこで時間をかけて話し合い、一人の障がい者がどのような体験を経てパラリンピック選手になったのかという過程を映像にすることで、視聴者にも共に歩んでもらえるのではないかという結論になったのです。例えば、赤ちゃんの状態についての知らせを受ける時の親、紛争や事故などの場面は静止画面にし、障がいを受け止めてからパラリンピック選手が誕生したというストーリーを一つの旅路として表現しました」

彼らの意図は、まさにドンピシャだった。世界中があのCMに注目し、話題にした。後にパラリンピックCM「Meet the Superhumans」は、世界最高峰のクリエイティブが集う広告の祭典、「カンヌライオンズ 2013」でグランプリを受賞する。CMがロンドンパラリンピックの成功を後押ししたのだ。

(写真:イギリス公共放送局チャンネル4、パラリンピックをCM広告で表現した意義を聞いた。)

イギリスと日本、何が違うのか

世界パラ陸上の成功は、パラリンピックにある!?  ~パラスポーツ事情・ロンドン編~

チャンネル4は、世界パラ陸上ロンドン大会でも、競技の様子を連日生放送で中継した。

2012年以前、イギリスでも障がい者や障がい者スポーツへの理解は定着していなかった。しかし、理解を進めるためのCMは完成させたのだ。一方、今後日本でその環境が整うだろうか、そして日本の障がい者スポーツの競技環境はどうなのだろうか。

現在、イギリスのニューカッスルにあるノーザンブリア大学に留学中のパラ水泳のメダリスト・鈴木孝幸選手(クラス:S5/SB3/SM4)はトレーニング環境についてこう話す。

「僕が留学先にイギリスを選んだのは、S4、S5といった重度のクラスで強い選手がいたからです。僕の場合、ドライランドトレーニング(水泳選手が陸上で行う筋力トレやストレッチなど)は一人でできないのですが、僕の通う大学のジムには専属トレーナー、アシスタント、さらには実務経験を積むことを目的とするスポーツコーチング学科の学生などが常駐しています。だからいつも誰かがそばにいてサポートやアドバイスをしてくれます。日本ではこの環境はありません。

それでも十分な意思疎通という点では日本のほうがいいです。細かい部分などは、分かってくれているコーチのもとで練習するほうが安心です。だから僕の中では、イギリスと日本は五分五分なんです。要は、どこにいても自分のやる気次第。僕自身、性格的に新しいことはウキウキしてやりたいタイプなので、今の環境も大丈夫なのかもしれません。

来て良かったと思っています。2020では、この経験を生かして文化の違う人たちへのおもてなしのお手伝いもできると思います」

同等である……ということの意味

世界パラ陸上の成功は、パラリンピックにある!?  ~パラスポーツ事情・ロンドン編~

ロンドンパラリンピックも世界パラ陸上も、多くの子供達が会場に訪れ大会を楽しんだ。
子供達にとってこの経験こそが大きな財産となり、未来へ引き継がれていくような気がしてならない。

ロンドンパラリンピックも今回の世界パラ陸上も、組織委員会が健常者の大会と同じであったことも成功の一因だと思われる。パラリンピックがどちらも同じ比重でマーケティングをして丁寧に作り上げていったように、世界パラ陸上もそうしたのであろう。また前述のウォーカー氏は、あのCM放送をしたチャンネル4は公共放送であるため、「社会問題に対してさまざまな考え方があることを示し、人々の固定観念に挑戦する義務がある」と話す。つまり、パラリンピックをオリンピックと同等・同格に扱うことが同局の使命だったとも言える。少なくとも、「子どもは大人より偏見がありませんでした。分からないことは素直に質問し、純粋にパラリンピック観戦を楽しんでいましたよ」と氏は続けた。

このあたりに、競技大会の成功と観客動員につながるヒントがあるのかもしれない。

取材・写真:越智貴雄
構成:棟石理実

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