ラケットを持った状態で巧みなチェアワークを見せる国枝慎吾選手(ユニクロ)=第33回飯塚国際車いすテニス大会(ジャパンオープン):撮影/荒木美晴
身体などに障がいを持った人が行うスポーツを「障がい者スポーツ」あるいは「パラスポーツ」と呼ぶ(ここでは「パラスポーツ」とする)。パラスポーツには、リハビリテーションや余暇として取り組むものから、”障がい者スポーツの祭典”と呼ばれるパラリンピックまであり、その意味合いは広い。ちなみに、「パラリンピック(Paralympic)」の呼称は、「もうひとつの(Parallel)+オリンピック(Olympic)」という意味に由来している。
2020年東京パラリンピックで実施される競技は、アーチェリー、陸上競技、ボッチャ、カヌー、自転車、馬術、5人制サッカー、ゴールボール、柔道、パワーリフティング、ボート、射撃、水泳、卓球、トライアスロン、シッティングバレーボール、車いすバスケットボール、車いすフェンシング、ウィルチェアーラグビー、車いすテニス、バドミントン、テコンドーの22競技。バドミントンとテコンドーは、東京大会から新たに正式競技に採用される。
障がいと言っても、車いすの選手や切断で義手や義足を着けている選手、視覚障がいの選手、知的障がいの選手などさまざまだ。そのため、選手の障がいやその程度に応じて、ルールや用具に工夫をしたり、クラスを分けたりして行う競技が多い。
一例を挙げると、車いすテニスは一般のテニスと同じコートを使用するが、「2バウンド以内の返球」が認められている。また、3肢以上に障がいを持つ選手による「クァード」クラスで握力が弱い選手の場合は、テーピングでラケットと手を固定するなどの工夫をしている。
アーチェリーでは、両手に障がいがあるため足で弓を引く選手もいる。また、視覚障がいの選手による柔道は、組んだ状態から試合を開始するルールになっている。
水泳では、背泳ぎ以外でも、障がいにより飛び込みスタートが困難な選手は、プールに入水し、水中からのスタートが認められている。また、視覚障がいでプールの壁の位置が見えない選手は、ターンやゴールの直前にコーチが棒(タッピングバー)で選手の身体をタッチして知らせることができる。選手とコーチのコンビネーションも見どころのひとつだ。
陸上では、義手、義足、競技用車いす「レーサー」など、選手は自分に合った用具を用いて競技に臨む。聴覚障がいの選手は、競争種目でピストルの音が聞こえないため、スタート時に光るシグナルを使うこともある。また、視覚に障がいがある選手を支えるサポーターの存在も欠かせない。障がいが重いクラスは、選手とひもを握り合い、声をかけたりして誘導する「ガイドランナー(伴走者)」、走幅跳など跳躍種目や、砲丸投などの投擲種目で踏切の位置や投げる方向を教える「コーラー」が活躍している。
(写真:水泳のタッピングのシーン。タイムロスが生じないよう、選手とタッパー(タッピングする人)の呼吸が大事=ワールドパラ水泳公認2017ジャパンパラ水泳競技大会:撮影/荒木美晴)
「ポイント制度」もパラスポーツならではのルールだ。車いすバスケットボールとウィルチェアーラグビーで採用されている。これは、障がいの程度に合わせて選手一人ひとりに「持ち点」が設定され、1チームの合計点の上限を、車いすバスケットボールは5名で14点以下、ウィルチェアーラグビーは4名で8点以下とするものだ。持ち点は、両競技とも0.5点刻みで、車いすバスケットボールは4.5点~1.0点、ウィルチェアーラグビーは3.5点~0.5点となっており、点数が大きいほど障がいが軽く、点数が少ないほど障がいが重くなる。
それぞれ、選手交代をする際、またメンバーを入れ替えた後の合計も、上限以下でなくてはならない。つまり、必ず障がいの重い選手を入れなければならないのだが、彼らの身体を張った献身的なプレーがチームの命運を決めることもあり、一般の競技とは違う魅力を味わうことができる。
また、ウィルチェアーラグビーは男女混合の競技。コート上でプレーする4選手の組み合わせ(ライン)に女子選手が入る場合、ひとりにつき0.5点プラスされるというルールがある。つまり、チームの合計点が8点を超える編成が可能になる。持ち点「0.5」点の女子選手が1人入れば、あとの3人は持ち点の高いメンバーを起用することができ、攻撃の幅がぐっと広がることになる。
このように、パラスポーツならではの見どころを知ったうえで観戦すれば、より競技の面白さや奥深さを感じることができるはず。国内の大会の多くが無料で観戦できるので、ぜひ会場に足を運び、その魅力に触れてほしい。