密着!パラアスリートの肖像(アジアパラ編)〜車いすフェンシング・加納慎太郎選手

2019.03.22

“秘策”を上回った相手の“経験値” 

密着!パラアスリートの肖像(アジアパラ編)〜車いすフェンシング・加納慎太郎選手

2018年10月6日~13日、インドネシア・ジャカルタで開催された「インドネシア2018アジアパラ競技大会」。開幕の数週間前から練りに練った“秘策”を持って現地入りをしたのが、加納慎太郎だ。コーチさえも知らなかったという“秘策”とは――。

【一歩先を行く“アジアの目標”との対戦】

密着!パラアスリートの肖像(アジアパラ編)〜車いすフェンシング・加納慎太郎選手

大会2日目の7日。その日は加納にとって今大会最大の“勝負”の日だった。彼が最も得意とするのはフルーレ。今年は4月のW杯モントリオール大会では銀メダルを獲得している種目だ。

予選を通過し、決勝トーナメントに進出した加納は、ベスト8に進出を果たした。準々決勝の相手はチャン・メン・チャイ(香港)。そのこと知ると、加納は「よし、ついにきた」と意気込んだ。

「彼とは何度か対戦していて、いつも僕よりも一つ上にいく選手で、アジアの中では目標とする選手なんです。だから大会前から彼との対戦を一番に考えてきました。彼に勝つことでもう一歩上の段階にいって、自信をつかみたいと思っていました」

その相手に対して、加納にはある秘策があった。通常よりも剣の長さを4~5cmほど短くしたのだ。車いすを固定して行われる車いすフェンシングでは、試合前に剣を持った状態で腕を伸ばし相手との距離を計測し、ルールに則った距離で行われる。そこで加納は剣を短くすることで相手との距離に変化を与えようと考えたのだ。

「それともう一つは、相手は前に突っ込んでくるプレースタイルなので、その時に操作しやすい短い剣の方がかわして攻撃権を奪うことができるのではないかと考えました」

序盤は、加納の作戦が的中した。チャン・メン・チャイはいつもとの違いを感じながらも、その原因がわからずにどこか困惑しているように感じられたという。そのためチャン・メン・チャイはいつものようには試合の主導権を握ることができなかったのだ。

1-0、1-1.1-2、1-3、2-3、3―3……
試合は一進一退の様相を呈した。

【豊富な経験が生み出した“試合巧者ぶり”】

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しかし、6-5と加納が1ポイントリードしたところから相手に4本連続でポイントを奪われ引き離された。試合後、これが「勝敗をわけたポイントだった」と加納は語った。

「序盤の流れのままいっていたら結果はわからなかったと思うのですが、中盤に相手が試合を止めたりして、なんとか流れを変えようと模索してきていました。それに対して僕が何も変えずにやってしまったことが敗因だったのかなと思います」

実は6-7となった時点で、試合は一度、中断している。相手がレフリーに物言いをつけてきたのだ。加納も相手が何を要求したかはっきりとは聞き取れなかったと言うが、相手のしぐさからすれば、おそらく車いすがきちんと固定されていないということをアピールしたのだろう。

そこでもう一度タイヤの部分の締め直しが行われたが、加納はそれによって相手との距離が微妙に変わったように感じたという。そしてその“中断”が、その後のパフォーマンスに少なからず影響したことは否定できず、相手の“試合巧者ぶり”を感じずにはいられなかった。

結果は9-15で、加納は準々決勝敗退となった。

密着!パラアスリートの肖像(アジアパラ編)〜車いすフェンシング・加納慎太郎選手

「さすがだなと思いました。試合のポイントを見つけて流れを引き寄せるのがうまいなと。技術はもちろん、経験値においても10年以上やっている彼と、まだパラ経験もなく4、5年という競技歴しかない自分との経験値の差が出てしまった感じでしたね」と加納。「ただ、前回対戦した時よりも内容は良かったし、相手を焦らすことができたのは確かだったと思います」と手応えも口にした。

今後の目標は「認識される選手」ではなく「認められた選手」へとステップアップすることだという。
「『あぁ、加納っていう選手がいるよね』とただ認識されて終わるのではなく、『メダルをとってもおかしくない』というふうに世界から認められた選手になって、東京に臨みたいと思います」

そして、こう続けた。
「何事も一歩一歩です」

1年半後の“栄光”を目指し、着実に、確実に、成長していくつもりだ。

(文・斎藤寿子、写真・竹見脩吾)

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