キャプテンとして、守備の要としてチームを牽引する須藤悟=平昌パラリンピック最終予選:撮影/荒木美晴
3月9日に開幕する平昌パラリンピック。活躍が期待されるパラアイスホッケー日本代表は、前回のソチ大会は出場権を逃したが、昨年10月の最終予選で勝利し、2大会ぶりのパラリンピック出場を決めた。低迷する苦しい時期に、重責を背負いながらも力強くチームを牽引したのが、須藤悟キャプテンだ。目標に掲げるメダル獲得に向け、大会をどう戦い抜くのか。本番を目前に控え、静かに闘志を燃やす須藤キャプテンに話を聞いた。
―― パラリンピックでメダルを獲得するためには、まず予選グループで2位以上になる必要があります。日本は初戦で韓国(世界ランク3位)と、また第2戦でアメリカ(同2位)、第3戦でチェコ(同6位)と対戦します。いずれも日本(同7位)より格上のチームですが、それぞれの印象と対策は?
韓国は開催国としてメダル獲得は至上命題。ソチの前に一度Bプールに落ちましたが、そこから這い上がって今は世界3位ですから、そのメンタルはすごいと思います。キーマンはエースFWチョン・スンファン。彼が動けばチームも動くという印象なので、彼を自由にさせないプレーをいかに我々ができるかがカギになると思います。
アメリカは、カナダと世界の2強といわれるチーム。パワーもスピードも戦略もメンタルも、超一流です。隙はないように感じますが、シュートと思わせてパスとか、意表を突くプレーができればと考えています。
チェコはアイスホッケーの国なので、展開の読みや詰め方がうまい。身長190㎝を超えるミハエル・バペンカが守護神で、プレーヤーの「アイツで入っちゃったらしょうがない」というGKに対する絶対的な信頼感が、このチームの強さだと思います。日本はいかにゴール前で数的有利な状況を作り出すかがポイントになると思います。
全員で円陣を組み、士気を高めていく=平昌パラリンピック最終予選:撮影/荒木美晴
―― そのなかで、日本が目指すプレーは?
相手がどれだけ強くても、ミスを最小限に抑えて、自分たちのやるべきことを見失わないこと。そのうえで、プレーの精度を高め、最終予選の時のように先制点を挙げてリズムをつかめれば、予選突破するチャンスはあると思っています。日本チームの平均年齢は41歳(3月9日開会式時点で41.9歳)と高いですが、付き合いが長い分、相手の考えが感覚的にわかりますし、「あうんの呼吸」でできることも多い。だてに年を取っているだけじゃないところを見せたいですね。
―― 須藤選手は4度目のパラリンピックとなりますが、印象に残っていることは?
私自身はソルトレーク大会が初出場。試合展開も、どういう生活をしていたかも、まったく覚えていません。パラリンピックは、それくらい頭が飛んでしまうような舞台でした。
―― 代表メンバー17人のうち半数がパラリンピック未経験者です。最後まで戦い抜くにあたって経験者としてのアドバイスはありますか?
パラリンピックが終わったあとに、「やっておけばよかった」と後悔することのないようにしてほしいです。パラリンピックは世界選手権や最終予選とは別レベルで、文字通り世界最高峰の大会。やって足りないことはないので、そこは経験者の話として真摯に受け止めてもらいたいですね。
―― 1月の「2018ジャパン パラアイスホッケーチャンピオンシップ」で、日本は韓国、チェコと直接対決しましたが、いずれも敗れてしまいました。浮き彫りになった課題、またそれを本番に向けて、どう修正していきますか?
パックを全員で運んでアタッキングゾーンで自分たちのやりたいフォーメーションがあったのに、みんなパックにつられて動き、運ぶ前にニュートラルゾーンで相手につぶされてしまいました。それで焦って私もミスをしてしまい、さらに失点という場面もありました。ただ、原因は全員が認識しているので、本番まであとわずかですが、プレーヤーの連携の精度を上げていきたいです。
報道陣の質問にいつも丁寧に答えてくれる=2018ジャパン パラアイスホッケーチャンピオンシップ:撮影/植原義晴
―― 最後にこの競技の魅力と、平昌パラリンピックへの意気込みを聞かせてください。
パラアイスホッケーはスレッジというそりに乗って、両手に持った2本のスティックで漕ぎながらシュートやパスを繰り出す競技。同時に複数の動作を行うスティックワークは他にない面白さだと思います。また、バックスケーティングがないのがアイスホッケーとの決定的な違い。小さなターンで瞬時に向きを変えて相手と駆け引きをする、パラアイスホッケーならではのプレーを観てもらいたいです。
パラアイスホッケーは本当に面白い競技だと思うので、私も20年続けてきました。ただ、日本国内の競技人口は30名前後ととても少ないのが現状です。パラリンピックで注目されれば若い人の目にもとまるだろうし、結果を出すことがチームの未来につながると思うので、しっかり頑張りたいです。パラアイスホッケーの灯を消すわけにはいきませんから。
聞き手・文:荒木美晴(MA SPORTS)
須藤 悟(すどう さとる)
1970年10月3日生まれ、北海道苫小牧市出身。ポジションはDF。20歳の頃、仕事中の事故で両下肢を切断。1997年に新聞記事でパラアイスホッケーを知り、その後、地元のチーム・北海道ベアーズで競技を始める。パラリンピックには、ソルトレーク、トリノ大会に連続出場。バンクーバー大会では銀メダルを獲得した。平昌大会では、日本選手団の主将を務める。